苦役列車

『ヤング≒アダルト』のメイビス(シャーリーズ・セロン)の男性版・・・・。ただし、こちらはメイビスより若いので、もっと迷いがあって、もうちょっと青春映画っぽくなっていた。あのバブル期にこんな青春があったのだ。浮かれて騒ぐとはほど遠い、くすぶる青春、のたうちまわる青春。とぼけた感じのアレンジ「線路は続く~よ、ど~こまでも~」の調子でどこまでもすすめたら、違う景色に巡りあえるのだろうか。それでも、あの調子の北町貫多(森山未來)が女の子にモテる日はくるのか甚だ疑問だ。本性を隠せないむき出しの男、北町貫太19歳。それはそれで立派。

日下部正二(高良健吾)/桜井康子(前田敦子)/高橋岩男(マキタスポーツ)/古本屋(田口トモロヲ)

監督:山下敦弘
(2012/07/21 TOHOシネマズ高知1)

へルタースケルター

日本人の心は荒廃していると思う今日この頃。もちろん私の心も例外でなく、数年前、「別に」発言でエリカ様をバッシングした人たちをバッシングし返したい思いに駆られていたのであった。←ちょっとウソ。最も美しい二十代の数年を仕事を干され、『パッチギ』『手紙』を残して私たちの目の前から消えてしまうとは映画界の損失。←本心。楽しみが奪われた嘆きで私は憔悴しきっていたのであった。←大嘘。
そんなわけでエリカ様の復帰作とあれば見逃すわけにはいかないのに、ちょっと見た限りのネットではさんざんな評価で、さほどの根性がない私はさっそくひるんだが、幸いヤマちゃんが「おもしろかった」と言うので辛くも初志貫徹できたのであった。←本当。

そして、美しさを売り物にするのは大変だな~と一種のむなしさを感じて感動しかかった。そう、ここで終われば私は感動したまま映画館を後にしたはず。ところが、りりこの写真集が復刊されて、美しさがまだ売り物になっている!(へぇ~、「目グサッ」効果があったんや~。)りりこ死しても商品は死なず。そうか、商品としての美の消費期限というのは、美しくなりたい女性がいるかぎり需要が途切れることがなく、もしかしたら永遠なのかもしれない。う~む、そういう映画だったのか、へぇ~、ほぉ~と感心しかかった。そう、ここで終われば私は感心したまま映画館を後にしたはず。ところが、「りりこ目グサッ」「写真集復刊」の後も延々と続いて、りりこ生きてるやん!(驚愕)
う~ん、そこまで描くのであれば、香港のりりこは目を覆うばかりの醜い姿になっており、「外見の美しさが滅んでも、どっこい生きている、生きられる」だった方が力強い作品になったような気がする。無残な姿になりながらも生きているりりこの強さ儚さを表現できていたら、天然美女がなんぼのものやねんという、なかなかの作品になったのでは(?)。(それだけの作品に仕上がったとしても大森南明は浮いていると思うけど。桃井かおりはすごい!拍手。もちろん、エリカ様には大拍手。これからもたくさん映画に出てね。)

りりこ(沢尻エリカ)/麻田誠(大森南朋)/羽田美知子(寺島しのぶ)/吉川こずえ(水原希子)/錦ちゃん(新井浩文)/ママ(桃井かおり)

監督:蜷川実花
(2012/07/19 TOHOシネマズ高知9)

彼女と彼

直子(左幸子)が素晴らしい。英一(岡田英次)の可愛く色っぽく溌剌とした妻というだけでなしに、子どもたちのケンカをやめさせようとしたり、田舎から出てきたクリーニング店の若者にも、夫の大学時代の友人で現在は廃品回収をしている伊古奈(山下菊二)や、伊古奈が面倒をみている目の不自由な少女花子(長谷川まりこ)にも分け隔てなく親切で優しい。だけど、見知らぬ人にまで世話を焼くわけでなく、花子と出会ったときは近寄らず、気づかれないようにそっと離れていったくらいだった。伊古奈が面倒を見ている少女とわかったから、伊古奈が留守中、病気の花子を自宅に連れてきて看病したのだった。

上映の後の武藤教授の講演で、当時にあっても直子は浮いた存在だという話があって、この映画がよく理解できた。高度成長期に経済的に発展していく一方、貧しいまま取り残された人たちもいたわけが、それだけでなく人とのつながりも薄れていって、直子のように積極的に他人と関わっていく人が少なくなったというのだ。今を生きる私の目からすると、直子が変わり者(異分子)として、いつ団地の主婦連につまはじきになるか気が気でなかったわけだが、そんなに感じたということは、今現在は昭和四十年代より更に人とのつながりが薄くなっており、変わり者を排斥する狭量な社会になってしまったかもしれない。
私もこの年になって「困ったときは、お互いさま」というつながりが大切だとわかってきたけれど、究極のものぐさ体質から「希望は仙人」なくらい人と関わることがイヤなので直子のマネはできない。ただし、「一寸先は闇。明日は我が身」と思っているから、病気の花子を自宅に連れてきたことを「関係ないだろ、そこまですることない」と言う英一のようにはなりたくない。武藤教授の話で妙に自分の立ち位置を自覚させられた(笑)。

それにしても当時の子どもは元気だったんだなぁ。本来子どもってこの映画に写っているくらいパワフルなものだと思う。今だって大人に比べれば疲れ知らずで元気なんだろうけど、この映画の子どもには圧倒された。

監督:羽仁進
(小夏の映画会 2012/07/16 龍馬の生まれたまち記念館)

メランコリア

予告編、素晴らしかった。本編は、予告編で使われたところや、バーン・ジョーンズだっけミレイのオフィーリアとか、ブリューゲルの冬の狩人だっけ、なんかそんな感じの映像で、音楽も何やらクラシックの聞いたことあるような曲で、そういうところは面白く観た(とにかくスローモーションのところ)。思えば『奇跡の海』の「スローモーション+ボウイその他の音楽」にもうなったけど、『アンチクライスト』といい『メランコリア』といい最近のスローモーションの映像には凄みがある。

感動させられなかったことは残念だが、私がこの映画にシンクロしなかったことは良いことだと思う。健康でよかった。核ボタンの入ったケースを持ち歩いていた頃に観ていたら、もしかしたら嵌ったかもしれない。
地球滅亡の前の人類滅亡。まあ、そのうちあると思うけれど、ずーーーーーっと先のことだと思う。

ジャスティン(キルステン・ダンスト)/クレア(シャルロット・ゲンズブール)/ジョン(キーファー・サザーランド)/両親(シャーロット・ランプリング、ジョン・ハート)/ステラン・スカルスガルド/ウド・キア

MELANCHOLIA
監督:ラース・フォン・トリアー
(2012/07/14 あたご劇場)