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■ひきだし>映画、時空旅行

メルマガ「チネチッタ高知【瓦版】」(2006年10月号から2008年10月号まで発行)の連載「映画、時空旅行」の再掲です。

<<もくじ>>
映画、時空旅行(1)エクスカリバー
映画、時空旅行(2)クイズ・ショウ/さらば青春の光
映画、時空旅行(3)張込み/理由
映画、時空旅行(4)トップシークレット
UK関連映画ロック度チェック フルモンティほか
映画、時空旅行(5)プルートで朝食を/マイケル・コリンズ/ライアンの娘

映画、時空旅行(6)スクリーンで観ることの意義 「かもめ食堂」を観て
映画、時空旅行(7)オリエント急行殺人事件
映画、時空旅行(8)キートンのセブン・チャンス/プロポーズ
映画、時空旅行(9)華麗なる恋の舞台で/グリフターズ
映画、時空旅行(10)オーメン

映画、時空旅行(11)ロング・ライダーズ
映画、時空旅行(12)最前線物語
映画、時空旅行(13)ヘアスプレー/グリース
映画、時空旅行(14)恋人までの距離(ディスタンス)/ビフォア・サンセット

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■連載☆映画、時空旅行(1) 2006年10月号 
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★エクスカリバー
 (監督:ジョン・ブアマン/イギリス/1981年/141分)

アーサー王の時代へ行ってきました。さすが中世ですね〜。むさくるし
いです。野蛮です。美女を見るとすぐ「ハァ、ハァ」します(笑)。
この時代は、まだ魔法使いがいたのですね。マーリンの台詞「私は別の
世界へ行く。これからは人間の時代だ。」というのは、ガンダルフ@ロ
ード・オブ・ザ・リングとかぶっているので、「指輪物語」の作者が参
考にした伝説の中に「アーサー王物語」もあったことがわかります。

騎士の皆さんは、四六時中、甲冑を着ておりまして、いつでも戦える状
態。甲冑のまま、男女のことに及ぶシーンがあったり(^_^;。
アーサーは、腕っ節が強くて、フェア精神に富んでいて、なかなかでき
たお人。
王の右腕ランスロットは二枚目で、王妃グネヴィアと不倫の関係になる
のですが、二人の葛藤、恋心を抑える姿が美しかったり。
『モンティパイソン・アンド・ホーリーグレイル』では、茶化されてい
た聖杯探しが、大真面目に描かれているなど、アーサー王物語としては
正統派です。

丘陵に浮かぶ遺跡や、湖を滑って行く小船のシルエットなどの景色もい
いし、脇役にガブリエル・バーンやリーアム・ニーソンが出演していて、
シワのない艶やかな美顔を拝めるのも見所です。

クライブ・オウエンがタイトルロールを演じた『キング・アーサー』は、
アーサー王伝説とは異なり、実在の人物をもとにした映画だったので、
観た当時はガッカリしました。でも、湖の氷が割れるシーンとか印象に
残っているし、そんなに悪い映画ではないですね。もう一度、観たくな
りました。

アーサー王の円卓の騎士の一人にトリスタンがおりまして・・・。この
秋、『トリスタンとイゾルデ』が公開されます。TOHOシネマズ高知で予
告編を見たので、上映されるものと思って楽しみにしています。
トリスタンには、『スパイダーマン』でピーター・パーカーの親友ハリ
ー・オズボーンを演じた美男俳優ジェイムズ・フランコが扮しているの
ですわ(嬉)。
「ロミオとジュリエット」の原型とも言われるお話ですし、『エクスカ
リバー』のむさくるしさとは異なる浪漫ちっくな中世であることを期待
しています。


『トリスタンとイゾルデ』公式サイト
http://movies.foxjapan.com/tristanandisolde/

アーサー王 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/アーサー王

アーサー王映画(my cup of teaサイト)
http://www007.upp.so-net.ne.jp/kaze/arthur/film/index.html

                               [うえ↑]

■連載☆映画、時空旅行(2) 2006年11月号
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★クイズ・ショウ
 (監督:ロバート・レッドフォード/アメリカ/1994年/132分)
 9月に上映された『グッドナイト&グッドラック』で描かれた1953
年のアメリカのテレビ局では、誰も彼もがタバコをスパスパ。正に喫煙天
国、嫌煙家にとっては地獄の沙汰と言えましょう。
 そこで1950年代のアメリカの紫煙事情を探るべく、赤狩りつながり
で『真実の瞬間』を探しましたがレンタルされておらず、テレビつながり
で『クイズ・ショウ』を借りてきました。
 いや〜、やはりタバコは吸われておりました。でも、『グッドナイト&
グッドラック』ほどではありませんでした。(あれはタバコが主役かと思
うほどでしたものねぇ。)
 しかし、タバコより驚いたのが車です。冒頭でこの映画の狂言回しであ
るところの下院委員会の調査官(←野心家:ロブ・モロー)が、豪華な車
を見ているのですが、パワーウィンドウが付いていてビックリ。そんなに
昔から装備されていたのですね。そう思ったのは、パワーウィンドウだけ
じゃなかったように思いますが、早くも忘れてしまいました(とほほ)。

 映画の中味について感じたことは、"やらせ"と演出は分けて考えるべ
きで、視聴者を欺くような"やらせ"は忌むべきものということと、その
やらせが微妙に差別意識を含んでいることを作り手が示唆しているところ
はちゃんと気にとめたいということ、そして、悪いやつほどよく眠る(い
わゆるトカゲの尻尾切り)というのは、当時に限ったことではなく時空を
超えて現代の日本でも見られることですが、人々はそういう状況を薄々知
っていながら放置しているのは問題だというようなことでした。
 ちょっと困ったちゃんのユダヤ人(ジョン・タートゥーロ)、頬はバラ
色好感度100%の知識人(だけど甘ちゃん坊や)の紳士(レイフ・ファ
インズ)、視聴者を欺く張本人のスポンサー(マーティン・スコセッシ)。
主要人物のキャラクターが丹念に描きこまれ、ぐいぐいと惹きつけられ
ました。レッドフォード監督の最高傑作ではないでしょうか。


★さらば青春の光
 (監督:フランク・ロッダム/イギリス/1979年/115分)
 1960年代のイギリスにも旅行してきました〜!ブログに感想を書き
ましたが、書き漏らしたことが一つ。
 なんと、イギリスにも銭湯があったのですね〜!と言っても日本の銭湯
とは趣を異にしております。公衆トイレのように個室のドアが並んでおり
まして、中へ入るとバスタブがございます。隣の個室との間には壁があり
ますが、天上下は壁が切れており、覗こうと思えば覗けます。
 モッズの主人公は、隣のロッカーズの兄ちゃんと歌合戦(嗜好する音楽
上の闘い)になり、頭にきたロッカーズの兄ちゃんが主人公の個室に向か
ってタワシを投げ込みます。主人公も頭に来て、天上から身を乗り出して
・・・というちょっと笑える場面でした。
 主人公はバスタオルを持参していました。下駄箱とか番台は、どうなっ
ているのかわかりませんでした。

 日本のお風呂と私(イギリス人が語る日本のお風呂。面白いです。)
 http://kicainc.jp/ronbun/2007ron/sara.htm

 水道の当然(日本人が語るイギリスのお風呂事情。イギリスの銭湯につ
いての記述あり。)
 http://www.mizu.gr.jp/kikanshi/mizu_12/no12_i01.html

 『さらば青春の光』の感想
 http://plaza.rakuten.co.jp/ochaya21/diary/200610220000/

                               [うえ↑]

■連載☆映画、時空旅行(3) 2006年12月号
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★張込み
 (監督:野村芳太郎/日本/1958年/116分)

★理由
 (監督:大林宣彦/日本/2004年/160分)

 松本清張原作の『張込み』は、昭和32年の佐賀市が、宮部みゆき原作
の『理由』は、数年前の東京(荒川区)が舞台の、どちらも犯罪がらみの
作品です。四十数年の間に日本はどのように変わったのでしょうか。犯罪
に違いはあるのでしょうか。ちょっと旅行してみました。

