ピックアップ>2010年高知のオフシアター・ベストテン選考会

まる画像外国映画69本
順位 作品名 主催者 観た人 × ポイント
(◎−×)
1 カティンの森 シネマ・サンライズ 9 8 0 8
2 戦場でワルツを シネマ・サンライズ 11 7 1 6
3 オーケストラ! 県芸術祭特選映画鑑賞会 7 5 0 5
4 ずっとあなたを愛してる こうちコミュニティシネマ 6 4 0 4
5 あの日、欲望の大地で シネマ・サンライズ 7 4 0 4
6 アンナと過ごした4日間 ムービージャンキー 10 4 1 3
7 海の沈黙 こうちコミュニティシネマ 5 3 0 3
8 正義のゆくえ 市民映画会 6 3 0 3
9 シャネル&ストラヴィンスキー こうちコミュニティシネマ 8 3 0 3
10 フローズン・リバー 高知県立美術館 8 4 2 2
11 未知への飛行 テッケン 8 3 1 2
  懺悔 シネマ・サンライズ 9 4 4 0
  ジュリー&ジュリア 市民映画会 7 3 3 0
まる画像日本映画123本
順位 作品名 主催者 観タ人 × ポイント
(◎-×)
1 川の底からこんにちは とさりゅう・ピクチャーズ 7 7 0 7
2 愛のむきだし 高知県立美術館 8 6 1 5
3 パレード とさりゅう・ピクチャーズ 7 5 0 5
4 ポチの告白 小夏の映画会 9 6 2 4
4 ヴァイブレータ シネマ・サンライズ 9 6 2 4
6 のんちゃんのり弁 とさりゅう・ピクチャーズ 9 4 0 4
7 不灯港 とさりゅう・ピクチャーズ 7 4 1 3
7 生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言 渚の映画会 7 4 1 3
9 紀子の食卓 高知県立美術館 4 3 0 3
10 春との旅 とさりゅう・ピクチャーズ 4 3 1 2
11 マイマイ新子と千年の魔法 シネマ・サンライズ 5 3 1 2
  ちょんまげぷりん えいネ〜 9 5 4 1
  キャタピラー 尻ぱたき隊 8 3 4 -1

まる画像概況

2011年1月30日(日)、朝日新聞高知総局の会議室にて、選考員11名(応募した映画ファン及び自主上映に携わる人)により、2010年高知のオフシアター・ベストテンが選ばれました。速報と詳報は朝日新聞高知版で発表され、同年6月には第1位作品のアンコール上映会が催されました。

まる画像ルール

選考方法は以下の1から7までのとおりです。対象作品1本ずつ、「観た人」と「ベストテンに入れたい人」を挙手してもらい数えます。「ベストテンに入れたい人」の多さで「暫定順位」が決まります。ベストテンに入りそうな「暫定順位第1位から第13位くらいまで」の発表があり、暫定上位から自由に意見交換したうえで「ベストテンに入れたくない人」に挙手してもらいます。
うえの表の◎欄はベストテンに入れたい人の数、×欄は拒否票の数、ポイント欄はベストテンに入れたい人の数から拒否票の数を差引いた数です。ポイント数の多さでベストテンが決まります。

  1. 投票権は一人10票までで、1作品1票。
  2. 拒否権は一人3票までで、1作品1票。
  3. 投票結果を見て、拒否権を使いたい人がマイナス票を投票。
  4. 投票数とマイナス投票数の差引きポイントで順位を決める。
  5. ポイントが同点の場合は、得票数の多い作品を上位とする。
  6. ポイントも得票数も同じ場合は、観た人の少ない作品を上位とする。
  7. 投票をするまえに、自由に推薦や批判の弁を募る。

まる画像外国映画の順位について

外国映画は、「このまま確定してもいいのでは。」「高知のオフシアター・ベストテン選考会は、権威はないけど質がある。」「観てない作品もあるけど、納得感がある。」という感想がもれるくらい綺麗な暫定ベストテンでした。そして、拒否票を投じた結果、圏外からの入れ替えがあったのは1本だけという順当さでした。

