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ギャング・オブ・ニューヨーク
血染めのニューヨーク、明日への墓標
GANGS OF NEWYORK
監督:マーティン・スコセッシ
ビル・カッティング:ダニエル・デイ・ルイス|アムステルダム・ヴァロン:レオナルド・ディカプリオ|
ジェニー・エヴァディーン:キャメロン・ディアス|父ヴァロン:リーアム・ニーソン

突っ走りマーティン、エンジン全開。観客は置いてけぼり。でも、それでいいのです。この映画で私は、マーティン・スコセッシ監督の魂を見せてもらったような気がします。
音楽がカッコイイのがマーティーらしいし、中世のように猥雑で暗い画面と群集シーンに迫力があり、堂々とした作品です。それに加えて、妙にちょこまかと編集技を駆使して映画小僧ぶりを見せつけてくれるのが、なんとも微笑ましい(^_^)。
しかし、それより何より、マーティーの郷土愛が涙ぐましいのです。郷土をまったく賛美しない郷土愛。無法と暴力と血の虚しさいっぱい。この虚しさを墓標として今日があり、また、明日へつなげるのだという祈りのようなラストシーンが泣かせます。
ああ、書いていて、この映画が傑作に思えてきました。書き始めるまでは、スコセッシ欲張って色んなものを詰め込んで、やや空回りかと思っていたのですが、ハッキリさせます(笑)。傑作です。
マーティーの思いを受け止めてあげてくださいm(_'_)m。

●ネタバレ感想
ニューヨークという閉じられた空間の中で、復讐劇が繰り広げられ、移民同士がぶつかり合い、悪徳政治家が無法者に拍車をかけ、あらゆるものがごっちゃになってふつふつと煮えたぎり、ついには沸騰点に達し、徴兵制反対の暴動が起こり、ニューヨークを血で染めます。

船からの砲弾による攻撃で土煙があがったせいか、まるで霧に包まれたような通りで、音もなく切り合うアムステルダムとビル。切られ切られて膝をつきあう二人の表情が何とも言えません。信頼しあった者同士の表情です。アムステルダムはビルに留めを刺しますが、私にはこれが二人の絆を強くしているようにも断ち切るようにも見えました。

こうしてアムステルダムは復讐を遂げますが、だからといって何になるのでしょう。達成感より喪失感の方が大きいと思います。また、暴動鎮圧の砲弾の前には、復讐も縄張り争いもすべて虚しく思えます。白い霧は、まるで虚しさの心象風景のようでした。

旅立つ前にアムステルダムは、ビルのお墓に因縁のナイフを埋めます。このナイフは、アムステルダムの父の遺品であり、仇であるビルに致命傷を与えたものです。これには映画の冒頭で父の血が、終盤でビルの血がついています。
一方ニューヨークは、ネイティブ・アメリカンズとデッド・ラビッツの果し合いで流された血と、徴兵制反対の暴動で流された血に(それぞれ映画の冒頭と終盤の二度にわたり)染まりました。
アムステルダムの個人史とニューヨークの歴史が、ともに血に染まっているわけですが、父ヴァロンが「血をぬぐうな」と言ったのは、「流された血を忘れるな」ということではないでしょうか。

スコセッシ監督は、これらの血について悪いことだとも良いことだとも言っていません。ただ、私たちが立っている場所は、そういう血が流れた場所だということを言いたかったのだと思います。
ラストシーンでは、橋が出来て対岸の景色が移り変わり、ビル・カッティングの墓標が風化して行き、今はもうない世界貿易センタービルが映し出されます。無常と祈りのラストシーンでした。

高知松竹3 2002/12/22、26


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