殺し

長年観たかったベルトルッチのデビュー作。テーベ川のほとりで発見された女性の死体。殺したのは誰か。事件当夜に現場付近にいた人々を警察が訊問し、それぞれの証言によって一連の事実が浮かび上がっていく。一見『羅生門』形式ではあるけれど、各人の証言が矛盾することも思惑が交差することもないので、いずれが真実かというような奥の深い面白さはない。また、誰がなぜ殺したのかもあまり問題とされていないので深みには欠けるような気がする。この映画の面白さは、容疑者たち(置き引き専門のチンピラ、金貸し女のヒモ、十代の仲良し二人組、兵士、サンダル男)が、いかにもイタリアンというか、庶民やねぇというか、その心のちょっとした動きのスケッチが上手いところだ。それに作品の構造が時間芸術といわれる映画にふさわしく上手くできている。容疑者たちのそれぞれの証言で唯一共通のにわか雨が降るところにくると、ある女性が身支度を始めて・・・・、出かけて・・・、というふうに必ずその女性が現れて話が進んで行き、実は彼女が殺されると最後にわかる。『運命じゃない人』みたいに凝った作品に比べると単純かもしれないが、その分しっかりとした構築力を感じさせられた。そして、何よりも、強風に紙くずが舞う印象的なファーストシーンから、夜の広場の詩的な静けさ、川沿いの横移動、サンダルの音が響くダンスシーンにいたるまで、映画的な魅力に溢れていたことがベルトルッチ・ファンとしては嬉しいところだった。

LA COMMARE SECCA
THE GRIME REAPER
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
(ベルトルッチとイタリア名作選 高知県立美術館 2013/11/23)

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