 『張込み』で驚くのは、刑事二人が横浜から佐賀まで行くのに蒸気機関
車だったこと。だから、発車した汽車を追いかけて乗り込むなんてことが
できるのです(拍手)。
 刑事ものには夏が合うんですね。汽車の窓を開け放ち、始めはきちんと
ワイシャツやら開襟シャツを着ていたのが、いつの間にかランニング姿。
関門海峡はトンネルでした。「へー、海底トンネルが、こんなに早く開通
してたんだ」と思い調べてみたら、なんと太平洋戦争中の1942年(昭
和17年)11月15日(坂本竜馬の誕生日&命日)に開通していました。

 機関車のみならず画面に映る風景は、どこをとっても昭和です。中でも
美しいと思ったのが、田んぼの俯瞰ショット。まだ土地改良されていなく
て、畦が曲がりくねり、ふぞろいな田んぼが延々と続くのです。今の日本
では、こんなに美しい田んぼの景色はないでしょう。
 佐賀の旅館(民宿っぽい)は、一週間三食付きで700円のところを年
かさの刑事(宮口精二)が交渉して650円に値切りました。

 犯罪の方は、貧しさゆえのお金ほしさで強盗殺人です。逃亡中の犯人
(田村高広)が、人妻となって佐賀に住む元恋人(高峰秀子)に会いに来
ると見込んで張込むというお話です。
 若い刑事(大木実)は、始め銀行員の妻を平凡な主婦と思っていました
が、だんだん健気な女と思うようになっていき、彼女が元恋人と再会した
ところを見て、「あの女にこんな情熱があったのか」とびっくり。彼の恋
に少なからず影響を及ぼします。やはり、この人妻の豹変ぶりが見所でし
ょうか。
 だけど、20も年上で3人の子持ちの男性の後妻となり、いかにも仕え
ているという風情の女性像は、現代の私の目から見ると、そちらの方が驚
きで、豹変してくれた方が「ほっ」といたしましたよ(笑)。


 『理由』の方は、ぐっと現代です。マンションの豪華さにビックリ。玄
関の前に門(もどき)と表札があると一戸建ての雰囲気に近づくものです
ね。
 あれだけ大きなマンションになると管理人が入居者を把握できないのは
当然だし、建物に隙間風も吹かない密閉感があり、都会でもあることから
隣人との付き合いがないのも驚くに値しません。
 方や、この映画には商店街や路地などレトロな風景も存在し、空気の流
れや人間同士の行き来が感じられます。
 このような新旧入り混じった風景が、そのまま人間関係の希薄さと、希
薄ばかりでもない絆の妙味を表しているようでもあります。

 犯罪はマンションの一家4人皆殺しです。なぜ、このような犯罪を犯し
たのか、その理由が『張込み』のように単純ではないところが現代的です。
殺人の理由がわからないと、自分も殺される可能性があるので怖いですよ
ね。得体の知れない人は怖いです。それなら理由を探り、正体をつかもう。
あるいは、自分自身も得体の知れない者の一人かもしれないことに気づこ
う。とまあ、そのように言っている映画かと思いました。(私は、本来推
理物が苦手なのですが、この映画は登場人物にそれぞれのドラマを感じら
れる作りになっており、「大河浪漫を愛する会」二代目としても大変面白
く魅せられました。)

 
 いずれの映画も犯罪者を憎むべき存在としては描いておらず、観ていて
哀れを誘われました。これは、社会状況と無関係に犯罪者が生まれるわけ
ではないことを表していると感じたことでした。

                               [うえ↑]

■連載☆映画、時空旅行(4) 2007年1月号
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★トップ・シークレット
 (監督:ジム・エイブラハムズ、デヴィッド・ザッカー、ジェリー・ザ
 ッカー/アメリカ/1984年/90分)

 大、大、大好きなコメディです。何回観ても笑ってしまうのです。
 それは、まだベルリンの壁があった頃、東ドイツの音楽祭になぜか招待
されたアメリカのロック歌手が、国際的な陰謀に巻き込まれていく(?)
・・・・という話は、「意味ないじゃーーん」でございまして、ナンセン
スなパロディに次ぐパロディが身上です。
 動く列車の上の大追跡、ラブシーン、西部劇、あと具体的な映画で『監
獄ロック』『青い珊瑚礁』などのパロディが愉快です。

 主人公のロック歌手(プレスリーがモデルかな?)には、ヴァル・キル
マー。『ドアーズ』では、ジム・モリソンそっくり、歌唱力抜群で驚かさ
れたものですが、実は、映画初出演のこの作品で既に歌唱力は証明済みだ
ったのでした。

 『アラビアのロレンス』のアリ役がカッコよく、近年では『オーシャン
・オブ・ファイアー』でのアラブの王様で風格を見せたオマー・シャリフ
が、とほほな殺し屋(?)を演じています。放蕩三昧でお金に困っての出
演かしら?

 あと、『スター・ウォーズ』ファン、吸血鬼ファン、ホームズファンに
おなじみのピーター・カッシングが出演しているのも嬉しいところ。

 広末凉子がタイムマシンに乗ってバブル時代ヘ行く映画が2月に公開さ
れるようです。きっと派手な80年代が描かれていることと思います。
『トップ・シークレット』は、インベーダーゲームだったか、パックマン
だったかが、画面いっぱいに出てきて、作られた時代を反映していますが、
バブル期の派手派手しさはなく、牧歌的で懐かしい感じがします。

 また、予告編を見て大変楽しみにしている『ナイト・ミュージアム』で
すが、『ナイト・ミュージアム』の騒々しさに比べると『トップ・シーク
レット』の方は、妙に落ち着いています。
 今時の笑いに疲れたら、『トップ・シークレット』への時空旅行をおす
すめいたします。


バブルへGO!! タイムマシンはドラム式
http://www.go-bubble.com/

ナイト・ミュージアム
http://movies.foxjapan.com/nightmuseum/

 * ベルリンの壁崩壊:1989年11月9日(東西ドイツ市民が自由
  に行き来できるようになった日。物理的に壁が壊され始めたのは翌日
  とのこと。東西ドイツ統一は翌年。)

                               [うえ↑]

■連載☆映画、時空旅行(休) 2007年2月号
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 アイルランドへ行きたしと思えども、アイルランドはあまりに遠し・・
・・、ってことはないのです。DVDをレンタルすれば、そこはもうアイ
ルランド。『マイケル・コリンズ』『いつまでも二人で』『父の祈りを』
『アンジェラの灰』『スナッパー』『ザ・コミットメンツ』『マイ・レフ
ト・フット』などなど、いろんなアイルランドが待っています。

 しかも、1月26日には、身体は男、心は乙女のキトゥン(キリアン・
マーフィー)がアイルランドからロンドンへ旅する『プルートで朝食を』
が上映されますし、3月には彼の地の独立戦争と内戦を兄と弟(キリアン
・マーフィー)を主軸に描いた『麦の穂をゆらす風』が上映される予定で、
高知にいながらにして「ここはもうアイルランド」ってな感じです。

 そうなんです。『プルートで朝食を』『麦の穂をゆらす風』が上映され
るというので、アイルランドへ行きたくなったという次第。でも、旅行す
るヒマがなかったため「映画、時空旅行」はお休みさせていただきまして、
そのかわり昔同人誌に投稿した雑文にUK関係のものがありましたので、
アイルランドつながりということで下に掲載させていただきます。


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■UK関連映画ロック度チェック  2007年2月号
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 ロック度を次の五つの点でチェックしました。
 ☆が多いほどロック度が高い映画ということにしています。

   ☆ かっこいいか
   ☆ ハート又はソウルがあるか
   ☆ 人生が感じられるか
   ☆ 反社会的又は社会批判があるか
   ☆ ストレスを発散できるか

 なお、本文中に八分音符とか十六分音符という表現がありますが、紙媒
体では☆を八分音符、★を十六分音符の記号で表していたためです。ロッ
クの同人誌だったので、ロックっぽい(?)書き方をしています(汗)。

