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休暇
まじめに生きる
監督:門井肇|脚本:佐向大|原作:吉村昭/日本/2007年/115分
平井透:小林薫|金田:西島秀俊|美香:大塚寧々|三島:大杉漣|大塚:柏原収史|坂本:菅田俊|池内部長:利重剛

まじめに一日一日を生きることが、命を大切にすることだと思わせてくれる作品でした。けっしてヌケがよいとは言えない映像ながら、冒頭の電車を俯瞰したところとか、小旅行先の紅葉とか、映画であることを意識しており、印象に残るシーンが随所にあります。前作『棚の隅』もそうでしたが、門井監督は俳優を適材適所に配し、劇的な演出を控え、静かな日常のシーンを積み重ねることによって、登場人物の心情を浮かび上がらせていきます。

脚本がとてもいいと思いました。美香の連れ子はほとんどしゃべらず継父である平井になかなか打ち解けません。この子が絵を描くのが大好きなところは死刑囚の金田を彷彿させます。脚本上、子どもは金田の分身というわけです。終盤で平井が子どもを抱き締め「ごめんな」と謝るのは、これはもう金田に対して謝ったということでしょう。
死刑執行は平井の職務だし、彼が絞首のボタンを押したわけでもありません。理屈(法律)のうえでは悪いことはしていないし、直接手を下したわけではないという心の逃げ場もあります。だけど、命を奪ってしまった事実の前に「ごめんな」は、とても自然でリアリティがありました。(・・・・こんな思いをさせるとは、死刑制度は罪作りですねぇ。)

脚本で他に感心したところは、異なる場面をつなぎ合わせると一つの事実が浮かび上がるところ。
平井が支え役に立候補したと知り、同僚の三島は「そんなに出世したいのか」と責め立てます。場面かわって、平井が部長と面談するところ。池内部長は平井が支え役が初めてでないと知って「あ、じゃあ、慣れてますね」とホッとした様子です。またまた、場面かわって執行直前、同じ支え役で平井と並んだ先輩刑務官坂本(退職間際)が「何度やっても慣れないな」とつぶやきます。
この三つの場面からわかることは、池内部長は支え役などやったことがないってことと、支え役などやったことがない人が出世するということです。なんか、淡々と痛烈で気に入りました(笑)。

金田が、三島や大塚より平井の方が好きなことについて。
規則違反を許さず実直に職務を遂行しながら、人としての優しさも持ち合わせている「主人公」平井と、死刑囚だからと同情的になり、規則を破ってまでも親切にしようとする三島・大塚コンビ。三島・大塚コンビが薄っぺらく見えてしまうのは、彼らの親切心が自己満足的(っていうか金田に対しては空回りしているから)だからだろうと思います。まじめだけが取り柄のような平井が立派に見えるのは、1本芯が通っているからであり、作り手がそういう生き方にスポットライトを当てて推奨しているいるからでしょう。ただ、実社会では平井のことを「くそまじめ」と言って嫌い、親切な三島・大塚コンビが好きという人もいるはずで、これはもう相性という気がします。そう思いながら観ていると、この作品の中でも平井と金田のそれぞれが、蟻を見つけて何をか思うというシーンがあり、各々がどう思ったかは観客の想像に委ねられていますが、きっと似たような感慨にふけったであろうと推察でき、相性、いいんじゃないのと思う次第です。

金田の過去について謎のままにしたのは天晴れでした。いろんな想像がふくらんで楽しいです。
金田は親子関係、うまくいかなかったみたいだけど、平井は継子とうまくいきそうだなぁ。あの子が金田の分身としたら、相性が良いはずだもんね(^_^)。

とさりゅう・ピクチャーズ 自由民権記念館 2009/3/13
 
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