暫定第6位からベストテン圏外となったのは『懺悔』。ソビエト時代のグルジアで作られたスターリン批判とも取れる作品で、ゴルバチョフ政権下で大ヒット。カンヌ国際映画祭の審査員特別グランプリを受賞しています。「予定調和をくつがえす。文脈のない映画。」と長所になり得るところがマイナスに働いた人や、「9位、10位あたりがふさわしい。『フローズン・リバー』を上げたい。」と悪い作品ではないことをうかがわせる人からの拒否票に加えて、上映した人からも「グロテスク」と拒否票が投じられました。

ベストテンを狙えそうだったのは、暫定第11位の『ジュリー&ジュリア』、第12位同士の『未知への飛行』『シャネル&ストラヴィンスキー』あたりでした。三作品とも一時はベストテンとなっていたため、拒否票の洗礼を受けることになりました。
『ジュリー&ジュリア』は、「女性からすると夫像が好ましい。」「メリル・ストリープはよかった。」「コメディとして良くできている。」という意見がありましたが、「登場人物のブログをリアルタイムで見たら面白いかもしれないが、普通の出来。」と拒否票が入り、結局、不可ではないけれど、さほどの可もない作品という結果になりました。
『未知への飛行』は初めて観た方から、「こんな映画があることを知らなかった。核爆弾を落としたアメリカが作ったことに感動した。」と強力プッシュがありましたが、旧作のため票が伸びず「凄い作品だからこそ、ベストテン下位にするのは失礼(今頃、ベストテンに入れたら朝日新聞が笑われる)。」と拒否票が入り次点となりました。旧作でも初公開の『海の沈黙』と明暗を分けた格好になっています。
『シャネル&ストラヴィンスキー』は、「春の祭典の上演場面が、ココ・シャネルより面白い。」「いやいや、この映画でココ・シャネルのイメージが固まった。決定版。」と意見が出されましたが、拒否票を投じる者はなく、第9位に浮上しました。

第1位から第5位までは、暫定の順位がそのまんまでした。「アニメで描いて成功しているのはイマジネーションの部分。旧友と会って畑仕事をしているところは不成功。」という分析があった『戦場でワルツを』に「第2位は高すぎる。『正義のゆくえ』を上げたい。」という理由で拒否票が入りましたが、順位は揺るぎませんでした。
その『正義のゆくえ』は、「この題材をエンターテインメントに仕上げたことにアメリカ映画の底力を感じる。」「多国籍を描いて『カティンの森』よりもうえだ。」と好評で暫定第10位から第8位にアップしています。
第1位『カティンの森』。「ワイダ監督が命懸けで作った作品。まさか拒否票は入らないでしょう。」という牽制に恐れを成したわけではないでしょう。拒否票なし。
第3位『オーケストラ!』。「ジプシー音楽とクラシック。旧ソ連とロシア。そういう対比が面白い。音楽の神髄が描かれていた。」「ハチャメチャ。音楽をやっている者からすると、こんなことありえないと思いつつ面白かった。」「花形指揮者から、やむなく掃除夫にというと、暗くなりそうなのに笑えた。妻の存在もとても良かった。」「ヴァイオリニストはてっきり指揮者の子どもと思っていた。」という作品の面白さや、「監督は『約束の旅路』の人。人間の生き抜く力を信じている。」という作品の奥にあるパワーへの言及や、果ては「別の職業に就いても楽器の練習はやめない。(職業じゃなくても音楽をするという形で)ヨーロッパではクラシックが根付いている。日本ではステイタスとしてのクラシックだと思う。ラストのチャイコフスキー(音楽・曲)に日本人は感動すると思うが、ヨーロッパの人は別のことに感動するのではないだろうか。」という音楽文化の比較まで感想が及びました。
第4位『ずっとあなたを愛してる』。「監督が作家。『オアシス』などを監督した韓国のイ・チャンドンも作家で役人。外国では作家が監督してよい映画ができるが、日本では碌なことがない。例、辻仁成。」「この映画は、行間を読ませる。また、『ありがとう』『ここにいるよ』など言葉に対してのデリカシーを感じる。」・・・・変なところでとばっちりを受けた辻仁成(笑)。
第5位『あの日、欲望の大地で』。「ヨーロッパ的。胸に突き刺さる。この監督を追いかける。」
と1本1本の感想が聴けたのも、今回の選考会の特長です。

