ヒミズ

感動した。
園子温は、やさしいなぁ。
住田祐一(染谷将太)を茶沢景子(二階堂ふみ)が救う。『20世紀ノスタルジア』で生死の瀬戸際に立っていたチュンセ(圓島努)をポウセ(広末涼子)が救った、あの変形版だ。チュンセと終末感漂う東京が重なり合っていたように、住田くんと東日本大震災後の日本が重なる。「がんばれ」という言葉だけなら虚しいが、傍にいて何があってもいっしょに居続けてくれる人が、大好きな人にどうしても言わずにはいられない言葉ならどうだろう。同じ言葉が異なる意味を持つ。魂の発露としての言葉についての映画にもなっていた。

青々しい物語に瑞々しい俳優。ツボだ。(このごろよく感じることは、子どもは社会の生命力ってことだ。夜野(渡辺哲)らの登場人物が、住田を見守り気遣い試しているのは、作り手にもそういう視点があるからだろう。)
それに、性と暴力とお笑い。映画の王道だねぇ。でも、暴力は苦手なんだよな~。父ちゃん、殺すのはいいけど(?)。(園作品はリアルなようでリアルでない。非現実のようで現実的。何か変な絶妙なバランスで成り立っているような気がする。)

ただでさえ葛藤の多いお年頃に、毒親のおまけ付きで、父親殺しというハンディキャップを背負っての再スタート。伴走する茶沢さんに私は「母親になりすぎないでね」と今は思ってしまうのだが、東日本大震災後の日本を変え得るのは母親パワーかもしれない。

監督:園子温
(2012/01/14 TOHOシネマズ高知5)

マイウェイ 12,000キロの真実

オペラ~。あれよあれよという間に話は転がり、登場人物の感情爆発、おー!そうつながるかぁと閉めもよく、ほどよい満腹感で劇場を後にした。
三つの軍服を着た日本人てフィクションかと思っていたら、事実に着想を得た話だそうで、観てみるとなるほどあり得ると思った。
また、始めは日本の軍国主義をナチスドイツみたいに悪者に仕立てた娯楽映画が出てきたかと思いながら観ていたけれど、最後まで観るとそんなスケールに収まらず、ソ連軍もドイツ軍も兵隊の退路を断って戦わせるのは同じだと描かれているうえ、主役の二人、長谷川辰雄(オダギリジョー)とキム・ジュンシク(チャン・ドンゴン)のヒューマンドラマになっていて、めでたしめでたし。サブキャラもいいし、とにかくオペラ。

長谷川辰雄をオダギリジョーが演じると、本来辰雄は軍国主義的な言動・思考には向いていないのに、周囲の環境によって軍国主義化していたように見える。12,000キロの長旅で軍国主義を脱し、ぼんやりしている姿を見ると、君の本当の姿はこれでしょー!と思わずにいられなかった。

MY WAY
監督:カン・ジェギュ
(2012/01/14 TOHOシネマズ高知8)

フライトナイト 恐怖の夜

面白かったー!!!思わぬ拾いもの。
ちょっと男前でコリン・ファレル似の安上がりの俳優を使っていると思ったら、ラストで「コリン・ファレル」とクレジットされていた。コリン君は、どんな役を演じても可愛かったのに、今回、不気味なうえに憎たらしく、このヴァンパイアには吸われたくない(血を)と思いながら観ていたので本人だったとは心底驚いた。にじみ出る可愛さを封じ込める役作りができるようになったのか、本当に可愛くないヤツになってしまったのか(謎)。
トニ・コレットの出演も嬉しかった。『シックス・センス』以来、母一人子一人の依頼が増えたのだろうか。ガールフレンドもできて手が離れた息子を見守る陽性のママぶりとともに、女性としてもまだまだイケる感じがよく出ており、隣のヴァンパイアを招き入れはしないかと心配させてくれる。
その息子チャーリーを演じたアントン・イェルチンは、登場したときは冴えなかったのに、飽きのこないお顔で瞳も麗しく、高3の役でその髪の毛は大丈夫かしらとは思ったけれど、額の広さといい中途半端なハスキーヴォイスといい、ひとまずポール・ベタニー系と分類させてもらった。主役を張るだけあって魅力的だった。
ガールフレンドのエイミー役イモージェン・プーツは、もちろん可愛かった。エイミーはチャーリーのことを本当に好きで、まるで『七年目の浮気』のマリリン・モンローみたいなセリフを宣うので、自分をダサくてモテないと思い込んでいる男子の救いの女神となっている。イモージェンちゃんは、こんな役柄の魅力を十分表現できているところが俳優としてイケてると思う。
チャーリーのオタクな親友エド(クリストファー・ミンツ=プラッセ)も、カリスマ魔術師と酒飲みひょうたんの落差も楽しいピーター・ヴィンセント(デヴィッド・テナント)もなかなか良かった。