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 「山椒は小粒でぴりりと辛い。」UK映画の基本はこれだ。
  地味で小ぢんまりしているけれど、現実味あふれる描き方。半径1メー
トルのリアリティに胸がチクチク。UKはこの世のものとしか思えない映
画が得意中の得意である。
  しかーし、それだけではない!モンティ・パイソンやリチャード・レス
ター、ケン・ラッセルにグリーナウェイなどの、ひねくれ玉にはニヤリと
させられる(とにかくひねくれ者が多い)。
  そして、おお!『アラビアのロレンス』デヴィッド・リーンや『炎のラ
ンナー』など、たまにスケール感のある映画も作るではないか!
  このようにバラエティに富み、かつ、芯やら筋やらがとおったUK映画
を98年もたくさん観た。


1 労働者はつらいよ
  私は失業の憂き目を経験したことはないが、フィンランドの失業夫婦
 を描いた『浮き雲』と以下の2本で、職を失うということは裸同然にな
 ることだと知った。そして、裸同然になってもなお身についているもの
 が、その人の「誇り(尊厳)」だと思った。UK映画でサッチャー元首相
 の名が出たとき、悪し様に言われなかったためしはない。それだけ福祉
 の切り捨てが進んだということらしいが、そういうぼやきは労働者から
 出る。失業者なら尚更ぼやきそうだが、以下の2本でサッチャーの名が
 出たかどうかは記憶にない。

  ●『フルモンティ』
   すっぽんぽんで踊ってすっきり。ハートも人生も社会批判もあり、
  爆笑の連続でストレス発散!☆☆☆☆

  ●『ブラス!』
   意地と誇りのブラバン・コンテスト。ハートも人生も社会批判もあ
  る。☆☆☆


2 人生はつらいよ
  UK映画の真骨頂。地味だが決して暗くない。『GO NOW』など軽
 快ですらある。私たちと等身大の主人公たちが、悩み苦しみ、支え合い
 共に生きていく姿に勇気づけられない人はいないだろう。以下の映画は
 人生の断片にすぎず、登場人物は映画が終わっても生き続ける。

 ●『GO NOW』
   筋力が衰えていく難病に罹り、傷つきイジける男と、難病に罹った
  恋人と別れるか否かで悩む女の物語。ロバート・カーライルが華奢で
  彼女役の俳優が大柄なので遠近感が狂う。洒脱な幕開けからタメ口満
  載で、けっこう笑える。少年体形カーライルはうつくしいっす。ハー
  トと人生がある。社会批判もちょっとある。☆☆★

 ●『ウィンター・ゲスト』
   夫を亡くした心の傷から未だ立ち直れない女性と、彼女を案じる母
  の物語。母は老いの不安を感じながらも、それを言えないでいる。冬
  来たりなば春遠からじ。ハートと人生がある。☆☆

  ●『キャリア・ガールズ』
   傷つきやすい青春時代を共に過ごした親友同士。数年後、再会し旧
  交を温める。彼女たちの青春時代に関わった人たちにも偶然遭遇し、
  枝分かれした人生を噛み締める。別れのシーンは新たな一歩。ハート
  と人生がある。☆☆


3 芸術家はつらいよ
  伝統を重んじ階級社会の抑圧から脱しきれないUKは、それをバネに
 して跳ね上がろうとする革新のエネルギーを孕んでいる。次なる人物の
 場合、美の追求は彼にとってごく自然な生き方であり、抑圧への反撥と
 いう趣きはない。しかし、ヴィクトリア朝のキリスト教臭い性的抑圧を
 引きずる人々に攻撃を受けたため、闘うことを余儀なくされた。彼のこ
 とを美の殉教者という人がいるが、世に迎合せず自らの生き方を貫く姿
 と、美を最上のものとする生き方自体、今日の目から見ても革新的なも
 のがありはしないだろうか。

 ●『オスカー・ワイルド』
   ワイルドの人物造詣がすばらしい。当時の受刑の様子は、かくの如
  くであったかとビックリ。ダグラス卿からエキストラにいたるまで、
  いたるところに美形青年が。眼福、眼福(^_^)。ハートと人生と社会
  批判がある。☆☆☆


4 若者はつらいよ
  どこの国でも若者は貧乏で、恋人がいなけりゃつらいもの。たとえ、
 恋人がいたって若いうちは色々すったもんだがあるもんだ。だけど、U
 Kの若者ムービーは、フランス映画に比べてちょっと野暮ったく、アメ
 リカ映画に比べてえらく小ぢんまりとしていて、日本映画に比べるとか
 なり洒落がきく。イギリスの風景、町の一角も魅力である。

 ●『シューティング・フィッシュ』
   孤児院出の青年二人が、才覚でお金と恋人をゲット。ポップミュー
  ジックに乗って夢をかなえるバディムービー。ハートがあり反社会的。
  ちょっとストレス発散できる。☆☆★

 ●『スライディング・ドア』
   世の中一寸先は闇。だから、怖くておもしろく、希望だって捨てた
  もんじゃない。もしも、あのときこうだったら、主人公の恋路は変っ
  ていたのか。ハートと人生がある。さわやかな幕切れのストレス解消
  コメディ。☆☆☆


5 出稼ぎはつらいよ
  おしまいに、帝国主義を滅ぼし世界に目を向け、アメリカを視野に入
 れつつも決してシッポを振らず、なれない土地で仕事をしたUK映画人
 をたたえて、今後ますますの活躍を期待する。

 ●『ウェルカム・トゥ・サラエボ』
   サラエボで仕事をしたマイケル・ウィンターボトム監督。ハートと
  人生と社会批判がある。☆☆☆

 ●『ハムレット』
   お話はデンマークが舞台だが、デンマークまで撮影には行っておる
  まい。それでもなぜか、ここに分類してしまった。監督主演のケネス
  ・ブラナーはパワフルな人だ。ハムレットにターザンさせるなんて、
  この人しかいないだろう。活動写真屋ケンちゃん万歳!ハートと人生
  がある。反社会的要素もあるし社会批判もある。☆☆☆

 ●『枕草子』
   これぞ美!これぞ官能!これぞ変態の中の変態!!!父を辱めた男
  のもとへ復讐のメッセンジャーボーイを送る日本人女性。メッセンジ
  ャーボーイの裸体に、毛筆でしたためた文字の美しさ・・・・という
  より笑いが・・・・!ふつふつと沸き上がる笑いをあなたは抑えるこ
  とができるか!?私はできませんでした。よって、ストレス発散の音
  符を献上。☆

 ●『普通じゃない』
   大金持のお嬢さんキャメロン・ディアスを誘拐したはいいが、反対
  に仕切られるユアン・マクレガーのトホホ顔が超かわいい。狂言誘拐
  に天使が絡む能天気さはアメリカが舞台ならでは。反社会的になりき
  れないかわいさと、ストレス発散度50%の合わせ技で音符一つ。ラ
  ストにスコッツの心意気!☆☆

 ●『トゥモロー・ネバー・ダイ』
   ジェームズ・ボンドが香港にやってきた。バイクの追っかけシーン
  はかっこいい。☆

 ●『チャイニーズ・ボックス』
   余命いくばくもないジェレミー・アイアンズ。彼はイタリアでも死
  んだが今回は香港で病死。人生の十六分音符と、香港の中国返還にあ
  たって何やら言いたげな社会性にかんがみ、合わせ技の八分音符一つ。
  ☆ 

 ●『ビーン』
   アメリカにやってきたビーン氏、名画をぶっ壊す。反社会的人物 
  ゆえ音符一つ。☆

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

※ 蛇足ながら、ジェレミー・アイアンズがイタリアでも死んだというの
 は、『魅せられて』のことだと思います。

                               [うえ↑]

■連載☆映画、時空旅行(5) 2007年3月号
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 1月に自主上映された『プルートで朝食を』は、パトリック(キリア
ン・マーフィー)が、自分自身を物語の主人公キトゥンに見立てて辛い人
生を前向きに歩んでいくお話でした。「キトゥンに未来はあるのかしら
(ハッピーエンドの可能性は残されているはずよ)」と物語にしてしまえ
ば、辛い出来事も乗り越えられるというわけです。