それにしても、今となってみればお茶屋の納得がいかないのが、第6位の『アンナと過ごした4日間』と第10位の『フローズン・リバー』です。なんせ、「『フローズン・リバー』、1位でしょう!」と思っていたものだから、「いい話。いい脚本。でも、屋内の撮影が暗い。焦点が合ってない。」という理由で拒否票が入り、暫定第6位からの転落に泣きました。ただし、この作品はあたご劇場でも上映されていて、両方の上映を観た人によると「あたご劇場で上映されたのは、ほんのわずか明るい。」とのこと。「プロジェクターとフィルムの違いだろう。」とまとめられ、上映環境がベストテンの順位に影響することを知りました(涙)。
一方『アンナと過ごした4日間』の拒否票は1票にとどまり、その理由は「変質的。好きな女性のところへ忍び込むというのが感性に合わない。」というものでした。もう1票拒否票が入っていれば、『フローズン・リバー』は再浮上したのに、なぜ、私は拒否しなかったのでしょう?主人公について「まるで自分を観ているようだった。」と言った人への気遣いでしょうか???(まさか)おそらく、その時点では納得していたのだと思います。

まる画像日本映画の順位について

日本映画は『川の底からこんにちは』が、観た人全員からベストテンに推され、かつ、拒否票も入れられず完全第1位を成し遂げました。「化け物的魅力の満島ひかり。」と「政府を倒せ〜!」の社歌が大受けでした。

特筆すべきは、高知県立美術館が特集上映した園子温監督特集でしょう。9本上映されたうち、ベストテンには第2位に『愛のむきだし』が、第9位に『紀子の食卓』が入っています。『紀子の食卓』は観た人が少なく『愛のむきだし』より低位置になっていますが、両方を観た人は『紀子の食卓』の方がより深みがあり上位に置きたい向きもあるようでした。
「作品にメッセージ性がある。今の日本の監督で最も才能がある。社会に対して自分の意見を言っている。独自の表現手段がある。」という意見もあれば、「『自殺サークル』以外は、どれも同じ作品に見えた。才能はあるかもしれないが、同じものを作っている。」という意見もあり、またそれに対して「ドキュメンタリータッチで身辺を映画いた作品もあれば、『エクステ』『奇妙なサーカス』のように闇の部分をカリカチュアして描いた作品もある。宗教や父親の問題など主題的なものに力を入れている。」という分析や、「とにかく並外れた作品。女の子が素っ裸で、二十代の若者を劇場に向かわせる監督だ。」と総括(?)されたり。大変有意義な特集上映だったようですが、一番の話題作『愛のむきだし』でさえ、思ったよりお客さんが少なくて残念でした。

暫定第6位から圏外となった『ちょんまげぷりん』。江戸時代のサムライが現代にタイムスリップして恩義のある母子のために家事をするというとても楽しいお話で、観た人が9人、ベストテンに入れたい人が5人という高得点。しかし、「テレビドラマ以下。喜劇なら川島雄三がうえ。これくらいの作品は昭和3、40年代に腐るほどある。」という厳しい意見の他に、「TOHOシネマズ高知でも上映されていた。『フローズン・リバー』はあたご劇場でも上映されてベストテン入りしたが、あたご劇場なら贔屓するがTOHOシネマズが上映したものをオフシアター・ベストテンにしたくない。」という意見があり、「そういや、そうだ」と合計4票の拒否を受け、熱烈支持者を泣かせてしまったのでありました。

日本映画はめまぐるしく順位が変わったので、江戸川乱歩の「芋虫」を装った反戦映画『キャタピラー』も暫定12位から圏内に浮上したばっかりに、完膚無きまでに拒否されました。「木下恵介監督の『死闘の伝説』と同様のテーマ。寺島しのぶ、どうして賞が獲れるの?」「低予算にしても関係ない広島・長崎の映像を入れたりしてチープ。」「前半は熱量があって面白い。後半はしのぶの演技に頼りっぱなしで、ストーリーのまとめなし。」「感性が合わない。」と散々で、「DVネタは入れてほしくなかったし、乱歩の原作を尊重して倒錯夫婦を描いてほしかった。だけど、今、他にこういう作品を撮る人がいない。こういう作品に人の目を向けさせるパワーを買いたい。」という擁護もありましたが、得票数3から拒否票4を差し引いて、前代未聞のマイナスポイントとなってしまいました。

