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■ひきだし美術展>ベトナム近代絵画展
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ベトナム近代絵画展「リエン嬢」
 

素晴らしい展覧会でした。昨年のベルリンの至宝展以来の興奮を覚えました。高知県立美術館では、レームブルック展以来の興奮です。

●漆
漆といえば漆器に蒔絵が思い浮かびますが、ベトナムでは漆絵がよく描かれるそうです。板に漆で描かれたのがうえの絵「リエン嬢」(フィン・ヴァン・ガム作/1962/65.2×44.8cm)です。絵葉書をスキャンしました。
金を使った絵は、角度によって色が違って見えるとのことなので、立ったりしゃがんだりして観ました。中でも「リエン嬢」は、しゃがんで観ると色が更に鮮やかになり、リエン嬢といっしょに夕焼けの窓辺にいるような気になりました。
他にも画面の左から夕日を受けて、奥の山と背景及び手前の山の左斜面が金に輝き、右斜面の影とのコントラストが雄大な「タイバックの夕べの思い出」や、稲穂が黄金色に輝く「ヴィエトバックの稲刈り」などが印象に残っています。
また、赤いレンガを敷き詰めた庭のうえに金のヘチマが装飾的にぶら下がり、その下の露台で赤ん坊に乳を与えている「協同組合の女性主任」や、一瞬西郷隆盛が5、6人並んだように見えたかと思ったら、老若男女が銃を手に鉄壁の守りを固めた様子が、黒と金と銀で力強く迫ってくる「人民より出てきたるもの」などなど、美しい絵がたくさんありました。

彫漆といえば堆朱(ついしゅ)が思い浮かびますが、ベトナムの彫漆絵画には本当にビックリしました。まずは大きさ、150×110cmくらいのものがありました。小さいものでも一辺が1mを超えています。
そんな大きさの(おそらく何重にも塗られた)漆を彫って、人、木々、建造物、雨風など万物を描いています。全てを遠景として描いているので、全てのものが小さく描かれています。線の1本1本が細く、一刀が細かいです。色彩は美しく、黒が基調となっており、引き締まった感じがします。1枚の絵の情報量が豊富で、隅々まで見ているとあっという間に時間が過ぎてしまいます。
1枚の絵に時間が経過した状態を収めた(異時同図法による)「タイグエンを行く」では、兵士たちが川を渡り、風雨の中ジャングルを這うようにして進み、その先では火を囲んでくつろぐ様子が描かれていました。

●ホーおじさん
「ホーおじさんのヴィエトバックの家」ではホーおじさんは描かれておらず、家といっても森の中のあばら家という感じ。「タンチャオで釣りをするホーおじさん」では確かに釣りをする人物が描かれていますが、岩の上の点にすぎず、ホーおじさんの人相は不明。
「ホーおじさん、村へ行く」だったか何だったか、とにかく髭を生やした痩せたおじさんを見て、やっとホー・チ・ミンのこととわかりました。ホーおじさんは、ひょろひょろと、その後も時々出てきます。

●題材(モチーフ)
この展覧会は、独立前の時代から抗仏、抗米戦争を経て、新たな時代へという流れで展示されていました。ベトナムの大まかな歴史のおさらいになるし、描かれる題材は歴史の影響を受けていることがわかります。というか、歴史に見合った作品が展示されており、必ずしも描かれた年代順じゃないのかもしれません。(どうも観てから日にちが経っているので記憶があてになりませぬ。展示の順番とか分類の仕方が、とてもよかったという記憶あり。)
とにかく、戦争や働く人を題材とした絵画が多いことは確か。

●印象に残った絵
特筆しておきたいのは、「母を背負う息子」(チャン・チュン・ティン作/1974/油彩、新聞紙/35.5×54cm)。ムンクの「叫び」に匹敵するインパクトがありました。といっても「叫び」の実物を見たことがないのですが。
てっきり戦争がらみで、母親の亡がらを背負っているのかと思ったら、「親孝行は難しい」ということを描いた作品だそうです。う〜ん、私はこの絵に恐ろしさを感じたのですが、この人は親孝行を難しいという以上に恐ろしいと思っているのでしょうか。マジでじわりと怖くなる絵でした。 もう一つは(というよりもう一人は)、グエン・サン(1923〜1988)。「田舎の風景」という油彩と「牛」という漆絵を別々に見て、どちらとも大変好きになり、作者を見たら同じ人グエン・サンだったのです。
あと一つ。絹といえば、日本では友禅などの色鮮やかな着物を思い浮かべますが、ベトナムの絹絵は渋いです。この渋さは一見の価値あり。しかも虫食い穴つき!

●残念なこと
こんなに素晴らしい展覧会なのに、しかも私が行ったのは最終日(日曜日)なのに、お客さんがとても少なかったです。受付の人に尋ねると、観てくれた人には大好評だけれど、入りは少なかったとのこと。高知新聞やRKCが主催に加わった展覧会だと、マスメディアを通じて人が集まるけれど、高知県立美術館単独では宣伝費用に限りがあってなかなか集まらないというお話でした。
観に行ったのが最終日でなければ、宣伝したのにな〜。
和歌山県立近代美術館では5月28日まで、福岡アジア美術館では6月3日から7月23日まで開催されますので、お近くの方はお見逃しなく。絹絵の虫食いも探してみてくださいね。

2006/4/24 up
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