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■ひきだしバレエ(ダンス)覚書>シュツットガルト・バレエ(2005)


シュツットガルト・バレエの「オネーギン」と「ロミオとジュリエット」の2演目、3公演を見てきました。「オネーギン」が素晴らしかったです!感動しました。キャスト等は、下の表をご覧ください。

 

●オネーギン(11月10日よる)
・音楽
チャイコフスキーの音楽がいいですね〜!潤いのある美しい旋律(うるうる)。オペラ「オネーギン」の曲は使わず、他の曲を使っているそうですが、まるでこのドラマチック・バレエ「オネーギン」のために作曲されたかのように物語にピッタリでした。編曲のクルト・ハインツ・シュトルツェさんに拍手!

・構成
また、振付・演出のジョン・クランコも素晴らしい!演劇として無理・無駄・むらがなく、スッキリと引き締まり、完璧と言っていいほどです。
構成は、色々対比が効いています。第一幕では仲睦まじいレンスキー/オリガのペアと、そうでないオネーギン/タチアナのペアを、第一幕の幸せな夢のパ・ド・ドゥと第三幕の悲痛な現実のパ・ド・ドゥを、第二幕の恋文の拒絶と第三幕での恋文の拒絶の意味合いの違いを、第二幕で田舎の貴族、第三幕で都会の貴族の群舞を、それぞれ対比して見ることができます。
原作のプーシキンの韻文小説を読んでなくても、映画を見て知っていた話ですが、クランコの「オネーギン」ほど色々対比させて各エピソードを印象づけられると、こんなに面白い話だったのかと初めて認識させられました。お見事と言うほかありません。

・振付
登場人物の感情、音楽及び振付の波が一体となっていて、見るにわかりやすく、同調できます。それは主要人物だけでなく、群舞の振付においても同様です。音楽の高揚する部分でリフトを用いて、女性ダンサーがふわりと宙に浮き、沈むと同時に次の組がまたリフトでふわりという風に、正に音楽の波に乗っているという感じです。

・オネーギン
田舎の小娘だったタチアナが、女性として大変魅力的に成長するため、「オネーギン」の主人公はタチアナではないかと思われがちだそうです。また、オネーギンて嫌なやつと思われがちでもあるそうです。(実際、お手洗いで「冷たいわよねー」と言われていました。)しかし、私にとってクランコの「オネーギン」は、やはりタイトルロールが主人公であり、彼は嫌なやつじゃなくて、可哀想なやつというか、中年の悲劇というか、たいへん同情しました。

第一幕、登場。黒づくめ。カッコイー!都会からきた若い紳士です。退廃的な雰囲気さえ魅力的。本の虫、タチアナが一方的にラブラブになるのも無理はありません。恥ずかしがったり、まとわりついたりするタチアナを、あくまでも紳士的にエスコートするオネーギンには、嫌味のイの字も感じることはできませんでした。

第二幕では、タチアナから送られた恋文を破って返却します。ここがどうも冷たいと言われるゆえんだと思われますが、でもね、ちょっと待って(プレイ・バック)。オネーギンは、舞踏会の人がはけて、タチアナと二人きりになってから、丁寧に手紙は受け取れないと返そうとするのですよ。紳士ですわよね。でも、タチアナは、手紙を受け取らず、オネーギンに持っていてほしいと一方的なのです。そういう遣り取りがいくらかあって、「やれやれ」と思ったオネーギンは、タチアナの後ろから両腕を回して、彼女の目の前で手紙を四つくらいに破いて、「これでわかるでしょう?」という風に彼女の手のひらに乗せてあげるのです。完全に聞き分けのない子どもに対する態度です。う〜ん、確かに冷たいとは言えても、優しいとは言えませんか(汗)。でも、面と向かって、いきなり破いて捨てるのとは、明らかに違うでしょう。
この後、憂さ晴らしのためにオリガをダンスに誘う態度は誉められたものではありませんが、レンスキーとの決闘は、決して望んだことではなく、手袋をなかなか拾おうとはしません。決闘の朝も、止めようとレンスキーに持ちかけます。

