いとしきエブリデイ

う~ん、やはりウィンターボトム作品は、いいなあ。ドラマチックな出来事はほとんどなくて(当人たちにとっては結構大変だろうけど)ささやかな喜怒哀楽が淡々と綴られていく。ただそれだけなのに、じわ~んと感動した。この感動は、音楽とか演出とか、そういうテクニックが充実しているということもあるのだけれど、やはり家族が揃うことの幸せをお裾分けしてもらったことが大きい。
夫が刑務所でお務めの5年間、カレン(シャーリー・ヘンダーソン)が4人の子どもを抱えてどれだけ大変だったか、イアン(ジョン・シム)が帰ってきてからの弾け具合(木登り~)で実感としてわかった。あの開放感。肩の荷が下りた感。肩車してもらってよかったねー。一家6人、林を抜けて海に出るラストシーン、素晴らしかった。
イアンの方も家族との面会が終わって房のベッドにふて寝する表情から、忸怩たる思いや自分自身への憤りのようなものを感じているのがうかがえたし、出所後、妻に浮気の告白をされ激怒したけれど、5年間堪え忍んで取り戻したものを再び手放すようなことにならなくてよかった。
子どもたちも愛くるしいままに、いつの間にか大きくなっていた。父のお務め期間が、むずかしいお年頃の手前だったのもよかったかも。仲のよい両親の元で育つのは子どもにとっての幸せだ。
田園風景、林や海の景色、室内の色んなものの色彩も美しかった。

EVERYDAY
監督:マイケル・ウィンターボトム
(シネマ・サンライズ 2014/07/30 高知県立美術館ホール)

「いとしきエブリデイ」への6件のフィードバック

  1. 「いとしきエブリデイ」をご覧いただき、ありがとうございました。

    ウィンターボトム作品を見て何だか励まされた気持ちになるのは、人間の弱さや不安、不信や怒りと同じように、思いやりとか心遣いとか優しさとか、人間の徳目とでも言うべき感情や表情、行動がつぶさにとらえられているからでしょうか。今回の場合は特に、ひとつの家族に焦点をあてているので、家族間で交わされるそうした徳目を見ていると、それが人間への肯定感と感じられて、自分も励まされたような、背中を押されたような気持ちになるのではないでしょうか。

    もっとも、ウィンターボトムは道徳的に映画を作っている人ではないので(何せ、シリアル・キラーを扱った「バタフライ・キス」で鮮烈デビュー、近作は「キラー・イン・ミー」という人ですから)、そうした関係性の危うさも十分承知していますね。最後の海辺の家族のロング・ショットも、シニカルに考えるなら、夫婦の関係が破綻してしまって、男がエディであるという結末も有りえたわけですから。そうならなかったことが「必然」ではなくて「偶然」かもしれないという視点も、微妙に感じられるエンディングでした。だから、「偶然」は「奇跡」にまで高められるのかもしれませんが。
     

  2. ガビーさん、こちらこそ、ウィンターボトム作品を上映していただいて感謝です。本当にありがとう!しかも画面密度が高く美しく、イアンが出所してカレンとチークダンスするシーンなんか、とろけるような映像でマジカル・ウィンターボトム健在と言いたくなりました。

    >今回の場合は特に、ひとつの家族に焦点をあてているので、家族間で交わされるそうした徳目を見ていると、それが人間への肯定感と感じられて、自分も励まされたような、背中を押されたような気持ちになるのではないでしょうか。

    よくぞコメントくださいました(^o^)。
    実は私もそう思っていまして、エンドクレジットの最中に「これはジョン・レノンがオノヨーコの作品を初めて見た、あれと同じ肯定感」と独りごちていたのでした。有名なエピソードですよね、天井に何かあって脚立を登って虫眼鏡でそれを見ると「yes」と書かれてあって、ジョンがいたく感動したという話。

    >だから、「偶然」は「奇跡」にまで高められるのかもしれませんが。

    いやん、ガビーさんたら、名言やないですか!(拍手)

  3. お茶屋さん、こんにちは。

     先の拙サイトの更新で、こちらの頁をいつもの直リンクに拝借したので、報告とお礼に参上しました。

     >夫が刑務所でお務めの5年間、の段に綴っておいでのとこ、いいですねー。僕も本作のハイライトは、イアンの出所後の場面に集約されているように感じています。

     むかしから原因究明とか真実追求って凄く価値あることのように語られ、ややもすると、それが最重要事のように扱われているような気がしますが、もういい歳になって、これって本当なんだろうか?という気がしてきています。まぁ、それ自体も大事なことなんでしょうが、少なくともより大事なのは今後のことのはずですよね。本作は、そういう視座を持っていて、そこに生きる力と知恵を見出しているように感じられる出来映えが素敵でした。

     議論することの大切さとかっていうのにも、同じような??を感じています。どちらも、それは手段なりプロセスであって、それ自体が目的では決してないはずなのに、そこんとこが目的化してしまっている本末転倒が多すぎますよね。

     随分と横道に逸れてしまいましたが、どうもありがとうございました。

     また、併せてこの機会に・・・(笑)
    >ガビーさん、
     ぜひ『キラー・インサイド・ミー』の上映、ご検討下さいね。

  4. ヤマちゃん、リンクとコメント、ありがとうございます!
    原因究明、真実追究、議論紛々は、より良い今後のために必要なものなんだろうけど、頭でっかちで地に足がついてないと空回りしちゃうってことかな。
    その点、本作の登場人物は生きるのに精一杯で頭でっかちになる暇なし。ままならない人生だけど、こうしたい、こうなりたいという希望があって、そこに向かって生きていくという自然な姿は、原因究明とか真実追究とかの窮屈なイメージからはほど遠いですね。

    話は変わりますが、感想かかなきゃ、ヤマちゃんにもリンクしてもらえないじゃんねぇ。その前に映画を見なきゃって感じです~。10月は3本しか見てないんですよ~~。

  5. ヤマちゃんが「キラー・インサイド・ミー」を見たいと言うのは、よ~くわかるのですが、ミニ・シアター系でもレイトに振り分けられそうな作品なので、なかなか難しいです。作品の評価も、賛否が結構分かれているし、デビュー作で同じようにシリアル・キラーを扱った「バタフライ・キス」を超えるのは、なかなか難しいんじゃないかなあ・・・。

    将来的に、“誰か”が変態映画特集を組むことがあれば、その中の一本として僕もお奨めします。

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