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■ひきだしバレエ(ダンス)覚書>H・アール・カオス「春の祭典」(2005)


H・アール・カオスとは、振付・演出の大島早紀子と、白河直子を中心とした数名の女性ダンサーからなるカンパニーです。先日、初演の「時の痕跡」と世界的にも高く評価されているという「春の祭典」を見ることができました。出演者等は下の表をご覧ください。

いやー、「春の祭典」は、本当に素晴らしかったです。すごいものを見てしまいました。クライマックスでは圧倒されて涙が湧きました。「時の痕跡」は、大島さんの振付の間に白河さんの即興を入れるという、初めての試みだったそうです。悪くはないですが、「春の祭典」について書きたいので、「時の痕跡」の感想は省略します。

●「春の祭典」の第一部
薄暗い部屋の中、横たわった女が股に挟んだ手をグッパグッパするところから始まります。自らを慰めているのかしらと思いましたが、やや明るくなると椅子や電気スタンドが倒されているのがわかり、どうやらこの部屋で狼藉を働いた者がいたようです。白い下着姿の女は、その狼藉を働かれた様子を再現するかのごとく、激しく痛めつけられるように踊ります。
うわー、すごい、すごい!ストラヴィンスキー!!!
とまあ、この辺は私も踊りについては冷静で、ストラヴィンスキーの竜巻のような音楽(テープ)のパワーに心中拍手を送っておりました。
やがて、4人の黒い服を着た人物が現れまして、女を執拗に追いまわします。

●第二部
始まりは、うずくまる女にフラッシュが浴びせられ、カメラのシャッター音がパシャパシャとうるさいくらいです。そして、暗転した後、音楽が始まるとバスタブから白い手、白い片足となまめかしく現れます。そんな静寂とも思えるシーンはつかの間、さっきの黒服の4人が現れてひとしきり踊った後で、女をいじめ抜きます。
このいじめ方が素晴らしい!(?)
4人は四方からワイヤーにつるされた椅子を女にぶつけようと次々と投げ出します。女はブーンブーンと繰り出される椅子にぶつからないよう、身を伏せ転がり、もー大変です。多勢に無勢で勝ち目はありません。いじめはどんどんエスカレートしていくばかりです。
ついに追い詰められて、水の張ったバスタブに頭から押し付けられるのですが、ここからが壮絶でした。
女が水につかった頭を大きく振り上げたかと思うと、その水は弧を描いて舞台に散り、次の瞬間には自ら水に頭を叩きつけ、水はあたりに飛び散り、また振り上げ、振り回し、水しぶきは円を描き、叩きつけ、とまあ、あまりの痛々しさに涙がどっと来たわけです。
しかし、それだけでは終わりません。ラストシーンが、これまたとんでもなかったのです。←これ、まだ見てない人のために、わざと書きませんね。機会があれば、ぜひ、ご覧ください。もしかしたらDVDが出るかもしれませんし。

●ストーリー性
上記でおわかりのとおり、「春の祭典」は、ストーリー性がある作品でした。暴行を受けた女性が、マスメディアを通じて世間からも暴行を受けるというお話です。現代社会を写し取ったような話は、コンテンポラリー(同時代の)・ダンスならではで、なかなか刺激的です。
社会や現代人を批判するような感じの作品ではなく、ただ主役の女性の痛みがダイレクトに観客に届くだけの作品であるため、観客はその痛みを反芻するに止まり、考え込まされるようなことはありません。(少なくとも私はそうでした。)
また、痛みを反芻するにしても、それは素晴らしい舞台を反芻すること他ならず、ちっとも暗い気持ちにならないのがありがたいところです。

