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暗闇愛好家 ムービーレポート『今にして思い直す』

 
観てからしばらくすると、印象が変わる映画があります。以前、『春にして君を想う』について「老い先には死があるばかりで、心のよりどころは思い出のみという過酷な内容」という風に書いた覚えがあります。それが、印象どころか、同じ監督の『コールド・フィーバー』を観て、考えが180度変わりました。
 『コールド・フィーバー』はアイスランドで客死した両親を弔いに、現地へ赴く日本人青年(永瀬正敏)が主人公です。真冬のアイスランドで彼はさまざまな困難に遭いながらも両親が亡くなった場所にたどり着くことができます。猿岩石ではありませんが人の情が身にしみる旅でありました。けれども、それにも増して、何ものかが彼を目的地にたどり着かせたという印象が強いのです。その何ものかとは何か。亡くなった両親と考えてもいいし、他のスピリチュアルな何かでもいい。また、アイスランドの厳しくも美しい不思議なパワーを持つ自然ともいえます。東京で世俗にまみれて働いていると、そんなパワーは感じることはできません。アイスランドを旅しているうちに「何ものか」によって浄化された主人公は初めて両親の死に涙し、息を吹き返したようになるのでした。

くたびれた青年が生き返る物語として、不思議パワーのアイスランドを満喫させてくれた映画として感動した私は、パソコン通信の映画のフォーラムに感想を書き込みました。すると、私の感想に対してコメントをつけてくれた人がいたのです。「『コールド・フィーバー』も良い映画ですが、同様のテーマでもっと感動的な『春にして君を想う』がありますよ。」というのがコメントの趣旨でした。さらに、『春にして君を想う』は死に行く老人の物語ではなく、彼らが自然にかえる再生の物語だとも書かれていました。

なるほど、真新しいスニーカーを履いて老人ホームから故郷の島に旅立った二人を、助ける人と自然が描かれていました。確かに『コールド・フィーバー』と同じです。望みどおり故郷の島で死ぬことができたのも、二人だけの力ではないのです。何ものかの力によって生かされ、死ぬことによって自らも「何ものか」になれるかもしれない。そういう目で観直すと、二人の死も虚しいものでなくなります。

以上のような訳で『春にして〜』に対する思いが変わりました。コメントをつけてくれた人が言ったように『コールド〜』より印象深いし力のある映画だとも思います。

ただ、『コールド〜』は『春にして〜』を薄めた感じは否めませんが、やはり感動作には変りありません。『コールド・フィーバー』を観たことによって『春にして君を想う』が理解できたということからも、私にとっては忘れがたい映画です。

(1997年2月号)


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