それでも、愛してる

なにやら面妖な感じのする作品だった。荷が重い仕事のせいか、長男との不和のせいか、自己表現力が足りないせいか、それともそれらが重なったせいか、心を病んで更に(?)口の重くなったウォルター(メル・ギブソン)が、ビーバーのぬいぐるみを片手にすると、しゃべるしゃべる。しゃべっているのはビーバーであってウォルターではないらしい(確かにぬいぐるみに人格があるように見えて怖くなる瞬間もあった)のだが、客観的には下手な腹話術に見える。大人なら、ビーバーの言葉を借りてウォルター自身がしゃべっていると受けとめるだろう。そういう状況だから、てっきりコメディかと思っていたら、えらいシリアスで、しかもメル・ギブソンの演技が絶品で(ウォルターがビーバーに支配されそうになるなど)状況に現実味が感じられるので、なんとも摩訶不思議なテイストだと思った。

今思うに、病んだウォルターの中では、早く治して愛する妻子と幸せに暮らしたい気持ちと、妻子といえども理解し合うのは不可能なので独りで生きるしかないという思いの葛藤があったのだろう。ビーバーが現れて(ビーバーが潤滑油となって)別居していた妻子と暮らせるようになったところまではよかったが、再び別居となってビーバーが本性を現す。「俺たち二人だけだ(独りで生きるしかない)」。それを断ち切ることによって本当に家族のもとに帰れたのだろう。
ウォルターとビーバーの闘いだ。これは結局、一人で乗り越えるしかないということだろうか。

妻メレディス(ジョディ・フォスター)は、ウォルターが病気になったとき、早くよくなるようにとの思いで支えとなっていただろう。しかし、辛気くささに家族が巻き込まれるという非常事態に際しては、子どもへの影響も考慮して別居という判断をせざるを得なかったのだと思う。それでも、息子ポーター(アントン・イェルチン)に様子を見に行かせたり、夫を支えようとしている。
家族や医師などからサポートを受けながら、一人で乗り越えなくてはならない部分のある病気だったという感じがする。

ポーターが父に近親憎悪を感じていたのが、憧れのノラ(ジェニファー・ローレンス)と付き合ううちに父親への思いも変わってきたらしいのはどういうわけか、イマイチ私の中ではつながらないのと、映像が終始暗かったのが残念なところだ。

THE BEAVER
監督:ジョディ・フォスター
(シネマ・サンライズ 2012/12/13 高知県立美術館ホール)

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