 彼女(彼?)がアイルランド出身だということは重要で、物語に大きな
影響を及ぼしています。IRAの活動に協力していた幼なじみを埋葬する
シーンで、風が麦畑をザーッとなでていくカットなどもアイルランド絡み
の最たるもので、このワンカットを見たとき、私は鳥肌が立ちました。

 というのも、3月15日に上映される『麦の穂をゆらす風』(キリア
ン・マーフィー主演)を一足先に見ていたせいで、そのワンカットの意味
するものがよくわかったからです。
 厳密に言うと『麦の穂をゆらす風』のパンフレットで、映画のタイトル
になった歌の歌詞を読んでいたからわかったのですが。(このパンフレッ
トは買いです。歌詞、アイルランド年表、スタッフ及び主演俳優のコメン
トなど素晴らしい充実ぶり!もちろん、映画も傑作です。ケン・ローチ監
督作品としては、スペインの内戦に義勇軍として参加した人物を描いた
『大地と自由』に匹敵するスケール感。『大地と自由』よりハードで重い
ですが、どの登場人物も好きになれる人間好きケンちゃんの面目躍如たる
後味です。)


 そんなわけで、『プルートで朝食を』から『麦の穂をゆらす風』までの
間にどうしてもアイルランドに行かねばならぬと思い・・・・、行ってき
ました。1920年前後のアイルランドへ。


 『マイケル・コリンズ』では、のっけから大変。1916年のダブリン
での武装蜂起から始まります。その後、コリンズ(リーアム・ニーソン)
は、当局に顔を知られていないリーダーとしてイギリス側の要人を次々と
暗殺。若者に実行させておりました。
 1921年の停戦時にイギリスと交渉し、自治は認められるものの独立
は出来ないという条約を締結します。独立できないことはわかっていたの
で、交渉に当たったコリンズは貧乏くじを引いたという風に描かれていま
した。
 内戦の原因となった条約ですが、作品の趣旨は妥協もやむなしというも
ので、イギリスとの交渉にまで持ち込んだコリンズの手腕及び人となりを
称えているようです。
 それにしても、武力衝突、白昼の暗殺など、街中で行われるわけで、一
般市民も影ながら協力したり、巻き込まれたり、戦争中は気の休まる暇が
ありません。
 内戦となってから、いっしょに戦ってきたデヴァレラ(アラン・リック
マン)や兄弟分(エイダン・クイン)と敵味方になるところが涙です。恋
人(ジュリア・ロバーツ)はいなくてもよかったような(^_^;。ともあれ、
みんな渦中の人といった感じでした。


 時を同じくしても所変われば戦争中といってものんびりしたものでして、
あろうことが敵のイギリス軍将校と不倫の仲になった女性がおりました。

 『ライアンの娘』ロージー(サラ・マイルズ)は、チャールズ(ロバー
ト・ミッチャム)と結婚していましたが、ランドルフ(クリストファー・
ジョーンズ)と恋に落ちてしまったのですねー。確かにこの将校さん、影
のある二枚目です。前線で身も心も傷ついて、PTSD(心的外傷後スト
レス障害)の症状がでるところが痛ましくも、妙にそそられる色っぽさ
(いや〜ん)。安定・安心が持ち味のチャールズを放って、暗い情熱の浪
漫派将校に走るのは無理もありません。

 赴任してきたランドルフを迎えた部下のいうことに「特に仕事もなく散
歩の時間はたっぷり取れる」ような田舎ですが、アイルランド独立運動の
影響はやはりありました。
 活動家が村の沖合いで、ドイツ軍から調達してきた武器を運んでいたと
ころ嵐に遭い、武器が流されてしまうのです。大荒れの海岸、村人総出で
漂着した武器を拾う(というか捕まえる)シーンは大スペクタクルでした。
 また、ロージーの父親ライアンは、活動家が武器を拾いに来たことをイ
ギリス軍に密告します。パブを営んでおり、娘を「プリンセス」と呼んで
可愛がり、白馬をプレゼントするような裕福な人ゆえ、現体制(イギリス
の支配下)であった方が好都合ということなのでしょう。
 (イギリスがドイツと戦争していた時期と、アイルランドの独立運動が
重なるのは、1916〜18年らしいです。敵の敵は味方というわけで、
ドイツから武器を調達できたのでしょうか。『マイケル・コリンズ』でも
『麦の穂をゆらす風』でも武器の調達は、警察署みたいなところを襲撃し
ていたので、これは新情報だと思いながら見ておりました。)

 田舎でのんびりしていても、人々の偏狭さというものは都会以上かもし
れません。イギリス軍将校と不倫をしていたことから、ロージーは密告者
だと決めつけられ断罪されます。
 神父さん(トレヴァー・ハワード)がいなかったらどうなっていたやら。
村を出て行くロージーとチャールズを見送るのは、知的障害のある聾者マ
イケル(ジョン・ミルズ)と神父さんだけですが、希望があるラストです。
二人は独立運動の渦中の町に向かっているわけで、『マイケル・コリン
ズ』を見ていると前途多難と思うわけですが(笑)。

 それにしても、公開当時は酷評されたと言うのが驚きです。確かに、お
話はメロドラマですが、映画はお話だけではありません。主なロケーショ
ンはアイルランドとのことで、その自然を雄大に美しくスクリーンに収め
たのは手柄でありこそすれ、酷評の対象となるのはオカシイと思います。
 そのうえ、登場人物の心の動きや物語の山場などに自然の描写が生かさ
れています。音楽の使い方は古臭いと思いましたが、映像で物語る堂々と
した作品です。
 『ライアンの娘』を見て、実際にアイルランドへ行ってみたくなりまし
た。だけど、映像マジックがありますからねぇ。『ライアンの娘』はイタ
リアやギリシャの海のようにカラッとしています。湿気を帯びた風景が美
しい『麦の穂をゆらす風』の方が実際のアイルランドに近いのではないか
と踏んでおります。


★プルートで朝食を
 (監督:ニール・ジョーダン/イギリス/2005年/127分)
★マイケル・コリンズ
 (監督: ニール・ジョーダン/アメリカ/1996年/133分)
★ライアンの娘
 (監督:デヴィッド・リーン/イギリス/1970年/195分)

                               [うえ↑]

■連載☆映画、時空旅行(6) 2007年5月号 
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☆ スクリーンで観ることの意義 ☆

 音響のよい映画館で美しい映像に身をひたす快感。これを覚えると、映
画は映画館で観たいと思うようになります。
 映像の美しさ、音響、スケール感など、テレビは映画館にかないません。
と言うより、スクリーンでの上映を前提に作られた作品は、やっぱりスク
リーンで観るのがふさわしいように出来ているのだと思います。

 しか〜し、皆さん、映画をスクリーンで観ることの意義は、映像、音響、
スケール感のためだけでしょうか!?

