わが母の記

奉仕があるから愛がある、愛があるから奉仕がある。
う~ん、伊上洪作(役所広司)、作家だけあってうまいこと言う。愛があると何かしらしてあげたくなる、そういうことでしょう。しかし、作家でありながら、その奉仕を感じ取れないとは情けないぞよ。母八重(樹木希林)が持たせてくれた山葵三本。それは正しく奉仕、愛の証。母に捨てられた一念に凝り固まり、判断を誤る。それが人間というものなのでしょう。
そういえば、山葵だけじゃない。子どもの頃に母から授けられたお守りがあるではないか。う~ん、子どもにしてみたら、それだけでは足りなかったのね。やはり、子どもには言葉にしたり、抱きしめたりが有効なのかもしれない。

母子、父子、兄弟姉妹と家族の話はやはりイイ!笑いどころ満載!そして、ハイライトは、洪作と八重の縁側のシーン(涙)。
作家の妻は恐ろしいわ~。夫が母に捨てられたと苦い思いを抱えているのに、真相を明かさずケロリとしている。会計の管理だけでなく、作家が作品を生み出せる心理状態をも管理する。並の人には出来なかろう。
四季折々の風景もよかったし、赤みがかった映像に古き良き時代を感じさせられた。70年代の食堂の活気とトラックの運ちゃんの心意気もすごくよかった。
貸借ゼロにしたい日本人。なるほど。

監督:原田眞人
(2012/05/04 TOHOシネマズ高知2)

モールス

雪の積もった山間の一本道を救急車の赤色灯がゆっくり近づいてくる。この上から目線は『シャイニング』のオープニングみたいー。
音が、音がーーーー!むっちゃ怖い。音楽もよかった。
怖げな音とともに現れる原題は「牡丹灯籠」や~。邦題は怖くはないが、ラストシーンが強調されることになり、なかなかよいと思う。
それにしてもオーウェン(コディ・スミット=マクフィー)とアビー(クロエ・グレース・モレッツ)の純粋な恋物語として観れたらどんなによいか。あー、それなのに、アビーよ、これまで何人落としてきたの?とか、子どもならともかく、父親ほどに見える男性(リチャード・ジェンキンス)をどんな手練手管で惹きつけているの?とか、オーウェンは「次」だったんだよね、キープしてたのよね?とか。あーーー!もう!汚れちまった大人はやだねー(涙)。おまけに、「かみさんに血ぃ吸われて、もう、ボロボロですわ。」って、そういうメタファー???って、茶化すのやめなさーい!とものすごく楽しんだけど、汚れた自分をたっぷり感じた。

宗教に凝り固まって我が子を善悪の二元論でしかとらえない母親から旅立つ少年の物語として観ても面白いけど、そうすると母から旅立ち鬼嫁といっしょに・・・・!?いやいや、純粋で美しいお話なんだってば!
う~ん、感想にも葛藤がある。

警官(イライアス・コティーズ)

LET ME IN
監督:マット・リーヴス
(2012/05/02 あたご劇場)

その街のこども 劇場版

この映画、見逃していたけれど、2011年高知のオフシアター・ベストテン選考会で日本映画第1位になったおかげで、再上映され観れた。東日本大震災のあった年に上映されたということもベストテンに推す理由となっていたと記憶しているが、なるほど、どうしても東日本大震災のことを考えてしまう。

阪神淡路大震災の15年後、追悼集会に参加しようと神戸に帰ってきた美夏(佐藤江梨子)と、東京から広島への出張途上、追悼集会があることを知り、思い立って神戸で新幹線を降りた勇治(森山未來)。二人とも子どもの頃震災を経験している。出会ってから別れるまでの24時間で二人の距離が微妙に変化していくのが面白い。夜の街の空気感がよく伝わってくるし、美夏が亡くなった友だちの父親と手を振り合う場面などうるうるっと来る。建設会社で設計の仕事をしている勇次が、震災に遭ったとき出来るだけ安全なビルを建てたいと思っているのに、安全性より経済性が優先される現場でやるせない思いをいだいているところに、普遍性を感じたりして、こんなのが普遍なんてイヤだと強く思う。

この映画では身近な人を失う悲しみも描かれていたけれど、それよりも印象深かったのは人間関係の喪失だった。美夏の亡くなった友だちのお父さん。妻も子も失ったこのおっちゃんの様子が怖くて美夏は疎遠になってしまう。勇次の方は、震災後、父が儲けに走ってしまったお陰で恨まれ、友だちをなくしてしまう。
「絆」もあるだろうけれど、東日本大震災と福島第一原発事故で、生きている人間同士の関係性が壊れていってしまうとしたら、これほど悲しいことはない。怒りの矛先を間違えないように、よりよい解決策の方向性を見失わないように願っているのだけれど。

震災から15年、美夏はようやく気持ちの整理がついたのだろうか。勇次の方は、まだ追悼集会へ行く気になれないみたいだ。二人はお互いの気持ちを尊重して別れる。それぞれの思いを抱え続けるというラストだった。

監督:井上剛
(高知オフシアター・ベストテン上映会実行委員会、朝日新聞高知総局 2012/04/29 高知県立美術館ホール)

エリックを探して

さらりと愉快に作られているうえ、「やはり」というべきか、ケン・ローチ作品らしかった。

一番よかったのは、仲間っていいなと感じさせてくれたところ。仕事仲間というのは、家族の次に時空間を共にする人たちなので、うまくいけばエリック(スティーヴ・エヴェッツ)やミートボール(ジョン・ヘンショウ)たちのような関係を築けるだろうとは思う。だけど、世の中逆方向に進んでいるものだから、ケンちゃん、おとぎ話を作ったなと感じてしまう。それでも、集団違法行為で悪者をぎゃふんと言わせ、「エリックと家族に指一本触れるな」とその目的を告げ、「おれたちゃ、郵便配達員だ。覚えとけ。」と誇らしげな啖呵で締めくくられると、「このスクラムは、オールブラックスでも崩せまい」などとニマニマしてしまう。
それにおとぎ話と言えども、うえの結末に向かうまでの起承転結の「転」の演出はさすがで、エリックの義理の息子が拳銃を持って飛び出して行った後は、どうなることかと身が震えた。このへんの引き締まり具合は、『この自由な世界で』で突然やってきた覆面男に主人公が怖い目に遭わされる場面を思い出した。

「エリックを探して」は、主人公エリックが失った自尊心を探して取り戻すまでの話だと思う。それには、別れた妻リリー(ステファニー・ビショップ)に家出した理由を話せたことが大きかった。話せるようになったのは、外見を整え、体力を付け、リリーに向き合えるだけの下準備が必要だった。
私は自尊心については心配はないが、体力がまるでなく、何をする気も起こらないときが再々ある。だから、ジョギングでも始めたいのだけれど、靴だけ買って一度も走っていない。エリックにとってのカントナ(エリック・カントナ)は、私にとっては誰なのか。・・・・、そんなこと考えるより先に走った方がいいような気がしないでもない・・・・。

LOOKING FOR ERIC
監督:ケン・ローチ
(高知オフシアター・ベストテン上映会実行委員会、朝日新聞高知総局 2012/04/29 高知県立美術館ホール)