第三幕、月日が経ってオネーギンは白髪混じりで、公爵家の舞踏会に現れます。登場してから舞台の前方に歩いてくるまでに、第二幕の決闘後のオネーギンの人生をフラッシュ・バックで見せます。この演出、素晴らしいですね!それまで大勢いた舞踏会の客が一瞬にして引き、照明が、やや暗い青になり、次々と女性が現れます。その一人一人と少しずつ踊って、舞台の前方に来る頃に照明が元にもどり、舞踏会の客もいつの間にかそこにいます。
このフラッシュ・バックは、オネーギンが付き合った女性はたくさんいたけれども、いずれも長くは続かなかったことと、彼が人生に倦みながらも理想の女性を求めていたことを表していると思いました。さあ、そこへ、グレミン公爵夫人となったタチアナの登場です。

グレミンと踊るタチアナ。オネーギンは、彼女から目が離せません。(そのせいか、グレミンとタチアナのパ・ド・ドゥのはずなのに、タチアナのソロのような印象です。リフトも多かったんじゃないかな〜?オネーギンがタチアナを見上げるような印象の場面です。)
彼女こそ理想の女性と思い込んだオネーギンは恋文を送り、彼女の私室に赴き、情熱をぶつけます。(この場は、タチアナの視点で描かれているので、タチアナが主人公なのかなあ。)タチアナは人妻です。人妻に迫るのは無分別ですが、恋は情熱。タチアナに避けられても、ひたすら追います。懇願します。跪きます。激しいパ・ド・ドゥです。
これって第二幕での立場が入れ替わっていますよね。恋をすると何としても受け入れてほしい!第二幕ではオネーギンはタチアナのことはアウト・オブ・眼中でしたが、この幕で迫られるタチアナは、オネーギンを未だに想っているのです。手紙を破って拒絶する行為は同じでも、全く意味合いが異なります。第二幕で手紙を破ったオネーギンの心は、ちっとも痛まなかったでしょうが、第三幕のタチアナの苦しさといったらないでしょう。
図らずも手紙を破られる方に回ったオネーギン。第二幕で手紙を破られたタチアナの傷心と比べてどうでしょう。第二幕のタチアナが、どれほど深く傷つこうとも彼女は若かった。立ち直って、素晴らしい女性に成長しました。でもでも、オネーギンは?どんな女性とも長続きせず、もう若くはない彼が、やっと巡り合った理想の女性に振られる痛手は?
そう思うと、私室でドラマチックにたたずむタチアナよりも、走り去ったオネーギンの憐れに胸を衝かれたのでありました(涙)。

・ダンサー
うえのように素晴らしい舞台でありますので、もちろんダンサーが悪いはずがありません。ほとんど言うことなしなのですが、レンスキーを演じたカニスキンは、技術的にはよかったと思うのですが、演技面では更なる精進が必要だと思います。
一つには、オネーギンの親友に見えるようにしてほしいです。厭世的なオネーギンがレンスキーを好きなのは、多分レンスキー(詩人だし)の純粋性に惹かれたのじゃないかな。世俗の人々にはない高潔さ、そういうものを醸し出してほしかったです。そうすれば、オネーギンと釣り合いが取れると思います。
また、もう一つは、第二幕で決闘を申し込むとき、これは申し込まざるを得ないねと観客に思わせてほしい。オネーギンは執拗にオリガをダンスに誘い、オリガもまんざらではなさそうに従っていました。レンスキーが、手袋を投げるお膳立てはできていたと思います。が残念ながら、レンスキーの方は、婚約者が自分以外の異性と踊るのを許せない狭量な男に見えてしまいました。やっぱり高潔さが足りなかったのかな。

しかし、レンスキー役の力不足もなんのその、年を取ってからの挫折に思いをいたすとともに、美しいドラマチック・バレエを見た満足感(幸せ〜)に浸れた夜でありました。

・お話と見所(おまけ)
第一幕は、都会で倦み疲れた憂愁の貴族オネーギンと田舎の文学少女タチアナの出会い。タチアナがオネーギンにお熱で、恋文を書き連ねた後、鏡の中から現れたオネーギンと踊る夢を見ます。見所は、もちろん、「鏡のパ・ド・ドゥ」。(オネーギンの親友レンスキーと、レンスキーの婚約者オリガとのパ・ド・ドゥもあります。)