 先月、とりゅう・ピクチャーズが上映した『かもめ食堂』は、既にDVD
が出ているにもかかわらず、自由民権記念館民権ホールが超満員の大盛況
でした。
 小林聡美、片桐はいり、もたいまさこという個性派俳優が演じる人物が、
日本から遠く離れたフィンランドで食堂を営むというお話で、「ゆっくり
生きる」ことを描いて、たいへん気持ちのよい作品でした。
 ときおりクスクスと笑い声があがり、会場の空気は温かくのんびりとし
て、私は「あー、この映画こそスクリーンで観るにふさわしいな〜。家で
一人DVDで観ると味気ないかもしれない。」と思いました。

 歌舞伎やバレエや演奏会などの生の舞台で、演者と観客がともに作る空
気は、ときに冷たく温かく、あるいは明るく暗く色つきです。映画館での
空気は、生の舞台にはかなわないと思っていましたが、どうしてどうして。

 不特定多数の人と同じ時空を旅行する楽しさ。これが映画をスクリーン
で観ることの一番の意義かもしれません。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 蛇足ながら、昔(1995年に)、似たようなことを書いていたことを
思い出したので、以下にコピペしますね。
 映画評論家の品田雄吉さんが講演で話されたことです。


(略)ここからは品田氏の講演の報告になるが、サイレントからトーキー、
モノクロからフルカラー、3Dが流行ったりスクリーンサイズも変ってき
て、映画はこれからどうなるのか。バーチャルリアリティー?要所、要所
で観客の意見(多数決?)を計り、希望のバージョンを上映していく、結
末が見る人々によって異なるなんていうのも考えられるそうな。映画がど
う変るか分からないが、潜在的観客もいるので無くなることはないだろう。
また、技術の発達とともに今の状態とは違う映画になるのは間違いないと
も断言された。ただし、品田氏の二つの経験(たった一人で試写を見てひ
どく味気ない思いをしたこと。試写を見逃したときビデオで見ることがあ
るそうだが、淀川さんが「僕らはわかるからいいよね」・・・スクリーン
で見慣れているのでスクリーンに映った状態が想像できるからいいよ
ね・・・と同意を求めてきたことから淀川さんもビデオで見る後ろめたさ
を感じていると思ったこと。)これらの経験から、「映写したものを大勢
の人といっしょに見る」映画の本質は変らないだろう、というお話だった。
(略)


 全文は次のページで読めます。読みにくいです(^_^;。

 ああ、なつかしの活動大写真(チネチッタ高知)


                               [うえ↑]

■連載☆映画、時空旅行(7) 2007年6月号
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★オリエント急行殺人事件
(監督:シドニー・ルメット/イギリス/1974年/128分)

 あたご劇場で『明日へのチケット』を観て、ヨーロッパの列車に乗って
みたくなりDVDを借りてきました。

 コンスタンティノープル(イスタンブール)から出発するのですが、
ターバンを巻いた人たちなどが往来し、オリエンタルな雰囲気満載。着物
姿の女性も歩いており、なんとも不思議な髪型に結っていて、う〜ん、オ
リエンタル〜(笑)。
 紳士淑女は帽子を着用しており、貴族ともなると帽子専用のトランクを
持っているのですね。その帽子入れをエルキュール・ポアロが上手く利用
するところなどおもしろかったです。

 意外だったのは、一等客室も特別室も思ったより狭かったことです。19
35年当時は、あの広さでも豪華だったのでしょうか。洗面所やクロゼット
付きという点では、現代から見ても豪華かもしれません。続き部屋もあっ
たし。

 事件はユーゴスラビアで起こります。列車は積雪のため立ち往生。雪か
きが終わって警察に届け出るまでの間にポアロは事件を解決するのでした。

 わたくし、推理ものが苦手でして、まったくの受身で見ているだけでし
たが、「お、ノーマン・ベイツ(アンソニー・パーキンス)!」「ローレ
ン・バコール、カッコいい!」「あ、もしかしてイングリット・バーグマ
ン?」「バネッサ・レッドグレープ?なんか似てるけど。」「ジャクリー
ン・ビセット、美しい〜!」「マイケル・ヨークってこんな顔だっけ?」
「ジョン・ギールグッドは執事の役ですか。ナイトですのに。名優だ
わ。」などとストーリー以外のところでも楽しめました。

 特にA・パーキンスは、セリフに「だから、僕をマザコンだとでも言う
のですかっ。」というのがあり笑えました。彼は、当たり役マザコン男
ノーマン・ベイツのイメージで見ら続けたわけですが、こんなセリフを言
ってのけるなんて開き直っていたのですね(尊敬)。
 イングリット・バーグマンもスウェーデン人で英語が片言の役だったの
で、他のスターの皆さんもそれぞれ楽屋落ち的なエピソードがあるのかも
しれません。

 犯人を知らずに見たので、結末には「ほぇ〜!」とあっけに取られまし
た。さすが、アガサ・クリスティ。
 そして、犯人を見逃してやるなんて、ホームズもそんなことをしたこと
がありましたが、私立探偵の強みですね。

 仮に今リメイクするとしたら、マイケル・ヨーク→レイフ・ファインズ、
ジャクリーン・ビセット→ケイト・ブランシェットかなあ。クラシカルな
雰囲気を漂わせた俳優って、すぐには思い浮かびません。
 ローレン・バコール→浅丘ルリ子もいいなあ。
 見た後も、色々時空旅行ができる映画でありました。


アルバート・フィニー   (1936-)
ジャクリーン・ビセット  (1944-)
アンソニー・パーキンス  (1932-92)
マイケル・ヨーク     (1942-)
ローレン・バコール    (1924-)
イングリッド・バーグマン (1915-82)
ショーン・コネリー    (1930-)
リチャード・ウィドマーク (1914-)
ヴァネッサ・レッドグレーヴ(1937-)
ウェンディ・ヒラー    (1912-)
ジョン・ギールグッド   (1904-2000)
ジャン=ピエール・カッセル(1932-2007)
レイチェル・ロバーツ   (1927-80)
コリン・ブレイクリー   (1930-)
ユーゴスラビア      (1929-2003)
国際寝台車会社のオリエント急行(1883-1977)

                               [うえ↑]

■連載☆映画、時空旅行(8) 2007年7月号
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 梅雨時の集中豪雨、あるいは台風と言って思い出す映画は、私の場合
『キートンの蒸気船』です。傘がおちょこの様になるのは序の口で、あら
ゆるものが吹き飛び、果ては大洪水に。まさに活動大写真ですね〜。

 そうなんです。わたくし、『海底王キートン』を見て以来のキートンフ
ァンでして、数年前に5枚入りのDVDボックス・セットを購入していたの
でした。それなのに、本日、初めて封を切ったという次第。
 真っ先に見たのは『セブン・チャンス』。岩がゴロゴロ落ちてくる斜面
をキートンが駆け下りるという有名なシーンのある作品です。

 いやぁ、やっぱり面白かった!!!破産寸前のジミー(キートン)は、
700万ドルの遺産を相続できることになるのですが、その条件が27歳
の誕生日の午後7時までに結婚すること。かねてから好きだったメアリー
(ルス・ドワイヤー)に申し込むも、勘違いから断られます。仕事の相棒
(T・ロイ・バーンズ)は、何としても彼に遺産を相続してほしく、新聞
広告を出したから、さあ大変。何千人という花嫁候補から追いかけられ、
逃げる、逃げる、逃げる!(実は結婚してくれないとわかって「詐欺
めー!」と追いかけられるのです。女は怖い。戦慄の追っかけシーンが続
きます(笑)。)

 キートンの身体能力、すごいです。ジャッキー・チェンみたい。パンフ
レットによると生傷が絶えず、大怪我をしたこともあるとか。そうでしょ
うねぇ。
 でも、そんな素振りは全く見せず、おなじみのストーン・フェイスで、
確実に笑いを取りながら逃げまくります。パソコン画面で一人で見てるの
に、スクスクかなり笑えるのですよ。(マジで声を上げて笑ったところも
ありました!)
 ほのぼのとした幕開けから加速度的に面白くなる作品です。

 キートンは、どの映画を見ても似たようなキャラクターです。放浪紳士
チャーリーも作品が異なれどもキャラクターはいっしょなので、この頃の
喜劇映画はそんなものなのでしょうね。
 で、キートンのキャラが好きなんですよね〜。いくつになってもボンボ
ンで、あまりのトホホぶりに母性本能をくすぐられますわ〜(そういうも
のがあったとして)。ほんと、チャーミングです。

 今回、1920年代のアメリカへ時空旅行をしたわけですが、気がつい
たことといえば黒人です。メアリーの家には黒人男性の使用人がいました。
(馬に乗って遣いに出るのですが、その馬にはあぶみがないので椅子の上
から乗りあがっていました。)
 ジミーが相棒の願いを聴き入れ、スカートを穿いた人物にプロポーズし
まくる場面があるのですが、後姿を追いかけて前に回ると黒人だったので、
そ知らぬ顔で追い越していくという場面、今時の映画だったらどんなにな
るでしょう?

