ここで面白いのは、狙撃手同士の戦いの物語と、三角関係の恋愛物語を同じ比重で描いていることです。しかも恋愛物語が大甘なもので、酒を飲みながらまんじゅうを食べるみたいな感じです。
ただし、このまんじゅうはなかなかに味があって、兵士たちが雑魚寝をする中、ヴァシリとターニャ(レイチェル・ワイズ)が息を殺してセックスするシーンなど熱演でよかったです。
周りで寝ている人の中には、二人の行為に気がついた人もいるでしょうが、見て見ぬふりですね。(映画の中では気がついた人がいたようには描かれていません。私が勝手に思っていることです。)
そう思った理由は、ヴァシリの狙撃を手伝っていた男女が恋愛関係にあったことと、「生きて帰れたことが本当に嬉しいんだ、明日死ぬかもしれない命だから、ああして楽しむんだ。」と言っているシーンが伏線になっていると思ったんです。つまり、戦争中でも恋をしている人がいて、明日をも知れない命を自覚している人がいる。そういう人たちなら二人の行為は、寛大な気持ちで見て見ぬふりだと思ったわけです。
まあ、誰だってああいう場合、見て見ぬふり(もしくは咳払い)しかできないでしょうけど、戦争中、いつ死ぬか知れないときの感じ方は、やはり通常の感じ方とは違うと思います。
そういうわけで、恋愛要素を入れたため、いささかバランスがよろしくないとのそしりを受けそうな作品にもかかわらず、スターリングラード到着シーンの素晴らしさ、息詰まる対決シーン(様々な対決シーンがありました。)など数々の忘れ難いシーンと、ジュード・ロウ、エド・ハリス、レイチェル・ワイズなどの俳優のおかげで、かなりお気に入りの映画となりました。
ジョゼフ・ファインズの演じた将校は、ヴァシリが英雄として存在しつづけなければ自らの立場があやういと同時に、恋敵のヴァシリに嫉妬するという複雑で重要な役柄ですが、今一つ演じきれていないように思います。ミスキャストではないでしょうか。ジュード・ロウよりもう少し年かさの俳優が演じた方がよかったのでは。
それにしても、彼らはどう見てもソ連人(ロシア人?何人というべき?)には見えなかったな〜(^_^;。
あ、それと、エド・ハリスは、ジョゼフ・ファインズを撃ってヴァシリを仕留めたと思い込むのですが、ヴァシリならあのように撃ってくださいといわんばかりに顔を出すことはないはずです。エド・ハリスの方でもそんなこと先刻承知でなければならないのに、「ちょうど時間となりました〜」と映画として時間どおりに(?)終わることを優先したのが残念です。
◇追記◇
上には恋愛映画としての『スターリングラード』についてあれこれ書きましたが、これは実は、恋愛部分がなければいい映画なのにと思う人に向けて、それはそうかもしれないけれど恋愛部分もいいところがあるよと擁護したくて書いたものです。
それで本当に自分がおもしろかった部分について書かないのも寂しいので、こうして感想を追加することにしました。
やっぱ、この映画で一番おもしろいのは、ヴァシリとドイツの狙撃の名手(エド・ハリス)の対決でしょう!(^o^)
この二人の関係を象徴するかのようなシーンが最初から用意されていました。
映画の冒頭の冒頭で狼の目と、それを狙う人の目がアップで映し出されます。一瞬、え、こんな至近距離で狼と向かい合っているの???と思いましたが、しばらくすると遠景の画面になって、狼と人(少年)の間にはかなりの距離があることがわかります。
ヴァシリとドイツ人狙撃手は、遠くにいながら狼と少年のように見詰め合い向かい合っているのですね〜。この二人に割って入る存在として、ヴァシリの上司であるソ連の将校(ジョゼフ・ファインズ)を持ってきたら、仕事でも三角関係、恋愛でも三角関係になっておもしろかったのにね〜。
腕が確かな狙撃手であるほど相手の腕がよくわかり、相手の動きを読んで裏をかき罠に嵌めようとする。その頭脳戦にぴったりの風貌のエド・ハリスがすばらしい!
それにしても、敵のタバコの吸い殻を拾って吸ってみるヴァシリは、本業が羊飼いとは思えない色っぽさ!私はあのシーンに「ゲゲ」となりました。あんなに色っぽく演じていいのか、ジュード・ロウよ!?「間接キスじゃーん」と思ってしまいましたよ。ったく。←よろこんでいる(笑)。
でもって、エド・ハリスの最期は、帽子を取ってニッコリでしょ。
これは、ヴァシリとターニャの関係よりずーーーーっとおもしろい関係ですわ。
狙撃の場所取りは、高所であったり低所であったりで、構図的にもおもしろい絵になっているし、ヴァシリを崇拝しているサーシャという少年の使い方にはハラハラさせられたし、『13デイズ』では核戦争の危機から地球を救ったもう一人の立役者として名前がでてきたフルシチョフが、とんでもない怪物になって出てくるし、ソ連にはあたり前のように女性の戦士がいたのね〜とか、いろいろ話が弾みそうな本当におもしろい映画だと思います。