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■ひきだしバレエ(ダンス)覚書>ハンブルク・バレエ「人魚姫」(2009)
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今年3月に兵庫県でハンブルク・バレエの「人魚姫」を観てきました。詩人の叶わぬ恋の痛みから生まれた人魚姫。人魚姫の苦しみは詩人の苦しみでもあります。舞台では詩人が、かつての自分を見るように人魚姫を見ています。人魚姫が泡となって消えるとき、詩人もならんで踊ります。視線は上へ上へ。共に苦しんだ二人は星空に向かって昇っていくよう。静かに輝くものになった二人に、自然と「昇華」という言葉が浮かんでくる舞台でした。配役は下の表をご覧ください。

●始まる前から始まっている>演出
客席についてまず目にするのは、上手の方に「人魚姫」と書かれた青い紗幕です。この紗幕は漢字圏での公演用かなぁなどと思いつつ、同時に目に付くのは下手から上手へと(上手から下手でもいいけど;;;)ゆるやかに波打った青く発光する線。そして、中央に何か物体が。オペラグラスで覗くとホラ貝だ〜!あー、海の雰囲気ですねー。
というわけで、他にも演出に感心させられることしきり。例えば、プロローグでは、失恋する詩人が描かれるのですが、舞台中央に白く照らし出された長四角の小さなスペースで演じられるので、スクリーンに映写された映画を観ているようであり、とても印象的な導入部となっています。また、このプロローグは客船のデッキでの出来事であり、青く発光する線は波だったことがわかります。舞台全体として見ると、中央部だけが白く明るく、その他は黒いけれど1本の青い線が横断していて洗練された美しさです。そして、その中で自分の恋する人が結婚し、祝賀の輪が移動して、詩人は誰にも気づかれず取り残されるのです。

四角く切り取られた空間ということでは、第二幕の陸で暮らす人魚姫の部屋も印象的でした。いびつな箱のような部屋で、自由を奪われた人魚姫の息苦しさが伝わってきました。壁にぶち当たっても自ら打破する方策なしという状況を表現するのに、表現力豊かなダンサーがいて、その上このような部屋ですから鬼に金棒的な演出だと思います。
話は前後しますが、「人魚姫」の物語が始まって王子が船から落ちたとき、青い波線がぐぐーっと上がっていったのには驚きました。海面が上の方になったので、舞台が一瞬にして水底となったんですねー。

●歌舞伎からヒントを得た衣装や黒衣
その水底では人魚姫が泳いでいます。人魚姫の衣装は、「殿中でござる」の殿中で穿く長袴をアレンジしたようなもので、この尾ひれが長い長い(笑)。尾ひれが底につかないように泳げるのは、黒衣のような3人のダンサーのお陰です。彼らのリフトや尾ひれさばきによって、人魚姫は魚類として生き生きと泳ぎまわっておりました。
メイクも隈取りからヒントを得たのでしょうか(それとも大槻ケンヂから?)、人魚姫の顔には青い筋を入れています。人魚姫に足を与える役どころの海の魔法使いは、まさしく隈取り。衣装も着物や袴っぽい。
こうして歌舞伎アイテムを上手く消化してくれていると、日本人としては嬉しいですよね。

●人魚姫のキャラクターと踊り
まるで女王のように海中を泳ぎ回っていた人魚姫は(あれは本当に魚類の動きだわ)、溺れた王子に恋をして陸に上がるわけですが、陸に上がるとぎこちない動きで上手く歩けず、車いすにも乗せられます。童女のように無垢な瞳で王子を追いますが全く報われず、可愛らしさと痛々しさが同居するような感じ。人魚姫の世界には王子と自分しかいないみたいです。
そして、王子が婚約しても、まだまだ傍にいたそうに見えました。だから、王子を殺せば海に帰れると魔法使いからナイフを渡されても、当然、殺すという選択肢はなく、叶わぬ恋に壮絶なまでに苦しむだけです。床に転げて苦しむ様は、水中を気持ちよさそうに泳ぐ様とは対称的で、さすがの私も目に涙でありました。そして、ここをくぐり抜けてこそラストの星空への感動があるのですね。

そうそう、王子と王女と人魚姫と詩人で踊る場面があるのですが、王子と王女がラブラブで二人とも悪い人ではないので人魚姫にも優しい。でも、二人は人魚姫に対しては小さな可愛い子どもに接するよう。どうしても王子に振り向いてもらえない人魚姫の哀しさがよくわかる詩人は、やはり心に痛みを感じている様子なのですが、人魚姫を慈しむ様にも見えて切なさいっぱいの場面です。←ここ、好き〜。
とてもよい舞台で再び観たいくらいなのですが、唯一おしいのが王子より詩人がカッコいいところ。踊りも詩人の方が際だって美しいのです(お茶屋好み)。王子=エドヴァート役には、有無をいわせぬスタアの輝き、若しくは何とも言えぬ魅力がほしいところです。(まあ要するにお茶屋好みにせよと(^_^;。)

●音楽>レーラ・アウエルバッハ
この舞台を再び観たいという理由の一つが音楽です。音楽、素晴らしい!海の大きさと、大きさゆえの重みが感じられるし、水中の浮遊感もあります。美しくキャッチーな旋律もよいです。「椿姫」の公演とどちらを観ようか迷ったときに、生演奏と日帰りできる時間帯ということで「人魚姫」にしたのですが、こっちにしてよかった〜と思いました。(「椿姫」を観たら言うことが変わるかもしれませんが(笑)。)
水中の浮遊感は、どうやらテルミンとバイオリンによるものらしいですが、観ている間は楽器のことにまで思い及ばず、音楽が支える舞台の世界にどっぷりと浸っておりました。
パンフレットを見ると、作曲したレーラ・アウエルバッハって超美人!色っぽい。天は二物を与えますね〜。

●ジョン・ノイマイヤー
今回、初めてノイマイヤーの全幕作品を観ましたが、理知的で洗練された舞台という印象を持ちました。演劇的だから物語としての面白さがあります。ノイマイヤーの代表作「椿姫」はもちろん、「幻想『白鳥の湖』のように」「ニジンスキー」なども観てみたいです。次にハンブルク・バレエが来日するのは何年先かな?長生きはせんといかんですね〜。

2009/9/23
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■ハンブルク・バレエ「人魚姫」全2幕
2009年3月1日(日)14:00〜 兵庫県立芸術文化センター
演出・振付・舞台装置・照明・衣装:ジョン・ノイマイヤー|音楽:レーラ・アウエルバッハ|指揮者:サイモン・ヒューウェット|ヴァイオリン:アントン・バラコフスキー|演奏:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
詩人 イヴァン・ウルバン
人魚姫(詩人の創造物) シルヴィア・アッツォーニ
エドヴァート/王子 カーステン・ユング
ヘンリエッテ/王女 エレーヌ・ブシェ
海の魔法使い オットー・ブベニチェク


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