以下、順位に沿って出された意見を記載します。
第3位『パレード』。「行定監督が調子を取り戻してきた。」「藤原竜也、ぜんぜん変わらない。」
第4位『ポチの告白』。「高橋玄監督、三千万円の制作費で単館上映。その上映館に警察から上映について配慮をという圧力とも取れる電話があった。」「こんなことがあるのかと驚いた。」「自分はこの映画に驚くほど初じゃない。容疑者にされそうになったことがあって警察がどんなもんかわかっている。力作だが第2位は高すぎ。」
第4位『ヴァイブレータ』。「大森南朋を初めて良いと思った。」「『愛のむきだし』の方がうえだ。」「寺島しのぶが『キャタピラー』より初々しい。」「しのぶの裸は見飽きた。」
第7位『不灯港』。「映画未満。」「最高。ヘタうま。」
第7位『生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』。「当時、東京、大阪くらいでしか上映してない。原発問題を描いた傑作。」「当時、原発ジプシーを描いた作品として価値があった。放浪、ストリッパー、どっちつかず。」
第10位『春との旅』。「最悪。つまらない。ステレオタイプ。仲代達矢の演技がイヤ。」「いやいや、これまでの仲代と違うと見直した。」「春の歩き方に作為を感じる。あんな子が現実にいるのかというくらい子どもっぽい。社会経験がなくても、あの年頃の娘はあれほど子どもではない。(春にその年頃の主張をさせないことで)ファンタジーになっている。」

まる画像贔屓について

ちょっと、補足しておきたいと思いまして。
高知のオフシアター・ベストテン選考会では、オフシアターで上映された作品(興業が目的でないもの)を対象としていますが、たまにオフシアターでの上映と前後してTOHOシネマズ高知やあたご劇場でも興業上映される作品があります。2010年は、『フローズン・リバー』(シネマ・サンライズ主催)と『ちょんまげぷりん』(えいネ〜主催)がそうでした。これまでは、対象作品であってもそういう作品を「オフシアター・ベストテン」に入れるのはいかがなものかと弾いてきた(ベストテンに推さなかったり拒否票を投じたりした)ことがあったと記憶しています。しかし、今回のこの二作品は、力と人気があってどちらもベストテン入りしそうでした。
で、今回、なぜ、あたご劇場で上映された『フローズン・リバー』は残されてて、TOHOシネマズ高知で上映された『ちょんまげぷりん』は落とされたか(あたご劇場を贔屓する理由)ですが、それは下の「第56回県民が選ぶ映画ベストテン」をご覧いただければ一目瞭然。県民が選ぶベストテンは、興業が目的の作品が対象と言っていいと思いますが、下記のベストテンにあたご劇場で上映された作品は1本も入っていません。2010年も『3時10分、決断のとき』や『クロッシング』などベストテン入りして不思議はない作品が上映されたのに。というわけで『フローズン・リバー』(あたご劇場上映)への拒否票よりも、『ちょんまげぷりん』(TOHOシネマズ高知上映)への拒否票が増えたのだと思います。

まる画像選考結果表(情報提供:高知のオフシアター・ベストテン選考会事務局)

ベスト10及びベスト11以下の得点が一覧になっています。また、選考の対象となった作品(2011年に高知のオフシアターで上映されたほとんどの作品)がわかります。
選考結果表(PDFファイル 180kb)

まる画像第56回県民が選ぶ映画ベストテン(2010年12月25日高知新聞より:応募総数318通)

外国映画

  1. アバター
  2. ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1
  3. カールじいさんの空とぶ家
  4. トイ・ストーリー3
  5. アリス・イン・ワンダーランド
  6. ナイト&デイ
  7. インセプション
  8. ベスト・キッド
  9. ハート・ロッカー
  10. シャッター・アイランド

日本映画

  1. 君が踊る、夏
  2. 告白
  3. 悪人
  4. SP 野望篇
  5. THE LAST MESSAGE 海猿
  6. 借りぐらしのアリエッティ
  7. 踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!
  8. 十三人の刺客
  9. おとうと
  10. パーマネント野ばら