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不灯港
男のロマン
監督:内藤隆嗣/日本/2009年/101分

無声映画みたい。カウリスマキ作品のような匂いがする。間の取り方や、ぎこちない台詞回しがそこはかとない可笑しさを醸し出していた。台詞に頼らずジェスチャーや映像で見せる作りは映画の原点でもあり、港の灯りが一つ残らず消えることで失恋した主人公の心象を表現するなど映画としてこなれていると思う。さすが、PFFスカラシップ作品、レベルが高い。
背景となる社会現象(漁村の嫁不足)が、品良くコミカルに描かれているのも感じがよい。
子どもが母を追わない謎が残るが、あまり深く考えるまい。

万造(小手伸也)の恋愛観は、男たるものかくあるべし(こういう男こそ女にモテる)という切ない(?)男心から成り立っていて、それをかたくなに追求するので彼とつきあうのは非常に窮屈そうだ。美津子(宮本裕子)は万造に世話になっていることもあって彼に旨く合わせていたが、好きでもない男性に合わせて疲れを見せないのには感心する。
「(こいつは)俺の女だ」という万造の台詞に私は「勘弁してよ」と思ったが、万造にしてみると美津子の表情から、彼女がそれほど自分を思っていないと読み取るのはむずかしいだろうから「俺の女だ」発言は大目に見るべきかもしれない。
大目に見たついでに万造の恋愛成就を願うとすれば、彼には理想の男性像を追求するより、もう少し相手を見てコミュニケーションしてほしい。
初めて美津子をベッドに誘ったときの彼女が返事をするまでの微妙な間を読み取る野生の感を身につけたり、無造作にサーフボードを抱え、周囲を気にすることなく昼飯をむしゃむしゃ食べる見知らぬ男(ダイアモンド☆ユカイ)を、美津子が惚れ惚れと見とれるシーンがあるが、女性のこういう表情を見逃さないよう観察力をつけて、コミュニケーションに生かしてほしい。

ラストシーン、食卓に載った焼き魚から髪飾り(?)が出てきたことについてどう解釈するか、先に観たヤマちゃんに宿題を出されたので、ここでお答え申し上げ候。
髪飾りは、例のサーファーと海で戯れた美津子が落としたものだろうし、魚はそれを美味しい餌と思って飲み込んだのだろう。腹に異物を抱えたまま箸でほぐされボロボロになった魚の姿は、「俺の女だ」と思い込んで尽くしてボロボロになった万造に重なるものであり、これぞ失恋の象徴と言うべきか。そして、その魚を食べるのだから、失恋を糧にして大きくなれよということなのではないだろうか。

とさりゅう・ピクチャーズ 自由民権記念館 2010/1/15
 
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