第二幕は、田舎でのダンス・パーティー。タチアナの恋文は、オネーギンには受け入れられず。退屈なオネーギンは、冗談で親友レンスキーの婚約者オリガにちょっかいを出して、激情家のレンスキーに決闘を申し込まれます。見所は、田舎の貴族の群舞と、決闘場面のレンスキーの踊り。

第三幕は、第二幕から時が経っており、タチアナは公爵夫人となっています。オネーギンは、公爵家で再会したタチアナに一目で魅せられ、熱烈な恋文を送ります。公爵の留守中、タチアナの部屋に現れたオネーギン。タチアナは、オネーギンへの恋心はあるものの、分別を持って手紙を返却し、彼を拒絶します。見所は、公爵家での都会の貴族の群舞と「手紙のパ・ド・ドゥ」。(グレミン公爵とタチアナのパ・ド・ドゥもあります。)

見ている間はちっとも気付かず、解説書を読んで「なるほど!」と感心したのは、小道具の鏡の用い方です。
第一幕の「鏡のパ・ド・ドゥ」には、実は伏線があったのでした。誕生日に鏡を覗いて、そこに映った男性が伴侶となるという言い伝えがあって、タチアナは誕生日に周りの者に勧められて鏡占いをしてみるのですが、ちょうど挨拶をしに近寄ったオネーギンが手鏡に映るのです。そんなわけで、タチアナの部屋の姿見にオネーギンが現れる夢を見るのですね。(舞台が遠いと手鏡か本かわからないっす(残念)。)
それから第三幕の「手紙のパ・ド・ドゥ」は、タチアナの私室で踊られます。私室には化粧鏡があって、オネーギンからの恋文を読んだタチアナは、化粧鏡を見つめるらしいのです。(気がつかなかった(残念)。)
化粧鏡を見て思い出すのは、誕生日の鏡占いと、夢に鏡から現れたオネーギンなんでしょうね。う〜ん、解説は読んでみるもんだ。

 

●ロミオとジュリエット(11月12日ひる)
「オネーギン」が素晴らしいドラマチック・バレエだったので、俄然「ロミジュリ」への期待が高まりました。しかし、これがですねー、あんまり深い感慨がないのですねー(残念)。
有名なバルコニーの逢瀬シーンも墓場での嘆きのシーンも今一つ。
キャピュレット家の舞踏会で舞踏に興じている人々をカーテンの向こう(舞台奥)に、手前でロミオとジュリエットが踊るシーンはよかったです。パリスやらティボルトやらが、ジュリエットの様子を伺いに来て、そのたびにロミオが柱の影に隠れるという演出はおもしろかったです。
ロミオ、マキューシオ、ベンヴォーリオの三人が並んで踊るところがあるのですが、ロミオのフォーゲル君がちゃんと踊れてないような。全く同じ振付を横一列に並んで踊るものだから、自然と比較してしまいます。怖い振付ですねえ(笑)。観客としては楽しいですが。
あ、でも、フォーゲル君のロミオは、友だちと身体をぶつけ合うところなんか、やんちゃな感じで若々しくてよかったです。
ジュリエットについては、う〜ん、ほとんど印象に残っていません。
マキューシオ役のダンサーが、とっても可愛かったのはよく覚えているのですが。
ヌレエフ演出のパリ・オペラ座の「ロミジュリ」の呪縛ですかね〜。プロコフィエフの音楽が情景にピッタリなせいでしょうか、台本がほとんど同じなので、音楽を聴くとヌレエフ版が思い出されて比較してしまうのです。これは本当に損なことです。何とか呪縛を解かねば!

