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■鬼の対談>地獄の黙示録 特別完全版(2)
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うめちんと感想を話し合った一週間後、今度はヤマちゃんと話し合いました。



 
風格のロード・ムービー


(お茶)
やっぱり、映画として映像や音響がすごいでね〜。ヘリコプターが旋回するときの音響や、炎と顔のアップのオーバーラップがきれいやし。それに川をさかのぼりゆ感じがよう出ちょって、スクリーンの奥へ奥へと行くイメージと、カーツがおるジャングルの奥へ行くイメージと、内面へ行くというか、映画の構造と内容がピッタリ一致しちょったね。

(ヤマ)
うん、そうやね。それを実にゆったりとした時間の流れの中で、じっくり描いちゅうところがえいねえ。

(お茶)
それにロード・ムービーやし。って、いうかリバー・ムービーやけど(笑)。
私はこういう映画を観ると無性に地図を描きとうなるがよね。

(ヤマ)
うん。キルゴアの国の次はプレイメイトの国というふうに、いろんな国を旅しゆう感じでね。

(お茶)
旅というのは映画との相性が抜群やもんね。


 
良識の人コッポラ


(お茶)
それにしてもコッポラは映画の出来にムラがあるのはどうして?

(ヤマ)
人がえいんやろね。良識の人というか。心が広いんじゃない?博識やろうね〜。

(お茶)
アカデミックな感じがするね。世界文学とか絵画とかクラシックの音楽とか、何でも通じちょりそうな。

(ヤマ)
うん。
『プラトーン』もすごいと思うたけど、オリバー・ストーンにはコッポラのような奥ゆかしさがないからね(笑)。

(お茶)
オリバー・ストーンは、ガガガガーッとね。拡声器持っちゅう(笑)。嫌いじゃないし、おもしろいし、すごい頭のえい人やと思うけどね。

(ヤマ)
うん、頭イイね。変に気取ってないのが、あいつのイイところだけどね。コッポラのような懐の深さがないのよね〜。コッポラは、人格者やき失敗作が続いても人が集まるんやろね。

(お茶)
人が集まると言えば、カーツのところへ現地人がどうして集まってきたがやろうね。

(ヤマ)
それは、この間も話したように、そういう意味でのリアリティは、この映画にはないきね。
現地人がどうして集まってきたかというよりも、カーツの思想が具現化した王国ということの方が意味があるろう。

(お茶)
そうやね。実際に慰問に行ったプレイメイツが不時着したりしたら事件でね〜。

(ヤマ)
しかも、ヘリの燃料切れなんてことはありえんでしょ(笑)。

(お茶)
本物の戦場がこの映画そっくりとは思わんけど、戦場とはこんな状況なんだという真実味があるということやね。
例えば、出る人出る人狂った人ばっかりで、戦場では人は正気ではおれんとか。

(ヤマ)
うん。何を持って狂っているかという問題もあるけど。
もともと人間が持っている残忍性だとか攻撃性だとかが、剥き出しになるのが戦場なんだということだと思うけど。


 
「恐怖だ」「殲滅せよ」


(お茶)
カーツが死ぬときに「恐怖だ」ゆうて言いよったやんか。「ホラー、ホラーだ。」ゆうて。これって何が恐怖やったがと思う?

(ヤマ)
それは人間やろうね。さっきも言うたけど、もともと人間が内包していた性質が戦争によって剥き出しになる、そういう人間性に気づいたから、人間が恐怖ながやろ。

(お茶)
私は状況かと思うたけど。善も悪もない、何が何やらわけがわからん混沌とした状況が恐怖なのかなと。

(ヤマ)
あ、そっちの方が広がりがあってえいかも。けど、人間と思っちゃったしな。

(お茶)
そしたら「爆弾を投下して全てを殲滅せよ」の意味はどう思う?

(ヤマ)
赤いペンで書かれた殴り書きをどう解釈するかは、一番重要なことやと思うし、いろんな意味に解釈できると思うし、だから、カーツの王国を焼き尽くせという風に受け取る人もいるだろうけど、僕はこんな人間を殲滅せよと言ってるんだと思うよ。

(お茶)
ネガティブやね〜。カーツはそこまで人間性に絶望したわけやね。
私は、カーツは考えすぎて、どツボに嵌ったがやと思うたけど。で、殲滅せよと。

(ヤマ)
あ〜、考えすぎて「こんなん焼き尽くしてしまえー」と(笑)。

(お茶)
うん、そうそう(笑)。

(ヤマ)
いや〜、カーツほどになると、もうそんなパッションはなくなってる気がするけどね。


 
カーツの黙示録


(お茶)
そしたらよ、そんなに人間に絶望しちゅうがやったら、どうしてカーツは自殺せんかったが?