 いろんな乗り物が出てきて楽しいですが、路面電車の前にちゃんとネッ
トが付いていました。人を撥ねたとき、このネットでキャッチして怪我が
ないようにするのだそうです。信号もないし、路面がカオスの時代の電車
ですね。

 さて、傑作『セブン・チャンス』を1999年にリメイクしたのが『プ
ロポーズ』。クリス・オドネル、レニー・ゼルウィガー、そして、久々の
ブルック・シールズが出演しています。
 遺産の額が1億ドル、30歳の誕生日までに結婚すればよいことになっ
ていることなど、現代風にアレンジされています。
 原題が"THE BACHELOR"となっていることからもわかるように、独身を
謳歌する(身を固めるのを躊躇する)男性が主人公というのがミソでしょ
うか。とても楽しい映画だったと記憶しています。


★キートンのセブン・チャンス
 SEVEN CHANCES
(監督:バスター・キートン/アメリカ/1925年/56分)

★プロポーズ
 THE BACHELOR
(監督:ゲイリー・シニョール/アメリカ/1999年/102分)

参考:お茶屋の『プロポーズ』感想

                               [うえ↑]

■連載☆映画、時空旅行(9) 2007年8月号
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★華麗なる恋の舞台で
(監督:イシュトヴァン・サボー/アメリカ/2004年/104分)

 先日、こうちコミュニティーシネマが上映した『華麗なる恋の舞台で』
は大変おもしろい大人の娯楽映画でした。主人公ジュリア(アネット・ベ
ニング)は、実力と人気を兼ね備えたスタア女優でありながら、長年務め
てきた舞台に倦怠しております。そこへ年下の愛人(ショーン・エヴァン
ス)が出来て、乙女のように舞い上がり舞台も絶好調。しかし、それもつ
かの間。やがて新進女優(ルーシー・パンチ)に愛人、息子、夫と寝取ら
れて、その仕返しをするというお話です。舞台上でのこの仕返し、えげつ
ないにもかかわらず、実に痛快でした。それはジュリアがジュリアらしく
舞台を生きる輝きと、その輝きに圧倒される観客の歓びが伝わってきたか
らだと思います。

 登場人物もよかったです。夫(ジェレミー・アイアンズ)との関係は理
想的だし、息子(トム・スターリッジ)は超かわいいし、友人のチャール
ズ卿(ブルース・グリーンウッド)は素敵。劇場の共同出資者ドリー(ミ
リアム・マーゴリーズ)も付き人のエヴィー(ジュリエット・スティーブ
ンソン)も面白かったです。
 また、舞台や俳優の何たるかが描かれていました。舞台は俳優のもの
(板に載れば脚本家も演出家も無きが如し)であることや、俳優のジレン
マ(人並み以上の自意識と客観性を持つがゆえ、現実の生活も芝居がかっ
てしまうことを自覚している)なども面白かったです。

 更にジュリアが尊敬する演出家、故ジミー・ラングトン(マイケル・ガ
ンホン)が、彼女の内なる声として生きているので、彼女の客観性が保た
れ、奢ることなく芝居を続けられたということと、彼女が自分らしい舞台
を務めたことによる満足感から、その内なる声を必要としなくなるという
幕切れまで練りに練られた脚本だと思いました。

 ジミー・ラングトンのセリフ「外は非現実、劇場内こそが現実」は「舞
台に生きろ」ということだと思います。私たち観客は映画や芝居を糧に現
実を生きていますが、俳優は現実生活を糧にしてスクリーンや舞台で生き
ているのかもしれません。
 原題の"BEING JULIA"は「ジュリアらしく生きる」ということだと思い
ますが、この映画の中で彼女が最もジュリアらしさを発揮したのは、舞台
上での仕返しです。よね?(笑)正に現実生活を糧に舞台を生きておりま
した。

 というわけで、主人公ジュリアを演じたアネット・ベニングが素晴らし
く、私は彼女を初めてよい俳優だと思いました。
 そこで、アネット・ベニングつながりで時空旅行をしてきました〜。や
っと本題です。前置き、長〜い。本題は短いです(^_^;。



★グリフターズ
(監督:スティーブン・フリアーズ/アメリカ/1990年/109分)

 『華麗なる恋の舞台で』から15年前の映画ですから、アネット・ベニ
ング、若いです。ぬぎっぷりもよいですね〜。だけど、存在感ではアンジ
ェリカ・ヒューストンに食われています。
 この映画は、ジョン・キューザックを真ん中にした三角関係がスリリン
グな一流の心理サスペンスです。『スティング』のようなコンゲームの楽
しさを期待すると、意外な成り行き、重い結末にビックリすること請け合
いです。

 ロイ(J・キューザック)は、17歳のとき家出して現在25。けちな
イカサマ師をやっています。
 マイラ(A・ベニング)は、女を武器に家賃を踏み倒し、詐欺のカモを
釣るようなアバズレ。ロイの恋人。
 リリー(A・ヒューストン)は、14歳でロイを産み、現在ヤバイ組織
で働いています。

 主な舞台は現代のカリフォルニア州ロサンジェルス。隣のアリゾナ州の
フェニックスにもちょっとだけ飛びます。やはり画面からは乾いた空気が
伝わってきます。でも、あまり舞台は重要ではありません。この映画は心
の中に時空旅行をするので、衣装とか小道具の方が重要です。
 たとえば、マイラとリリーは似たような髪形で、服装やアクセサリーの
趣味が似ていることは、犯罪映画としても重要ですが、ロイの心理分析の
材料にもなります。
 そういった物やちょっとしたセリフが伏線になっているし、もちろん人
物の微かな表情を見逃してはなりません。

 ロイとリリー母子の心の旅は本編でしていただくこととして、ここでは
この映画に出てくるペテン行為などをいくつか挙げて、時空旅行の成果と
したいと思います。


 大穴馬券:ノミ屋は大穴を当てられると配当金の支払いに困るので、倍
率が高い馬券をまとめ買いして倍率を下げる。

 オレンジ:バスタオルに数個のオレンジを包んで殴る。たいした怪我で
はないが、見事な痣になるので保険金を騙し取れる。ただし、殴りそこね
ると内臓破裂することがある。

 サイコロ:左腕に磁石板を巻きつけ袖で隠す。磁石つきサイコロを自在
に操る。

 ガウン:ガウン姿でモーテルの外のアイスボックスに氷を取りに行く。
戻るとき、部屋を間違えたふりをして侵入する。

 人前化粧:公衆の面前で化粧直しをする。欧米ではお誘いと受け取られ
る娼婦的行為。



☆原作者ジム・トンプスン(1906−1977)
 『現金に体を張れ』『突撃』に脚本家として参加。
 『ゲッタウェイ』などの原作。

                               [うえ↑]

■連載☆映画、時空旅行(10) 2007年9月号
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★オーメン
(監督:リチャード・ドナー/アメリカ/1976年/111分)


 毎日暑いですからねぇ。ちょっとでも涼しくなるようにと思って再見し
ました。当サイトの掲示板の書き込み番号がもうすぐ666になることだ
し、これも何かの縁というわけです。

 中学生の頃、封切で観たときは、かなり気色悪かったです。わけがわか
らない不気味さにムカムカした覚えがあります。首が飛ぶのと悪魔の印6
66が深く印象に残りました。

 大人になってDVDで見てみると、意外に怖くもなく不気味でもありま
せんでした。映画ファンとしては感覚が鈍磨しておりますな(笑)。
 首が飛ぶシーンなど私の記憶ではもっと派手だった(スケール感があっ
た)ように思いますが、あっさりしておりました。

 ロバート・ソーン(グレゴリー・ペック)は、イタリア駐在のアメリカ
大使。
ローマのあの噴水が出てきます。デミアンが4、5歳になるとイギリスへ
転勤となり、舞台はロンドンへ。その後、デミアンの謎を解くため、カメ
ラマンのジェニングス(デヴィッド・ワーナー)と中東へ行ったりします。

 まず最初の突っ込みどころは冒頭からでした。待望の子どもが死産だっ
たため、ロバートは同じ日の同時刻に生まれた男の子を養子にします。妻
キャサリン(リー・レミック)に内緒の縁組でした。オイオイ、死産のシ
ョックを妻に与えないためとはいえ、それはないんじゃないの?

