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非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎
MJ
監督:ジェシカ・ユー/アメリカ/2004年/82分

長年、病院の清掃員として暮らし、1973年に81歳で亡くなったヘンリー・ダーガー。『非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎』は、彼の人物像に迫ったドキュメンタリーで大変面白く、感銘も受けた。

幼い頃、母を亡くし、父も病気で入院。障害もないのに知的障害者施設に入れられ、体罰も受ける。20世紀初頭という時代性を考えても、両親の庇護がない子どもは、こんな目に遭うのかと憤りにも似た哀しみを覚える。子どもの頃の経験は、その後の人生に大きく影響し、彼は人とあまり関わらず生活することを選び、「しょぼい」人生を全うした。死後、彼の築いた王国が発見されて「すごい」ことになるのだが。

大家を始め隣人であった人たちへのインタビューから浮かび上がるヘンリーは、貧しく孤独な老人だ。しかし、死後発見された自伝と「非現実の王国で」という挿絵付き小説や部屋中のコレクションが、ヘンリー像を立体化していく。
例えば隣人に礼拝を欠かさなかったと言われるヘンリーも、彼の小説を読めば宗教的な葛藤を持っていたことがわかる。あるいは、彼は子ども嫌いで子どもには近づかなかったと言われるが、小説の主人公は少女(ヴィヴィアン・ガールズ)だし、彼の部屋は子供の写真の切り抜きなどでいっぱい。養子をほしがったほどなのだ。(無垢とか、子どもが象徴するものが好きだったのかもしれない。それとも、父親とのよい思い出があるから、父にしてもらったことを自分も誰かにしてあげたかったのかも(涙)。父と唯一の友だちが亡くなったという知らせは、それぞれあっさり描かれていたが、ヘンリーの悲しみは充分伝わってきて、このへんが感銘を受けたところ。)
このようにインタビュー(現実)とナレーション(非現実の王国)が撚り合わされて、ヘンリー・ダーガー像が紡がれていく。言い方を換えれば、現実世界のヘンリーが「非現実の王国で」にどのように投射されているかが、描かれていたように思う。更に言い換えれば、作り手の「作品には作者が投影されている。」という考えが読めるドキュメンタリーとなっている。

隣人が見たヘンリーと作品に表れたヘンリーとで隔たりや深化があるのは当然だが、「怒ったのを見たことがない」と言われる彼が、自伝や小説ではそうでもなさそうなところが興味深く、私は即座に『THIS IS IT』のマイケル・ジャクソンを思い出した。普段は大人しい人が作品中で激しい怒りを表出するというのが共通点だ。他にも子ども好きなど共通点があるけれど、共通してないところの方が多いことに気づいたので書くのをやめる(^_^;。

二人のナレーター(ダコタ・ファニングとラリー・パイン)の起用も奏功していたと思う。ラリー・パインはおじさん声なので、自伝も小説もヘンリー自身の語りのように聞こえる。当時7歳のファニングの語りは、小説についてはヴィヴィアン・ガールズになりきっているように、自伝についてはヴィヴィアン・ガールズから見たヘンリーというように聞こえる。
小説の挿絵をアニメーションにしたのは、映画的でとてもよかった。どことなく懐かしい絵柄でありながら独創性があり、何より色彩が美しい。これはスクリーンで観たかった。

DVD 2011/1/2
 
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