(ヤマ)
うん、それは伝えたいきやろね。
あの、タイプで打った一抱えもある思想書というか哲学書というか論文。あれは、カーツの黙示録やきね。もちろん映画全体も黙示録やけど。
カーツは神の域に達しちょって、人類に対してこのままでは、こうなるぞーと予言したわけ。

(お茶)
おー!なるほどー!

(ヤマ)
その黙示録を理解できる者が来るのをカーツは待ちよったわけ。

(お茶)
そこに飛んで火に入る・・・・

(ヤマ)
ウィラード(笑)。

(お茶)
ウィラードは伝導師やったがかぁ!

(ヤマ)
うん、彼はカーツの使徒。使徒となるためにキルゴアとかフランス人の農園とか、丁寧に予習をしてきたのよね(笑)。

(お茶)
それで、やっとカーツを理解できると。ふむふむ。

(ヤマ)
そういう人類に対する黙示録のはずなんだけど、カーツは息子に軍人として死んだと伝えてくれとウィラードに言ってるのが、スケールが小さくなる感じがするんだけどな。あくまでも人類に対しての黙示録であって、息子じゃないはずだけどな〜。


 
戦慄の詩


(お茶)
それにしても、やっぱり私はカーツに同情するで。
「カミソリの刃の上を這うカタツムリ」やもん。
想像してみて。ぞっとするで。

(ヤマ)
薄い刃の上をのろのろと這ってね、ちょっとでも気を抜いたら身が切れる。

(お茶)
それに左右は何もないがで。バランス崩したら真っ逆さま。
かわいそうなろ〜。ホンマにこれは悪夢で。
やっぱり、考えるきいかんかったがよね。
カーツも言いよったやん。「裁くな」いうて。やっぱ、兵隊は考えられんね。考えたらろくなことがない。

(ヤマ)
けど、カーツは軍人で詩人やきね。
詩人の魂を持っちゅうおかげで、普通の人が気づかんところに気がつくわけよ。
あいつは化けもんやからな〜。

(お茶)
そうよね〜。詩人やもんね〜。
かわいそうなね〜。「カミソリの刃の上を這うカタツムリ」!

(ヤマ)
ま、それが快感でやめれんなったと(笑)。

(お茶)
ははは。快感という自覚はないろうけど、確かにやめれんかったがやろうね〜。


作品の中に答えがある


(ヤマ)
しかし、すごい映画やね〜。
完璧。ひっかかるところや印象深いところを反芻すると、みんな答えがあるきね。

(お茶)
カーツの王国へ入る前に指揮官がおらんところがあったやんか。
あれ、不気味やったねー!気味が悪い。すっごい、怖かった〜〜〜!

(ヤマ)
うん、怖かった。
あれは無秩序な状態を描いちゅうね。

(お茶)
ああ、味方に向けて発砲したり、本当にわけがわからん状態やったもんね。
ちょー気持ち悪い。

(ヤマ)
これも色々考えさせられるね。
例えばヤクザの世界はヤクザの世界なりに秩序があるわけやけど、秩序のない状態より悪いなりにも秩序があった方がマシということで必要悪として残すと世の中の進展はないし。

(お茶)
けど、全く秩序のない状態が指揮官のいないあのシーンみたいながやったら、悪でも秩序があった方がえい〜!あんなになったら本当に怖いで。どうしてえいかわからんろ。ほんま、気が狂うで。

(ヤマ)
指揮官のおらんシーンといい、本当に語るべきシーンばっかりでキリがないね。しかも、どのシーンも完璧やきね。すごい映画で。『ゴッドファーザー』もこれほどじゃないもんね。
こんな映画に出ちょったら役者冥利に尽きるね。

(お茶)
うん、心臓発作で倒れて一月後に復帰した甲斐があったね。

(ヤマ)
ロバート・デュバルは心臓発作起こしたが?

(お茶)
ううん、マーティン・シーンのことよ。
あ、役者冥利というのはロバート・デュバルのこと?

(ヤマ)
うん。キルゴアはすごかったでしょ。ハイテンションでおかしいし。
普段のロバート・デュバルのイメージからは程遠いでしょ。

(お茶)
そうやね。普段は温和な人そうなイメージがあるもんね。

(ヤマ)
でしょ。それが見事にはまっちょったきね。
いやはや、たいした映画や。


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