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マルホランド・ドライブ
ハリウッド女優になる夢が悪夢に変わるとき
MULHOLLAND DRIVE
脚本&監督:デイヴィッド・リンチ
ベティ:ナオミ・ワッツ|謎の女:?

いや〜、おもしろかったです。そして、めっちゃ悲しい。ハリウッド女優になる夢が悪夢に変わるお話だと思います。デイヴィッド・リンチって心理学者かも。それにしても、リンチ監督、趣味に走ろうと思ったら夢の世界はうってつけですね!
とにかく、おもしろい!だから、即
●ネタバレ感想
です。





悲しい。悲しいな〜。
謎の鍵で青い箱を開けるとダイアン(ナオミ・ワッツ)の目が覚める。ああ、私は愛しくてたまらないカミーラを殺してしまったのだ・・・・・。


私は鍵で箱を開けるまでは、ダイアンが死後に見た夢だと思いました。箱を開けてからは現実にあったことで、ダイアンがなぜそんな夢を見たかの謎解きだと言ってよいと思います。(まさに「謎を解く鍵」でいいでしょ(笑)。)

現実の世界であったささいなことが、夢では微妙にアレンジされて出現します。
例えば、現実ではカウボーイハットのおじさんは、映画監督のプールつきの家で開かれたパーティーでチラッと通りすぎただけの人でしたが、夢ではやさしい声音で監督に脅しをかけます。(とても脅しているようには見えませんが。)
他にも、ダイアンがダイナーで殺しを依頼しているときたまたま目が合っただけの男が、夢では恐ろしい予知夢に悩まされ、ダイナーの裏手で怖い顔に遭遇します。

夢の中で自分が別の誰かになっていることがありますよね。
ダイアンは、夢の中で主にベティとして存在しますが、ベティがいない場面では、その場面に登場するいずれかの人物になっています。
例えば、殺し屋がターゲットの他に二人も殺す場面では、ダイアンは殺し屋です。
他にも、ダイナーで二人の男が話をしたあと、ダイナーの裏手に回って恐ろしい顔に遭遇する場面では、ダイアンは恐ろしい顔を見て失神する男です。
そして、青い箱を開ける場面は、カミーラ一人きりですので、ダイアンはカミーラになっているのです。

もちろん、映画を見る観客のように夢を見ていて、夢を見ている本人が登場しないことがあります。それは例えば、映画監督が妻の浮気現場に遭遇する場面やカウボーイハットのおじさんに脅される場面だと思います。

夢は深層心理というか願望が現れるものだそうです。そうすると、殺し屋がターゲットを殺したはいいが、隣室の太った女や廊下の掃除夫が現れ、あげくの果てに非常ベルが鳴り、なかなか思いどおりに事がすすまないのは、ダイアンがカミーラ殺しを依頼したものの本当は殺したくなかったことの表れではないでしょうか。そして、殺すことの罪悪感が、ダイナーの裏手で怖い顔に遭遇する夢を見させたのだと思います。
また、恋敵である映画監督が、夢の中でけっこうひどい目に遭っているのは、ダイアンの嫉妬心を思えば納得がいきます。
さらに、オーディションでりっぱに演技し、認められ、将来有望な女優であるとかなりの好評を得たことは、ダイアンが女優にあこがれていたか、若しくは志していたかの現われでしょう。
キャスティング担当者にすすめられて覗いていた、もう一つのオーディションをあっさり見るのをやめたのは、カミーラ(夢の中では謎の女)との約束を思い出したためですが、これは女優になることよりもカミーラに対する想いが優先していることの現れではないでしょうか。
それと、あの鍵は、カミーラ殺しが成功したことを知らせるための鍵だったと記憶しているのですが(この記憶に自信なし)、そういう鍵であってみれば、夢の中のベティにとっては謎の鍵のままで、カミーラ(夢の中では謎の女)との蜜月が(いささかの不安を抱えたものであっても)永遠に続いてほしかったでしょう。しかし、その鍵がどういう鍵か思い出したとき、夢から覚めずにはいられないのです。

リンチ監督の『ロスト・ハイウェイ』は、時制も空間もバラバラの悪夢のような作品でしたが、見終わった後には魔性の女の虜になり嫉妬に狂い、女を殺害する男の物語が浮かんできました。
『マルホランド・ドライブ』もベティと謎の女のエピソードの合間に、何の関係もなさそうな殺し屋やダイナーの二人の男のエピソードが挿まれ一見わかりにくそうですが、夢と現実を合わせてみると、女優を夢見ていたが夢破れ、愛する女に去られ、ついには相手の女を殺し、自分は自殺するという悲しい物語が浮かんできます。←「私は」と断っておいた方がいいかな。
夢を抱き、やがては夢破れる映画の都ハリウッド。『マルホランド・ドライブ』は、リンチ版「ハリウッド・バビロン」と言えそうです。

なお、青い箱を開けるまでを「死後」に見た夢だと思った理由ですが、あの腐乱しかかった死体はダイアンで、それを夢の中の人物であるベティと謎の女が見ているわけですから、死後でなければ辻褄が合わないと思うことが一つ。そして、もう一つは、『サンセット大通り』の冒頭でプールに浮かんだウイリアム・ホールデンの死体が「私がこんなところで浮かんでいるわけは・・・」と話し始めるくらいですから、死体が夢を見ても別に不思議はないでしょう。

それにしても、冒頭で「サンセット大通り」と看板を出したり、グロリア・スワンソン風の人物が現れたり、リンチがビリー・ワイルダーの『サンセット大通り』を引用するなんて私は思ってもみなかったことでして、映画を引用するなんてリンチも可愛いとこあるじゃんと思ってしまいました(笑)。
『サンセット大通り』の他に思い浮かんだのは、同じくビリー・ワイルダー監督の『悲愁』(ハリウッド・バビロンつながり)と、アラン・レネ監督だったと思いますが『プロビデンス』(夢つながり)です。どちらもとてもおもしろかったな〜。

おしまいに。一般に夢オチは、観客を拍子抜けさせたり、反則だと不興を買ったりしがちですが、リンチに限ってはそんなことは全くないですね。リンチの頭の中は、非現実的なイメージが浮遊しているのでしょう。このイメージには、夜見る夢でも白昼夢でも、とにかく夢というのがピッタリだと思いました。

MovieJunky 県民文化ホール(グリーン) 2002/08/07


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