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暗闇愛好家 ムービーレポート
クラッシュ(デヴィッド・クローネンバーグ監督) 観てしばらくはハマッてたのに、今考えると別世界。ああ、私も健全な人間だったのね。 断崖絶壁から下を見下ろしたり、包丁の刃を指先で洗ったりするとき、背筋に走るゾクゾク感、誰でも経験はあるでしょう。そのゾクゾクが快感に変わった人たちのお話。 交通事故の恐怖が快感になるなんて、いかに変態の私でもうかがいしれぬ世界だが、いったん快感となったら、それを追い求める心理はわかる。それに生々しい疵のエロチックなこと。主人公(ジェイムズ・スペイダー)の傷を舐めるがごとく、眺めまわすヴォーン(エリアス・コーティアス)の危険な色気も。ゾゾゾ・・・・。 クローネンバーグといえばテクノロジーと生身の人間の融合が作品のモチーフになっているそうだが、私にとっては破滅指向の悲劇性とグロテスクなものを好んで出す変態性が買いである。 「クラッシュ」でグロテスクといえば誇張された傷痕くらいで、「裸のランチ」のようなゲテモノおもちゃが懐かしい。それでも変態性は健在なので変態の皆さんは乞うご期待。メタリックな冷たさを体感できる映画だった。 ファーゴ(ジョエル・コーエン監督) コーエン兄弟の最高傑作などと言われているが、後味がめちゃくちゃ悪い。身重の警察署長マージ(アカデミー主演女優賞を獲ったフランシス・マクドーマンド)のさわやかさが救いだった。コーエン監督夫人だそうで、なんだか伊丹十三映画の宮本信子を思い出した。 確かにユーモアがあり、構図や間の取り方などコーエン名調子で、物語も予測できない展開がおもしろく、非常にひきつけられて観たけれど、とぼけていながら暴力描写がコアなのに胃液ぐるぐる。 お金欲しさの狂言誘拐、手っ取り早い解決方法である殺人、護身のための発砲、欲の皮の突っ張っりあい。そんな欲も凶暴性も理解に苦しむマージ。ささやかな幸せを維持しようと地道に働き、子どもが生まれるのを心待ちにしている彼女にはほっとさせられる。 しかし、殺人や誘拐が別世界のことのようにすぐさま自分の世界へ帰って行けるマージについて行けず、暴力シーンを胸に貼り付けたまま映画を見終わった不幸な観客は、私だけじゃないと思うけど・・・・? マーズ・アタック(ティム・バートン監督) 賛否両論まっぷたつ。ははははは(笑)。私は賛です。 だって、バーベキューが走るのですよ(笑)。タイトルバックの隊列を成す円盤(わくわく)。何を考えているのか(何も考えてない)火星人(笑)。偉そうな人が次々やられていく中、おばあちゃん思いの少年や地道に働く元ボクサーなどが助かるし(涙)。おしまいはディズニーだもんねえ。監督、趣味に走っています(笑)。 火星人襲来を○ー○○で撃退するという、B級もドB級。涙が出るほどつまらん話ですが、ディテールを楽しめるか否かが賛否の分かれ道でしょう。さいわい私は楽しめました。音楽もよかったのでサントラも購入しました。 ライアー・ライアー(トム・シャドヤック監督) パパ(ジム・キャリー)は弁護士。職業がら(?)ホントのことが言えない性分。勝訴のためには嘘をつき、嘘は人間関係の潤滑油とばかり口角なめらか。仕事が忙しく、息子と会う約束を果たせず、結果的にいつも嘘ばかりついている。息子は誕生日に「パパが一日だけでも嘘をつかなくなりますように」と願をかけたので、さあ大変。嘘をつけずに弁護士が務まるか!?真実を言って人間関係をそこねないか!? ジム・キャリーのドタバタはあまり観たくなかったけど、予告編がおもしろそうだったし、ネットでの評判もよかったので観に行った。そしたら、予告を上回るおもしろさ。弁護士のドタバタと思っていたら、真実一路、パパの道。息子を思う父親のハートが泣かせる。もちろん、最後の最後まで笑わせてくれる傑作コメディ。 元妻にプロポーズするケリー・エルウィスと秘書役の老女優(名前がわからない)がいい味を出していた。脇役って大事ね。 