 だけど、この奥さん、本当に神経が細いのです。デミアンの反抗に参っ
てしまうのです。反抗期の子どもに母親が負けてどうすると思いますが、
子どもを怖がるようになってしまいます。こうなると妻に内緒でデミアン
を養子にしたロバートの気持ちがわからなくはないです。
 そうなんです。この映画の怖さは、だんだんに追い詰められていくロ
バートの立場になって初めてわかるのです。

 イタリアから突然やって来た神父に「デミアンは悪魔の子だ」と言われ
ても、それは警備員につまみ出させますよね。そんな言葉を鵜呑みにする
わけがありません。
 でも、忠告してくれた神父が悲惨な死に方をしたり、デミアンの部屋に
山犬が住みついたり(デミアンは山犬の子だと神父が言っていた)、神経
を病んだ妻が事故死したり(デミアンが乗った三輪車が当たっての転落
死)、家政婦や神父の死を予告するような写真の影を見せられたり、また、
写真の予告どおりのようにしてカメラマンが死んだり、ほかにも色々あっ
たうえに、ついに悪魔の印だという666をデミアンの頭皮に発見するの
です。
 ここまで追い詰められると、日頃、それほど信心をしていないロバート
でも、キリストに相対する悪魔の存在を確信するに至っても不思議はない
と思います。

 状況証拠ばかりで、デミアン自身が何かをしたり、させたりという証拠
は何もありません。それにもかかわらず、幼い子どもを悪魔の子だからと
殺そうとする恐ろしさ。不幸続きは、人に冷静な判断をできなくさせるの
ですね。

 悪魔は、キリスト教にとって不可欠な存在なのでしょう。この映画の公
開後、教会に行く人が増えたそうです。一時的な現象でしょうけど。あら
ゆる不幸(将来の不幸も)を悪魔のせいにして、その不幸から逃れるため
にキリストに救いを求めるということでしょうか?

 人の不幸を食い物にする霊感商法などは、上記の現象を応用したもので
しょう。いかに不安を煽られても、うん十万円もする壷を買わない自信が
ある人は、別に信念がある、あるいはどんな精神状態でも冷静な判断がで
きる、若しくはお金がないのいずれかでしょう。

 そんなことまで考えて、『オーメン』はホラーでもオカルトでもなく、
人の心の闇を照らした普遍性のある心理劇だと思いました。

                               [うえ↑]

■連載☆映画、時空旅行(11) 2007年10月号
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 現在、TOHOシネマズ高知で上映中の『スキヤキ・ウエスタン ジャン
ゴ』は、私はあまり好きになれませんでした。三池崇史監督の登場人物
(又は映画作り)に対する愛情が感じられず、また、暴力描写が性に合わ
なかったのでございます。景色、衣装、美術、俳優、主題歌と素材はいい
のに(←かなり気に入っています)、実にもったいないと思いました。

 話は変わりますが、私が小学生の頃は「8時だよ!全員集合」の全盛期
でした。私も毎週見ておりましたが、一時期裏番組を見ていたことがあり
ます。ちょうどその頃、担任の先生が「全員集合」を見てない人は起立し
てと言われまして、席を立ったのは2、30人のクラスでたったの3人で
した。1人はプロレス、私を含む残りの2人はNHKの「西部二人組」を
見ていたのでした。
(『ジャンゴ』とはウエスタンつながりの話です(^_^;。)
 父が西部劇を好きだった影響でしょうか、私も子どもの頃から西部劇が
好きだったのです。
 そんなわけで、今回の時空旅行はアメリカの西部開拓時代(19世紀後
半)へ直行です。


 二十数年気に掛かっていた『ロング・ラーダーズ』をDVDで初めて観
ました。これはスクリーンで観たかった!緑の丘陵を7人が馬に跨って旅
をする冒頭の映像からしてしびれます。最大のアクションの見せ場、ミネ
ソタ州の銀行強盗を失敗し、雨あられの銃弾をかいくぐり瀕死の態で逃げ
る場面は、体温が上昇しました。

 このような見せ場はあるものの、全体的に独特の雰囲気のある作品で、
主人公らの実家があるミズーリー州の緑豊かな風景や、リアリティのある
人物像など、かなり渋く落ち着いた印象が残ります。正直言ってDVDで
は100分が長く感じられました。娯楽性は高くはありませんが、けっし
てつまらない作品ではないと思います。DVDではこの映画のよさが半減
しているような気がしてなりません。

 主人公は、ジェシー・ジェームズら世界初の銀行強盗たちです。彼らは
南北戦争(1861〜1865年)の戦友や兄弟の一団です。列車強盗もします。
人もいっぱい殺します。
 この強盗団が保険会社が雇った探偵に追い詰められ、ミネソタまで遠征
して銀行強盗するが失敗。仲間の一部は捕まり、J・ジェームズは逃れま
すが、賞金目当てのフォード兄弟に殺されるというお話。
 強盗のほとぼりを冷ます間、強盗団の個々の面々の様子(主に恋愛がら
み)が描かれたりしています。

 アメリカでは英雄視される向きもあるそうなJ・ジェームズです
が、・・・・冷血です。仲間に見切りをつけるのが早い。でも、長年待た
せた女性にプロポーズするところなどもあり、ちゃんと多面体に描かれて
います。
 人物としては、娼婦の夫とナイフ・ファイトをするコール・ヤンガーや、
紳士的なジム・ヤンガーの方が魅力的。
 銀行強盗で緊張のあまりすぐに発砲してしまうクレル・ミラー、エド・
ミラー兄弟も存在感があります。

<<驚いたこと、勉強になったこと、疑問点>>
1 保安官は強盗団を追わない。町から出て行ったらハイそれまでよ。
2 探偵がどこまでも強盗団を追う。お金もらってるから。
3 保険会社がアドバイスして、強盗予防のため金庫の開閉をタイマー式
にしていた。本当?
4 銃弾で体が穴だらけになっても、急所を外れると生延びられる。
5 身を守るためとはいえ、簡単に人に発砲する。発砲しあう。強盗と探
偵とで、その差なし。


 それにしても、映画ファンとして嬉しいのは、兄弟で編成された強盗団
を兄弟俳優が演じていることです。似ています〜(笑)。でもって、私は
キャラダイン、クエイド兄弟がみんな素敵だと思いました。

ジェシー・ジェームズ  (ジェームズ・キーチ)
フランク・ジェームズ  (ステイシー・キーチ)
コール・ヤンガー (デヴィッド・キャラダイン)
ジム・ヤンガー    (キース・キャラダイン)
ボブ・ヤンガー   (ロバート・キャラダイン)
エド・ミラー       (デニス・クエイド)
クレル・ミラー     (ランディ・クエイド)
ボブ・フォード      (ニコラス・ゲスト)
チャーリー・フォード(クリストファー・ゲスト)


★ロング・ライダーズ
(監督:ウォルター・ヒル/アメリカ/1980年/100分)

                               [うえ↑]

■連載☆映画、時空旅行(12) 2007年11月号
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 時空旅行へ行く前に、ちょっと宣伝。

  映画のまぐまぐ!
  http://movie.mag2.com/

 先月、上記の「映画のまぐまぐ!」が、当メルマガで書いた『ロング・
ライダーズ』と『セブン・チャンス』をピックアプしてくださいまして、
ありがたいことです。とても要約が上手で、思わず自分の書いたものと読
み比べたりしました(笑)。その紹介記事は、既に新しい記事と差し替え
られていますが、上記URLから大人気の映画メルマガ一覧に行くことが
できますし、映画ファンなら興味津々のトピックにもリンクしています。
よかったら覗いてみてくださいね。

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 さて、それでは今月の時空旅行です。どこへ行ったかと言います
と・・・・、ずばり戦場へ行ってきました。
 前回の『ロング・ライダーズ』と同じ頃公開された映画で、『ロング・
ライダーズ』に出演していたロバート・キャラダインや、『スター・ウォ
ーズ』で人気沸騰のマーク・ハミルが出演しており、彼ら新兵を率いる軍
曹役はリー・マーヴィンです。