 

●ロミオとジュリエット(11月12日よる)
夜の公演は、昼の公演より大人のロミジュリでした。同じ十代でも子どもっぽい者もいれば大人っぽい者もいるから、いろんなロミジュリがあっていいですね。
そして、主役のダンサーがよかったですー。
2003年の世界バレエフェスティバルで見て以来、もう一度見たいと思っていたバランキエヴィッチ。お目当てのダンサーがカッコよかったのは嬉しかったです。ロミオ、マキューシオ、ベンヴォーリオの三人が並んで踊っても、ロミオのバランキエヴィッチが一番上手い!すっきり爽やかな踊りです。ただし、ティボルトと剣を交えるところで、まだ打ち込まれてないのに先走って受けていたのは反省材料ですね。(彼のレパトーリーには「オネーギン」のレンスキーもあるとか。ああ、バランキエヴィッチのレンスキーを見たかった。ロミオよりレンスキーがよかったかもしれません。)
ジュリエットのスー・ジン・カンは、初夜以前と以後との演じ分けがうまかったです。特に以後のしっとりした大人の女性の踊りがよかったです。ショールを翻してローレンス神父に会いに行くところの切羽詰った感など、よくでておりました。
マキューシオは、なかなか役者でした。ベンヴォーリオは、金髪さらさらで踊りも綺麗で眼福。ティボルトは、恥ずかしながら昼の人と同じと思っておりました(汗)。
主役のダンサーの踊りが印象に残っても、やはりバルコニーのシーンで感動できなかったし、全体としても感動とまでは行かず。それでも反芻して、見てよかったとしみじみは出来たので、「よし」とすべきでしょうかね〜。

2005/12/12up
 
   
■「オネーギン」全3幕

音楽:ピョートル・チャイコフスキー|編曲:クルト・ハインツ・シュトルツェ|原作:アレクサンドル・プーシキンの韻文小説|振付:ジョン・クランコ|装置・衣装:ユルゲン・ローゼ|指揮:ジェームズ・タグル|演奏:東京ニューシティ管弦楽団
東京文化会館(上野)
世界初演:1965/04/13(シュツットガルト)|改訂版初演:1967/10/27(シュツットガルト)
登場人物 11月10日(木)夜
オネーギン マニュエル・ルグリ
レンスキー ミハイル・カニスキン
ラーリナ夫人 メリンダ・ウィザム
タチヤーナ マリア・アイシュヴァルト
オリガ エレーナ・テンチコワ
乳母 ルドミラ・ボガート
グレーミン公爵 イヴァン・ジル・オルテガ
親類、田舎の人々、貴族たち シュツットガルト・バレエ団
 
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■「ロミオとジュリエット」全3幕

音楽:セルゲイ・プロコフィエフ|原作:ウィリアム・シェイクスピア|振付:ジョン・クランコ|装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ|指揮:ジェームズ・タグル|演奏:東京ニューシティ管弦楽団
東京文化会館(上野)
初演:1962/12/02(シュツットガルト)
登場人物 11月12日(土)昼 11月12日(土)夜
キャピュレット公 ローランド・ダレシオ
キャピュレット夫人 メリンダ・ウィザム
ジュリエット アリシア・アマトリアン スー・ジン・カン
ティボルト イリ・イェリネク イヴァン・ジル・オルテガ
パリス ニコライ・ゴドノフ エヴァン・マッキー
乳母 ルドミラ・ボガート
モンタギュー公 ディミトリー・マジトフ
モンタギュー夫人 クリスティーナ・パザール
ロミオ フリーデマン・フォーゲル フィリップ・バランキエヴィッチ
マキューシオ アレクサンドル・ザイツェフ エリック・ゴーティエ
ベンヴォーリオ ミハイル・カニスキン マリジン・ラドメイカー
ヴェローナの大公 アレクサンドル・マカシン
僧ローレンス アレクサンドル・マカシン
ロザリンド サラ・グレザー
ジプシー エリサ・カリッロ・カブレラ、オイハーン・ヘレッロ、カーチャ・ヴュンシェ
カーニバルのダンサー ローランド・ハヴリカ ローラン・ギルボー
ラウラ・オーマレイ、ミハイル・ソロヴィエフ、カタリーナ・コジィルスカ、トーマス・ダンエル
ヴェローナの貴族と街の人々 シュツットガルト・バレエ団
 
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