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カティンの森
哀しくても人間パワー
監督:アンジェイ・ワイダ/原作:アンジェイ・ムラルチク/脚本:アンジェイ・ワイダ、ヴワディスワフ・パシコフスキ、プシェムィスワフ・ノヴァコフスキ/ポーランド/2007年/122分

風格のある作品だった。「人間」が描かれていることに感動した。
登場人物のそれぞれに感じ入ったが、なかでもドイツに利用されまいとして脅しにも屈しなかった大将夫人(ダヌタ・ステンカ)と、ソ連に協力することで生き延びたイェジ(アンジェイ・ヒラ)が印象深く、彼らが登場する場面を積み重ねることによって「人間」の哀しさ、立派さなどが描き出されていたと思う。これは作り手の人間を観る深いまなざしと、俳優の表現力(特に顔の表情)の賜だと思う。
また、ポーランドをひどい目に遭わせたソ連とドイツを描くに当たって、作り手は感情的なものを排していると思った。アンナ(マヤ・オスタシェフスカ)母子を逃がすソ連兵を登場させたのは、単にそういうような事実があったからなのかもしれないが、「個々に観ればソ連兵も人間だ」ということを伝えたかったのではないだろうか。反対にカティンで次々とポーランド将校を殺していくソ連兵は無機質な感じに描かれている。作り手の「彼らはシステムの一部であり、彼らを憎んでも意味はない。システムを作り動かしている『もの』が問題なのだ。」と言う声が聞こえてきそうだ。

この映画が映画らしい映画であることも称えたい。始まりは、まるで切れ切れの雲の中にいるような感じ。その雲が消えると「はじまり、はじまり〜」(開幕)で、意外にもそこは地表。人々の足元が目に入る。彼らは、ドイツの侵攻から逃れ、ソ連との国境側を目指して橋を渡るところだ。スクリーンの左から右方向へ移動していると、右側から「ソ連が侵攻してきた、引き返せ」とやってくる人たちがあって橋の上はごった返す。ドイツとソ連に挟まれて「にっちもさっちも」という状態を橋で表すとはうまいと思った。
アンナが娘とともに夫アンジェイ(アルトゥル・ジミイェフスキ)を探すとき、青い階級章を目印にしていた。場面が変わって、灰色の画面に小さな青が目立つと思ったら、それはもちろんアンジェイの階級章だ。なんの台詞もないのに画面の奥から近づいてくる男がアンナの夫だとわかる。
大将夫人が、家政婦が準備した食卓を見て、夫の皿が出てないと文句を言って自ら出してくるのだったか(?)、夫の皿を手にするシーンがある。その皿から次のシーンにつながって、次のシーンで皿を手にしているのは、収容所に入れられた大将だ。収容所に皿が飛んでいくはずはないので、大将が手にしていたのは空想の皿なわけだが、皿を介して二人が互いを想っているのがわかる。
その他、映像も美しく、印象に残るシーンは数多い。
この映画は、カティンの虐殺だけでなく、レジスタンスやワルシャワ蜂起も無理なく盛り込まれていて、ポーランドの若者が戦中戦後史を学ぶとっかかりにするのに好材料だと思ったが、目で観てわかる(場面の意味するところが伝わる)映画作りのお手本だとも思った。

シネマ・サンライズ 高知県立美術館ホール 2010/6/29
 
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