オズ はじまりの戦い

『砂の器』や『ゼロの焦点』、昔の火曜サスペンスなどなど、犯罪者の心に寄り添った作品に感動したのなら、現実世界の加害者にも「物語」があるかもしれないと想像してみてもよさそうなのに、なかなかそうはならないみたいだ。夢も同様で、まれに夢のお告げの影響を受ける人はいるかもしれないが、ほとんどの場合、夢は夢でしかないだろう。ただし、夢の方は現実からかなりの影響を受ける。

現実世界のオズ(ジェームズ・フランコ)はひどかった(笑)。いつか偉大なことを成し遂げると野心だけは大きいが、ルックスと物腰を武器に女性を騙し放題、仕事仲間の助手をちっとも大切にしない、都合が悪くなると逃げてばっかり。それでも何だか憎めないのは、足の不自由な女の子に「治して」と言われたとき本当にすまなさそうな表情だったし、思い人の女性(ミシェル・ウィリアムズ)が「結婚を申し込まれているの」とやってきたとき(彼女はオズが好きなのだ)、いい加減な自分は彼女にふさわしくないといった面持ちで(オズは彼女が好きなのだ)、彼女のために結婚を促したからだろう。

実際、彼はそんなに悪い人間じゃないと自分でも思っていて、夢の中では善人だけが通れるというバリアをなんとか通り抜ける。夢には願望が現れるというが、陶器の少女の壊れた足を直したり、善い魔女グリンダ(ミシェル・ウィリアムズ)の期待どおり人々を悪い魔女から救う。治してあげかった少女の足を治し、いつか偉大なこと成し遂げるという夢を夢の中で叶えたのだ。お猿のフィンリーだって、オズは都合のよいように彼をこき使っているけれど、真っ先に「自分は予言の魔法使いではない」と打ち明ける。誓約上オズから離れられないフィンリーは、仕事上オズから離れられない助手と一致する。現実世界のオズは、助手が自分から離れられないことを見越して、こき使うのも女性を欺している姿を見られるのも平気なようだったが、夢の中でオズの本当の気持ちがわかってくる。オズは助手を頼っているし、彼の期待に応えたいと少しは思っていたのではないだろうか。

夢は夢でしかない。目ざめたら忘れていることもしばしばだ。だけど、オズが目ざめたとき、この夢を覚えていて、あの好きな女性に「自分はそんなに悪い人間ではなかった。君にふさわしい人間になるから。」と言って他人との結婚を促したことを取り消したらどんなにいいだろう。そうしてほしいと願わずにはいられない。

セオドラ(ミラ・クニス)/エヴァノラ(レイチェル・ワイズ)

OZ: THE GREAT AND POWERFUL
監督:サム・ライミ
(2013/04/03 TOHOシネマズ高知3)

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