窓外 inter face 1991-2021 甫木元空/石元泰博「フォトセンターの10年」2期

窓外

甫木元空「窓外」展のチラシ画像

学芸員が推す高知ゆかりの作家展ARTIST FOCUSも4回目となった。1992年生まれの甫木元空(ほきもとそら)は、映画を作ったりバンドをやったり小説を書いたりのマルチな才能を発揮している人らしい。今回の出品は、72点のインクジェットプリント写真からなる「窓外」、四方の壁ともいえるスクリーンに投射されたビデオインスタレーション「1991」、6点のインクジェットプリント写真からなる「銀河」の三作品だ。
「窓外」は母が亡くなるまでの数年間の、「1991」は作家本人がお腹の中にいる頃から今までの、「銀河」は母が亡くなってからの記録だ。

「窓外」は風景の切り取り方にセンスがあり、台所、洗濯物、倉庫のごちゃごちゃしたものがたいへん繊細に捉えられ美しい。日常って見方によって、これほど美しくなるものかと驚きを持って観ていった。田んぼの中の1本の木などで季節の移り変わりが感じられるし、雲間の光を捉えた写真の後に母が見上げている写真が続くので、母がその光を見つめているようにも受け取れる。そんな風なモンタージュからなる作品なので順番どおり観ていくことによって活動写真のように時間や空間の動きを感じ取れるようになっている。穏やかな日常にお葬式という劇的なものが入り込むが、それをも淡々と同じ調子で切り取ることによって、静に沁みてくるものがあった。
「1991」はビデオ作品なので四面ごとにカットを割ったり、また、作家の家族が撮ったホームビデオもあり(ということは子どもいて楽しく)、より動きのある作品になっている。しかし、再三差し挟まれる外出先(病院?)から帰宅した母が家の前の石段を上がる後ろ姿が、このビデオのどれもが思い出でしかないことを想起させる。
「銀河」は写真の密度が低くなったように感じたが、気を抜いて見たせいであまり記憶に残っていない。休憩してでももう一度観ればよかった。
三作品をとおして母を亡くした喪失感と、失っても残るかけがえのないものの美しさを感じた。

図録は、もちろん予約した。すごく楽しみだ(^_^)。

「フォトセンターの10年」2期

石元泰博の植物の写真(はがき)の画像

今期で最も印象に残ったのは「ビーチ」。シカゴのビーチはよいとして、江の島がゴミだらけなのに驚く。画面の中央に重機がどーんとあるのにも。
植物写真のはがきの見本が置いてあって、10枚の値段で12枚入りのお得なセットを買った。硬質で植物じゃないみたい。

石元泰博〈HANA〉ポストカード発売のお知らせ(フォトセンター)

第4展示室のアーティストフォーカスから石元泰博展へ行くのに、ジブリ展の場所を一部通って行ったがとても楽しそうだった。
(2024/02/05)

哀れなるものたち

『哀れなるものたち』の感想を毛筆で書いた画像

コメディだったとは
楳図かずお先生の感想や如何に

衣装、美術、音楽が独特で、特に美術はセット、大道具、小道具が楽しすぎて、あと百遍くらい観たい。お話は、しごく真っ当だ。教養小説的な女性の成長物語であり愛情物語だった。監督はヨルゴス・ランティモス。『女王陛下のお気に入り』は面白かったけれど、灰汁が強くてあまり好きではなかったが、今作はグロテスクさが私にはギリギリセーフラインだった。それに、かなり笑えるので、早くも本年のベストワン候補現るといった感じだ。
エマ・ストーンは、『女王陛下のお気に入り』でも今作でも女性にとって不自由な世界で自由を獲得していく様を演じたと言ってもいいと思うけれど、今作はちゃんと愛情もあってよかった。ランティモス監督は、いったいどういう人なんだろう。フェミニストなんだろうか。とにかく作品が滅茶苦茶面白いので、過去作の落ち穂拾いと次回作以降も要チェックだ。

驚いたこと。
マーク・ラファロは、なんか「もあもあ」してスッキリ感のない俳優で、あまり好みではなかったのだが、ちょいワル・いけオジ・放蕩弁護士がベラ(エマ・ストーン)への独占欲で身を持ち崩していく様子がめちゃめちゃ嵌まっていて一番笑わせてもらった。ダンスシーンなんか最高だった。
豪華客船でベラが出会う、酸いも甘いもかみ分けた知的な貴婦人としてハンナ・シグラ登場!もう70歳は越していると思うが、ゆったりと美しく、放蕩弁護士がベラから本を取り上げ海へ投げ捨てたのを、さっと次なる本をベラに渡す余裕の表情がよかった。