●椅子とワイヤーとダンサー
この素晴らしい舞台は、音楽と振付とダンサーと椅子とワイヤー(もちろん、水しぶきも。)が、うまくかみ合うことで成り立っておりました。
ワイヤーでつるされた四つの椅子と、同じくワイヤーでつるされた4人のダンサーが、それぞれの椅子と一体となって空中を浮遊する様は、新しい動きの発見でした。(発見者は、振付の大島さんね。)浮遊していた椅子が、次には凶器となるのも、うまい使い方です。
また、被害者の女性がワイヤーでつるされ回転する様は、ダンサーの自発的な動きでありながら、回転させられている(痛めつけられている)感じがよく出ていました。

被害者を演じた白河さんはスタイル抜群で、脚がきれい。素足で踊るので艶めかしさがありました。ジャンプして離れた椅子と椅子との間に橋のように水平に着地したりで、ジャッキー・チェン並の(?)運動能力。お顔の表情も真に迫っていました。白河さんのこの演技力があってこそ、痛ましさが伝わってきたのでしょうね。
世間を演じる4人のダンサーは、これがカッコイー!!!振付がカッコいいのでしょうが、踊りがそろっているし、上手いのでなおさらカッコよく見えます。
例えば、被害者からタオルを取り上げ、被害者が取り戻そうとするのを4人で投げあい返さない場面では、投げたタオルをジャンプして取って、また投げて取るという4人の素早い連続技に目を見張りました。ジャンプしたときのポーズが美しいので、思わず脳内シャッターを切りました。

というように、大変よい舞台でしたので、機会があればお見逃しなく!
以下は、自分のための覚書と、アフタートークを聴いてきたので、おまけのレポートです。

●ストラヴィンスキーの「春の祭典」について
「春の祭典」の音楽だけ聴くのは、疲れるだけであまり楽しいことではないと思うのですが、「春の祭典」と映像(ディズニー・アニメ『ファンタジア』)、あるいは「春の祭典」とダンス(モーリス・ベジャール振付)という組み合わせは素晴らしいと思っていました。そういうわけで、演目が「春の祭典」だったからH・アール・カオスを見に行った次第。

アフタートークの乗越たかおさんによれば、「春の祭典」は音楽と拮抗するだけの振付があってこそ成功するのだそうです。下手な振付だと音楽に負けてしまうとのこと。
例えば、マッツ・エク振付・演出の「春の祭典」は、エク本人も失敗作と言っているとおりの珍品だったそうです。(登場人物が芸者姿とチョンマゲなんだと(笑)。このエピソードで益々エクが好きになるわ〜。)
で、大島さんの振付は、モーリス・ベジャール、ピナ・バウシュと並んで世界三大「春の祭典」と言って間違いないとのことでした。

●ロシアの春と世の中の変わり目
日本で春と言うと、うららかな情景が思い浮かびますが、「春の祭典」はうららかとは程遠い音楽です。
ロシアでは、大地が割れて生命が生まれる、それが春なんだそうです。それまであったものが、新たに生まれ来るものによって崩れていく恐ろしさ、冷たい雪の世界が壊れて生まれ変わる喜び。それがロシアの春なんだそうです。「春の祭典」は、そんな春が来るとき、生贄をささげる風習を音楽で描いたものだそうです。

大島さん曰く、「被害者を追い詰めるワイドショーなどをいけないと思いつつ見てしまうような自分たちの心が、更に被害者を追い詰めることになってしまう。これは今の世の中がいろんな面で行き着くところまで来ていることの一例だ。現在の私たちが、行き着くところまで来たのであるならば、次は変わるしかない。今が世の中の変わり目ではないか。被害者は、世の中が変わるための犠牲(生贄)となっているのではないか。それが、「春の祭典」との接点となって、振付の取っ掛かりとなった。」

2005/10/15
 
■H・アール・カオス
2005年10月8日(土)19:00〜
アフタートーク:大島早紀子×乗越たかお
高知県立美術館ホール
「時の痕跡」 音楽:?
構成・演出:大島早紀子
振付:大島早紀子、白河直子
白河直子
小林史佳
斉木香里
「春の祭典」 音楽:ストラヴィンスキー
構成・演出・振付:大島早紀子
白河直子
木戸紫乃
小林史佳
斉木香里
野村真弓


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