うん、ちゃんと面白かったです。もう少し怖くなければ「怪談」じゃないとは思いますし、冒頭の因縁話が今一つ生かされてないような気がしますし、「ラストが○○○じゃん!」と不満ですが、これだけ楽しめたら上々です。それに菊之助ファンには、たまりませんわぁ(悶絶)。そうそう、忘れないうちに書いておこう。障子が透けて庭の景色がうっすらと見えるのがとてもよかったです。きれいでした。
それにしても、恋に狂うって怖いですね。富本の師匠、豊志賀(黒木瞳)のとち狂いぶりが凄まじかったです。親子ほども年の離れた新吉(尾上菊之助)に惚れてしまい、彼がお久(井上真央)に微笑んだだけで嫉妬に狂います。色に狂った師匠からは弟子がどんどん離れていきます。新吉との付き合いを反対する妹お園(木村多江)とは縁を切ります。新吉は、このままじゃ豊志賀がダメになると別れ話を切り出しますが、豊志賀は取りすがります。
恥も見栄も捨てた狂恋の女師匠に黒木瞳はミスキャストじゃないかと思っていましたが、なかなかの健闘ぶりで感心しました。しかし、その怖さも生きている間だけで、残念ながら死んでからはあまり怖くありませんでした。
新吉は弱い男でね〜。金と力だけじゃなくて芯もない。芯がないからお賤(瀬戸朝香)にも負けてしまう。流され男だね〜(笑)。
お久からは「きれいな顔で優しいのはずるい」と変ななじられ方をしますが、確かに優しいし、どの女性に対しても誠実で、これはモテるはずですわ。好感度大(きゃぴ)。普通の若い男なら豊志賀に愛想をつかしてお久に走るのは道理なので、刀を売って豊志賀の先行きに責任を持とうすることに誠実さを感じても裏切りだとなじる気はしません。
しかし、お累(麻生久美子)が顔に火傷をしたことで同情して結婚するなんて、優しいにもほどがあります。強さを伴わない優しさは本当の優しさじゃないので、新吉の場合、その優しさがあだとなって関わった女性を不幸にするのです。
豊志賀の亡霊に悩まされるのも、豊志賀の最期を看取ってやれなかった罪の意識のなせる業かもしれません。
強烈な手紙の呪縛から逃れられないのは、「これほど想って(頼って)くれる人はいない。」と頼られることに生き甲斐を見出す共依存関係があるからでしょう。だから、ラストは肯けます。肯けるけど・・・・(ぶつぶつ)。
えー、ここからは私の菊之助贔屓が炸裂しますので〜(^_^;。
舞台の菊之助は、それはもう綺麗で可愛いのですが、舞台を降りると美男と思ったことはなくて、失礼ながら変な顔と思っておりました。特に目つきが逝っちゃってるよと(笑)。
だから、変な顔で目つきが逝っちゃってる菊之助を、こーんなに色っぽく撮ってくれた作り手の皆さまに感謝です。監督、菊之助を好きなんじゃない?だって、並み居る女優さん方より綺麗に撮れてるじゃん。睫毛にも感動したのでしょうねぇ。綺麗に睫毛、撮っています。そして、本気で美しいと思ったカットがありました!お久を殺したときのワンカット。打ち震えました。
それより何より、ワタクシが菊之助の何を最も好きかと言うと口跡なんです。凛として涼やかな声!そしたら、まあ、映画の始まりは煙草を売り歩く「きざみぃ〜」「たばこ〜」の声からではございませんか。ああ、もう一度聴きに行きたいです。
●ラストのネタバレ(伏字解禁)
なにも「サロメ」にすることはないと思いますー。私は首だけより胴体がついている方がよかったですーーーー。
う〜ん、一句。
豊志賀に 手も足も出ぬ 新吉や