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■かるかん>帰郷|エレニの旅
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帰郷
振り返れば笑い話
監督:萩生田宏治(2004年/日本/82分)
晴男:西島秀俊|深雪:片岡礼子|チハル:守山玲愛|晴男の同級生:三石研|晴男の義父:高橋長英|晴男の母:吉行和子

なんだかいい気持ちの、ほのぼのコメディーです。

何事も受身ですごしてきた会社勤めの独身男。母の結婚式で帰郷して、昔一晩だけ付き合った同級生に再会し、彼女はウソかホントか「あなたの子どもよ」と一人の女の子を残し去りました。最初は、女の子にどう接してよいかわからなかったのが、やがて父としての責任感めいたものが芽生え・・・・というお話。

晴男は、母にも同級生の女にも、娘かもしれない少女にも振りまわされっぱなしで頼りないけれど、純粋一途で若さを失わなず、適度に軽い存在が、西島秀俊にピッタリの役柄。
話の筋は思ったとおりの結末で、さしたる面白味はないのですが、先に述べたとおり西島秀俊で魅せます。もう、可愛いのなんの。
また、深雪を演じた片岡礼子は、頼りない晴男(西島)とは正反対。うちなる奔放さを、離婚したシングルマザーの義務感で封じ込め、日常に倦んだ感じを漂わせつつ、奔放でありながら何事にも動じない巌のような存在感。
子役の守山玲愛は、自然体の表情が抜群によろしく、生命力にあふれて大変可愛らしかったです。
その他、俳優の組み合わせはバッチリで、キャラクターで楽しめた映画でした。

ミソとなる部分は、やはり登場人物のやりとりの細部の面白さでしょうか。クスクスとかなりの頻度で笑えます。
晴男がチハルを肩車するシーンとか、海辺の風が感じられて、いい時間をすごしているな〜という感じがよく出ていました。
頼りない男が、子どもを育てる覚悟を決めるには、父親であるという自覚と、その子どもへの愛情が一番の決め手かな。
「いざとなったら父親になれる」それがわかっただけでも帰郷した甲斐がありましたね。

武蔵野館(新宿) 2005/6/19


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エレニの旅
動く絵画と女の涙
監督:テオ・アンゲロプロス(2004年/フランス、ギリシャ、イタリア/170分)
エレニ:アレクサンドラ・アイディニ|アレクシス:ニコス・プルサディニス|スピロス:ヴァシリス・コロヴォス|ニコス:ヨルゴス・アルメニス

とにかく美しい〜。動く絵画です。しかも、とんでもなくスケールが大きいのです。
また、登場人物の視線の先に何があるのか、カメラがじわじわと動いて、彼らが見ているものが映し出されるまで、独特の緊張感があります。

人はどこから来てどこへ行くのか。冒頭でエレニたちは、戦場となったオデッサから逃れてきたと述べられます。その後、養父に結婚を迫られたため愛するアレクシス(養父の息子)と出奔。生活の本拠地を作るためアメリカへ渡った夫は、米兵として沖縄で戦士。二人の息子も内戦で亡くなります。彼女自身は、労働運動に加担していた人物(彼女の恩人)を匿ったため、刑務所を転々としました。
「私は、いつどこへ行っても難民です。」というエレニには安住の地がありません。

また、彼女は、あまりにも無力です。『エイリアン』のシガニー・ウィーバー以降、戦う女性を見慣れてきた私には、昔の女性はこんなにも受身だったのかと思ったりもしました。でも、昔の女性が受身だったかどうかは、どうでもよいことなのです。
エレニは、現状に対しては無力です。赤ん坊が、自己表現として泣くしかないように、エレニも泣くよりほかにできることはありませんでした。けれども、エレニの涙(とりわけ最後の慟哭)に心を動かされない者はないでしょう。
その涙が、出来事の悲惨さを過酷さ(あるいは彼女の絶望感)を私たちの胸に突きつけるのです。
泣くよりほかに出来る人は、そのことをすればよい。そうして、現状も未来もよりよく変えていけばよいと思います。
でも、何も出来なくても、泣くことによって伝えられることがあるのです。(そういう意味では、エレニを無力とは言えません。)
この映画は、真実の感情によってのみ伝え得る歴史の一幕であると同時に、泣くしか成す術のない最も弱い人の側に立った力強い作品だと思います。

ユーロ・スペース(渋谷) 2005/6/20


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