秘密と嘘(マイク・リー監督) 大団円で登場人物同士が秘密と嘘を打ち明け、「傷つくのを覚悟で真実を求めた君を尊敬する。」「真実を話すのが一番。誰も傷つかないから。」というセリフが出るに及んでは、作り手がこの映画で言いたかったことは、嘘いつわりなしの真心主義こそ家族円満の秘訣だと受け取れる。 しかし、昨年のカンヌ映画祭でパルムドールに輝いた作品は、実に奥が深いのだ。観客は言葉によって明かされた秘密と嘘に惑わされることなく、明かされなかった秘密と嘘を見抜かなくてはならない。そうすれば、真実だけでは人間関係は成り立たないことを作者は言いたかったとわかる。「真実は誰も傷つけない。」ではなくて「誰も傷つけない嘘こそ真実。」と言いたかったのかも。 実は悔しいことに、明かされなかった秘密と嘘を私は見抜けなかった。映画を観てから批評文を読んで「う〜ん、そうかもしれない。」と思い当たることがあったのだ。あんなに伏線をちりばめてくれてたのに鈍いなあ。修行が足りない。 それにしてもよい映画には無駄がない。摩擦やあつれきを覚悟で実母を探す女性の職業を検眼士にしたのはうまい。「目は口ほどにものを言い。」「目は心の窓。」瞳が真実を語るかどうかはわからないが、彼女は瞳の奥をのぞき真実を求める。 また、最後まで姉との秘密を明かさなかった弟の職業は、写真館を営んでいる写真屋だ。彼は写真は必ずしも真実を写さないことを知っているし、それでよいと思っている。 俳優がいいし、感動するし、ハリウッド製とは一味も二味もちがう味わい深さ。もう一度観たい。 ●日本映画を斬ったり持ちあげたり 「パラサイト・イブ」笑える。笑うしかない。 「打ち上げ花火、下からみるか?横からみるか?」「undo」岩井俊二監督はこのほかに「LOVE LETTER」と「スワロウテイル」と「PICNIC」と「FRIED DRAGON FISH」を観たけれど、魂入ってないぞ。「LOVE LETTER」は中山美穂のおかげでちょっとハートを感じたけど。 「眠る男」日本の風景がほんとうに美しい。それだけ。 「失楽園」細かいところは俳優(脇役)もセリフも小道具もいいのに、肝心の二人の愛はいずこに?失敗作でもヒットはする。 「うなぎ」脂抜きの今村昌平。監督本人が言っているようにスケールが小さい。テレビのドラマっぽいが、大道具小道具、風景、テレビとは密度が違うので、画面の隅々まで鑑賞にたえうるのは、さすが映画。「さらり」とした肌触りと、清水美砂の弱そうでしたたかな女と、柄本明のいやらしさ悲しさが気に入ってる。登場人物みんなキャラクターが立っていて、それぞれの人物のハートを感じた。日本映画最高傑作ではないが、祝カンヌ映画祭パルムドール。 「あなたが好きです。大好きです。」「エクスタシーの涙 恥淫」「たまあそび」大木裕之監督の薔薇族映画。「エクスタシー〜」は三島由紀夫の「美しい星」(だったけ)を思い出した。3本ともおもしろいが感動には至らず。かといってけなす気にもならないのは、繊細さが伝わてくるからか。たんぽぽの綿毛のように、風が一なですると飛んでいきそう。軽薄という意味ではなく、軽い。 「誘拐」前半、絶好調。真相がわかって腰くだけ。おしい。でも、前半の勢いで最後まで鑑賞にたえうる力作。 「ちんなねえ」高知県立美術館製作、林海象監督、麿赤児、原田芳雄出演。題名どおりの珍な映画。映画の中に織り込まれた舞踏や絵金の芝居絵がおどろおどろしく迫力がある。探偵が女の赤い衣の裾を追っていくと実は絵金の○○○○だったというオチは苦笑。上映時間が短いのが取り柄。 「ユメノ銀河」女車掌なんてつまらない仕事。生き甲斐もなく無為に暮らす主人公は賭けに出た。親友を殺したかもしれない男に恋をする。自分も殺されるかもしれない。モノクロームが美しく静か。小峯麗奈の目力と石井聰亙監督の演出力がサスペンスを盛り上げる。音楽もグー。ちょっと変わった恋愛映画。おもしろい。 (1997年7月号) |
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