ファミリー・ツリー

妻が浮気をしていたと聞かされたマット・キング(ジョージ・クルーニー)が、ことを確かめるため友人宅まで雪駄でバタバタと走るシーンが気の毒にも可笑しく、その道のりの風景とともに名シーンとなっている。また、ちらりと映る日本人墓地や高台から見下ろす海岸線など、ハワイの景色の数々が気持ちいい。人生の悲劇的一幕をほどよいユーモアでくるみ、心地よい風を感じさせてくれる。観客をちょっと元気にしてくれる本物の喜劇になっていた。

カメハメハ大王の末裔であり先祖代々受け継いだカウアイ島の広大な原野を一族代表で管理している弁護士マットは、事故で植物人間となった妻に付き添い、年頃の娘アレクサンドラ(シャイリーン・ウッドリー)と幼い娘スコッティ(アマラ・ミラー)を持てあまし、とほほのとほほである。
マットが妻に語りかける言葉の変遷が面白い。仕事にかまけ、数ヶ月、関係がギクシャクしていたのを反省し、妻が快復したらいっしょに過ごそうとつぶやいたかと思ったら、浮気をしていた(しかも本気で離婚するつもりだった)とわかって憤怒の形相で罵る。やがて浮気相手の方は遊びとわかり、その妻が一方的に「赦す」と言ってきたのに抗弁できない妻が不憫になったのか、長年の連れ合いに愛情のこもった最期のお別れをする。たとえ植物人間になったとしても、愛する者の影響力は、かように強い。生きてピンピンしている娘たちには、今後も振り回されること必至である(?)。

この作品の独自なところは、マットとその家族のつながりという短い期間の移り変わりと、カメハメハ大王からマットたちまでつながってきた一族の長い期間の移り変わりを平行して描いているところだ。親から子へのバトンが大切であると同時に、子から孫へとその積み重ねも大事なような気がしてくる。なかなかのスケールだ。しかし、お茶屋一族は、資産も人材も馬の骨が豊富である他はたいしたものはないし(今後、妹一家に財を成すものが現れる可能性がないとは言えないが)、別に一族でなくても連綿と(何万年になるのか)人間の歴史が続いていけばいいのだろう。アレクサンドラに付き添ってきたシド(ニック・クラウス)みたいに面白いヤツもいることだし、人間の歴史は他人に任せた(笑)!お茶屋としては、この映画のラストシーンとその後のように、短い期間の移り変わりを全うするだけである。

THE DESCENDANTS
監督:アレクサンダー・ペイン
(2012/06/09 TOHOシネマズ高知6)

メン・イン・ブラック3

面白かった!バディ・ムービーは、こうでなくっちゃ(しみじみ)。悪役の宇宙人も、のっけから超魅力的だし(笑)。タイムトラベルものだから、同一宇宙人が二人(両腕と片腕)がそろって言い合うのも可笑しい!

J(ウィル・スミス)とK(トミー・リー・ジョーンズ)のコンビネーション、いいね~(笑)。若かりし頃のKを演じたジョシュ・ブローリンが、ちゃんとトミー・リー・ジョーンズのKを彷彿させながら、屈託のなさを見せるのが、なんとも魅力的だったし、面白かった。
それに、ウィル・スミス!私は、なぜ、彼を嫌っていたのだろう???現代に帰ってきたJが、Kに見せる慈しみの表情にほろりと来た・・・!いい役者になったなあ!前からそうでしたっけ?

MEN IN BLACK III
監督:バリー・ソネンフェルド
(2012/06/09 TOHOシネマズ高知8)

道~白磁の人~

植民地時代の朝鮮半島を舞台にした日本映画って初めて観たような気がする。俳優の演技が硬いところがあったけれど、百年前の山々や建物、乗り物、衣服、葬列などなど、目に映るものが珍しく、丁寧に作られている感じがしたし、オーソドックスな作りできっちり感動させれらた。のんびりした感じもよかった。

主人公の浅川巧(吉沢悠)は、日本人らが伐採してはげ山となった朝鮮の山に植林にやってきた技術者で、イ・チョンリム(ペ・スビン)は、その林業研究所に雇われている。支配する側とされる側なのだが、お互いを認め合い信頼関係が築かれていく。チョンリムが「巧さん」と呼ぶのに、巧は「チョンリム」と呼び捨て。このへん、なんだか釈然としないけれど。
巧は、白磁の人(二束三文で売り買いされるありふれた日用品だが、素朴な美しさをもっており温もりがある)だから、誰に対しても優しいのだが、チョンリム以外の朝鮮人からは奇異な目で見られる。チョンリムから「朝鮮人があなたに笑顔を見せるのは、あなたが日本人だからだ。あなたが善い人だからというわけではない。」と諭されてしまう。チョンリムは偏見なく人を見る目があった。初めから彼が理解してくれたからこそ、よい関係が築けたと思う。この二人の遣り取りを見ていて、魯迅が言った「人が行き来するところに道ができる」というような言葉を思い出した。なんせ題名が「道」だし。

それにしても、「その土地の土に、その土地の木を植える」、これ、植物がよく育つ基本だと思っていたけれど、当時はそんな認識がなかったみたい。朝鮮の山の土に朝鮮唐松の種をまいて苗を育てることに成功した巧に、研究所の所長が論文を書けなんて言ってるのだ。本当に驚いた。

巧役の吉沢悠は白磁の定義にピッタリでよかったし、巧の母を演じた手塚理美もまたよかった。気位が高い厳しい人で、息子が朝鮮に渡ってきたときでさえ「やって行けるのかねぇ」と冷たい出迎え。朝鮮人の葬列を見て、「わあわあ泣いてみっともない」と見下していた彼女が、息子の葬列からふらふらと離れ、隠れて慟哭する様は痛々しかった。
巧の後妻(黒川智花)は、現代的なキャラクターなのに不思議と当時にマッチして、飛んでる女性として魅力的だった。

監督:高橋伴明
(2012/06/09 TOHOシネマズ高知2)

外事警察 その男に騙されるな

暗闇で徐昌義(田中泯)の目だけが光るシーンがすごかった。
住本(渡部篤郎)が 安民鉄(キム・ガンウ)に「甘いんだよ」とバカにされながら甘さを貫いたのも良かった。
奥田果織(真木よう子)の低い声に痺れた。
内閣官房長官(余貴美子)の最後の記者会見には拍手した。
時代設定を60~70年代にしておけば、もうすこし現実味があったかもしれない。
伊方原発の再稼働に賛成する県内首長の多さにガックリ来た日に観た。

監督:堀切園健太郎
(2012/06/03 TOHOシネマズ高知2)