お話はけっこうな穴がいくつかあったけれど無問題。ところどころ感動した(マジ)。
隣人はヴァンパイアだというエドの忠告を信用しなかったチャーリーが、立場代わって母に自分を信用してくれと言う。母が息子を信じるか否か、私にとってはここが最大の山場だった。
チャーリーとエドの悲しき関係(涙)。
ママよりエイミーの方がチャーリーをよく観てくれてるという関係も面白く、将来、母と妻の板挟みになったときは、迷わず妻を取れよ~と思う。

FRIGHT NIGHT
監督:クレイグ・ギレスピー
(2012/01/11 TOHOシネマズ高知9)

海洋天堂

海と空のシーンから始まったこの映画、明るく穏やかな水色と空色が印象に残るハッピーエンディングだった。

息子ターフー(ウェン・ジャン)が自閉症で彼一人では生きていけないのに、父ワン・シンチョン(ジェット・リー)の余命は数ヶ月。子どもより先には死ねないと思っていただろうけど。ワン父さんは残された時間で何とかターフーをみてくれる施設を探さなければならない。
そんなわけで、自然と中国の福祉事情が垣間見えるわけだけれど、ターフーが通っていた学校の元校長やワン父さんの職場の水族館館長(ドン・ヨン)など、周囲が協力していくことを描いているので、福祉施策の問題だけでないということがそれとなく伝わってくる。

感動したのはやはり子を思う親の気持ちにだ。自分が死んだ後、息子が寂しがらないように「父さんはウミガメだぞ~」と思い込ませるシーン。ウミガメの格好をしてコミカルなんだけど泣かされる。この手の映画は、アメリカを除いて(?)母と子が多いように思うけれど、今回、お父さんの面目躍如。ワン父さんが亡くなった後、教えられたとおり生活できているターフーを見ると、父ちゃんありがとうーとまた泣ける。二人の絆をぬいぐるみの置き場所で表現したのもとてもよかった。
演じるジェット・リーも素晴らしかった。優しい表情だけでなく焦りでつい叱ってしまったときの顔、叱った後の後悔の顔。顔の表情だけではない。病のため全身がけだるい様子などリアルだった。

サーカスでジャグリングをしているリンリン(グイ・ルンメイ)。旅がらす生活の孤独ってものがある。ターフーとの出会いに安らぎ覚えていたのがよかった。ターフーを掛け替えのない存在と思うのは親だけじゃないぞということだろう。

このようにハンディキャップを持ちながら生きる人に何が必要か、親子の情愛を主軸に描かれた作品なんだけど、私はワン父さんにも必要なものがあったと思う。
隣人のチャイ(ジュー・ユアンユアン)さんは、ワンさんを憎からず想っていて、どうやらワン父さんとは両思いなのだが、ここは東洋。子どもは一生手が掛かる。ワン父さんは、チャイさんにターフーの世話をさせるのは悪いと思い、想いを封じていたのだった。あああああ、これがフランスならねぇ!
私は『海洋天堂』は「現状」を描いてリアリティがあると思ったし、感動させてもらったので全然文句はないのだけれど、「感想、何書こうかな~」と思っているうちに、現実の世の中は、子どものためだけに生きる親の美談で終わらせず、親も親自身の別の幸福を追求できる「目標」があってほしいと思ったのだった。

海洋天堂 OCEAN HEAVEN
監督:シュエ・シャオルー
(アートゾーン藁工倉庫、日本財団 2011/12/24 アートゾーン藁工倉庫・蛸蔵)