特によかったところ。
ゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)は、その父から虐待されていたが、ベラに対しては愛情をもって育てており、ベラも父危篤の知らせを聞いて旅先から飛んで帰った。死の間際に「誰もが私を恐れるか哀れむかだったが、ベラだけがそうではなかった。」と言うところ。涙のお別れに涙。

笑っていいのか気の毒がっていいのか。
ベラの自死した母は、その夫(ベラの血縁になる?)が酷い暴力夫だった。『息もできない』を観たあとでは、戦場帰りの人の暴力的なところは戦争の犠牲に見えてしまうので、この夫も犠牲者かもしれないと思う。人として回復して幸せになるのが一番だけれど、それが難しい場合は山羊として幸せになるのがいいのかな?
(2024/01/26 TOHOシネマズ高知8)

高野豆腐店の春

『高野豆腐店の春』の感想を毛筆で書いた画像

不幸不運は人生の一部

今どきの映画にはめずらしくデジタルっぽくないソフトな画質で尾道の春が捉えられ、まこと春のようにやさしく明るい内容にピッタリだった。
高齢の豆腐職人の父辰雄(藤竜也)と出戻り娘の春(麻生久美子)。二人の愛情はもちろん、商店街の仲間たちや辰雄が病院で知り合ったふみえさん(中村久美)が織りなす、可笑しくも心温まる遣り取りが初春一本目にはちょうど良かった。(寅さんが懐かしい。)
喧嘩をしても縁が切れない人との繋がりというか、喧嘩が出来る人との繋がりは私には家族以外ではないが、大切だと思う。侃々諤々できる間柄であれば話題のタブーも少なく、情報交換がしやすいのでその結果として世の中さえずいぶん違ってくるだろう。

辰雄もふみえさんも被爆ゆえの健康被害が続いているのだと思う。二人が話していて、辰雄が亡くなった人のためにも人生の終わりに良かったと思える生き方をしようと言うのに、本当にそうだと思った。幸不幸は一時のことで人生の一部でしかない。トータルで満足できる人生かどうか。そういう風に考える年頃に私もなったわけだ。

それにしても撮影時に81歳だという藤竜也のカッコイイこと!怒りの表情は新薬師寺の婆娑羅に勝るとも劣らない。仏像好きは拝観に行くべき作品だ。
(2024/01/08 あたご劇場)

2023年覚書(マイ・ベストテン)

日本映画10本、外国映画17本の鑑賞でかるかん率100%でした。
「好き」を基準に候補作を選んだら次のとおりです。

『エンパイア・オブ・ライト』『生きる LIVING』『Pearl パール』『君たちはどう生きるか』『バービー』『水俣曼荼羅』『丘の上の本屋さん』『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』『愛にイナズマ』『PERFECT DAYS』

なんだ、ちょうど10本だ(^Q^)。いつもなら厳選して10本に足りない年も多いのですが、今年はこれでベストテンとします。『君たちはどう生きるか』は全然わからなかったのですが、自分でも意外に好きでした。あのイマジネーションの洪水は映画好きにはたまりません。
順位をつける必要もないと思うのですが、今年は3位まで付けてみます。

第1位 『エンパイア・オブ・ライト』
第2位 『バービー』
第3位 『愛にイナズマ』

最後の最後まで1位と2位を迷いましたが、『バービー』のラストはやはり就職のための面接でいいのではという気がしました。性も大切だとは思うけれど、観客の思惑の裏をかいただけかなとも感じたし、それが作品の器を小さくしたようで残念でした。また、男女の平等と性差別の解消を目指すフェミニズムは男性にとっても生きやすくなる思想だと思うので、『バービー』が日本や韓国で受けなかったというのも残念でした。待ったなしと言われる少子化は当分解消されないでしょう。
『エンパイア・オブ・ライト』の美しさは、まさに光の帝国(=映画館)でした。映画に限らず「心の食べ物」として必須の音楽や絵画や文学や、あらゆる芸事などなど、光の帝国として心に活力を注入してくれるものを非常時でも(非常時こそ?)大切にしたいものです。
『愛にイナズマ』は、時が経つと更に上位に浮上するかもしれません。極上のユーモア作品だと思います。

ベストキャラクター『愛にイナズマ』の正夫(窪田正孝)。気は優しくて癒やし系。理不尽なことには物申す気骨もあるが、出力はあくまで妖精のよう。しっかり者でガッツのある花子(松岡茉優)とはいいコンビ。親友の分も幸せになってほしいです。