 『最前線物語』は、いろんな前線に行きます。プロローグは第一次世界
大戦の西部戦線(と思う)で、軍曹は「停戦だ!」と言ってきたドイツ兵
を信じず刺し殺し、後で苦い思いをします。
 それから二十数年後には、歩兵師団第一分隊の軍曹として、グリフやザ
ブらの新兵を指揮し、アルジェリア、イタリア、ノルマンディー上陸、チ
ェコと転戦します。アルジェリアでは市街(カスバ?)のどこに敵が隠れ
ているかヒヤヒヤしながら上陸したかと思えば、絶景を見渡しながらタバ
コで一服。
 その他各戦場で、少年の母親の棺おけ探しをしたり、戦車の中でお産を
助けたり、精神病院での銃撃戦や、軍曹と口の利けない少年の切ない遣り
取り、軍曹とはぐれたり、即席野戦病院にもお世話になるし・・・・。こ
れだけの経験をすると新兵も成長するものです。
 だけど、焼却炉の中に敵が隠れているかもしれないと狂気の表情で発砲
し続けるグリフは、ちょっと怖かったです。戦場ってやはり神経がすり減
るものなのですね。

 ノルマンディー上陸の場面など『プライベート・ライアン』と比較する
と、面白いです。『プライベート・ライアン』では、観客の身にこたえる
ような戦闘に描かれていて、戦場の恐怖を肉体的に感じることができまし
た。
 一方『最前線物語』では、コロリ、コロリと一人ずつ、いとも簡単に狙
撃され、死が軽いタッチで描かれています。戦場での命は使い捨て。弾切
れを補充するように兵士も補充する感覚がよく伝わります。また、一人ず
つ順番に砂浜を這い上がって行く様子には、ジリジリと精神的な恐怖を感
じさせられました。

 人間味のある渋い軍曹が、とてもいいです。知恵と度量と百戦錬磨の経
験が、表情や姿形ににじみ出ています。セリフも動きも必要としない存在
感があります。軍曹のそばにいたら生き残れそう(笑)。リー・マーヴィ
ン、お見事です。
 この作品は、寓話のようなのどかなテンポがおとぼけ風にも感じられ、
ヒューマニティに通じる本当の意味でのユーモアがあると思います。『肉
弾』(岡本喜八監督)に似たテイストかな。また、競馬でどこまでも勝ち
続ける傑作コメディ『のるかそるか』(リチャード・ドレイファス主演)
も思い出しました。

 軍曹は「生き残ることが栄光だ」と兵士に教えます。そのとおりだと思
います。
 しかし、生き残るためには相手を殺さなければなりません。プロローグ
でも示されたように、たとえ停戦を告げにきた相手でも敵ならば殺す。
「生き残るために人を殺すこと、それには是も非もない。それが戦争だ。」
と実に明快、あっさりとした主張です。傑作。


軍曹 (リー・マーヴィン)
グリフ(マーク・ハミル)
ザブ (ロバート・キャラダイン)

★最前線物語
(監督:サミュエル・フラー/アメリカ/1980年/110分)

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■連載☆映画、時空旅行(13) 2007年12月号
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★ヘアスプレー
(監督:アダム・シャンクマン/アメリカ/2007年/116分)

 いや〜、楽しかったです。
 1962年のボルチモアは、ツイスト〜!ブラック・ミュージック最
高!
 さらば、劣等感。おさらば、差別意識。つかもう、本当の自由。
 歌って踊って前向きに生きよう!と作り手の心意気が明確に伝わってき
たし、主役のみならず脇役のキャラクターもチャーミングで本当に楽しか
ったです。

 ジョン・ウォーターズ監督の同名作品(1988)がオリジナルで、その後、
ブロードウェイでミュージカル化されたものを、この度、再映画化したの
だそうです。
 キャストが豪華!クリストファー・ウォーケン、ミシェル・ファイフ
ァーが歌います、踊ります!久々〜。

 主役のトレーシーを演じたニッキー・ブロンスキーは、オーデションで
発見されたそうで。
 トレーシーの母エドナを演じた人も、あの容貌と体形で歌って踊れるの
だもの、本当にアメリカの俳優は層が厚い・・・・・と思っていたら、な
んと、エドナはジョン・トラボルタ!どおりで夫役のウォーケンとキスを
しなかったんだ〜!キスをする前にフェイドアウトするなんて、おかしい
と思ったんだよね(笑)。

 パンフレットによると、トラボルタは『グリース』のダニー・ズーコ役
を超えるには女性を演じるしかないと口説かれたそうです。
 そのダニーとやらは、それほどミュージカル俳優として決定的な役だっ
たのだろうかと1950年代のアメリカへGO!

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 50年代のアメリカってのどか〜。高校生(には見えない俳優陣ですが
(汗))、初心で可愛い〜。
 でも、高校生でも車は乗り回してます。このへんは、『理由なき反抗』
の時代ですねぇ。
 また、ピンクレディースのメンバーの一人(ストッカード・チャニン
グ)は、発展家を装うツッパリで、車の中で事に及んだりしています。相
手の男の子(ジェフ・コナウェイ)がコンドームを持ってなくて、後に
「妊娠したかも(汗×焦)」状態になってしまいます。
 それでも全体的に高校生と思えないくらい子どもっぽいです。恋愛以外
で悩んでいる様子がないからかなぁ(笑)。品があるとはいえないし
(汗)。残念ながら、月並みな学園ミュージカルの域を出ていないように
思います。

 時空旅行としては、50年代ってニクソンが副大統領だったことがわか
り「へぇ〜」と思ったり、ツッパリ同士が車でレースをする場所は、コン
クリート三面張りの河川で、当時はその問題点に気がつかなかったんだろ
うと思ったり。卒業祝いに行った移動遊園地は『理由なき反抗』にも出て
きましたね。

 で、肝心の主役ですが、ジョン・トラボルタは、以前からチャーミング
な人だとは思っていましたが、これだけ若いと更にチャーミング。踊りは
切れがあってカッコいいし、この映画で人気が出たのも頷けます。
 ダンス・パーティで黒のスーツにピンクのシャツとソックスという出で
立ちが、たまらなくお似合い!
 オリヴィア・ニュートン=ジョンの方は、これまた可愛い!彼女、こん
なに可愛かったっけ?

 それにしても、私は『サタデーナイト・フィーバー』を観ているのです
が、それは全く記憶になし;;;。初めて一人で観た映画という意味では、
よく覚えているのですが。


★グリース
(監督:ランダル・クレイザー/アメリカ/1978年/110分)
ダニー・ズーコ(ジョン・トラボルタ)
サンディ・オルソン(オリヴィア・ニュートン=ジョン)

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 ちなみに、ジョン・ウォーターズ監督と同郷のバリー・レヴィンソン監
督にもボルチモアを舞台にした自伝的作品(『ダイナー』『わが心のボル
チモア』)があります。
 1959年が舞台の青春群像劇『ダイナー』には、大学生ビリー(ティ
モシー・デイリー)が始めはお行儀よくピアノを弾いていたのが、途中か
らノリノリのロックになり、友達も踊りまくるというシーンがあります。

 1959年『ダイナー』レヴィンソン監督の大学生時代?
 1962年『ヘアスプレー』ウォーターズ監督の高校生時代?
 ということは、レヴィンソンが年上?

 と思って調べてみました。

 レヴィンソン監督:1942年4月 6日生まれ(1959年には17
歳)
 ウォーターズ監督:1946年4月29日生まれ(1962年には16
歳)

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■連載☆映画、時空旅行(14) 2008年1月号
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★恋人までの距離(ディスタンス)
 原題:BEFORE SUNRISE
(監督:リチャード・リンクレイター/アメリカ/1995年/102
分)

★ビフォア・サンセット
 原題:BEFORE SUNSET
(監督:リチャード・リンクレイター/アメリカ/2004年/81分)


 フランス人のセリーナ(ジュリー・デルピー)とアメリカ人のジェシー
(イーサン・ホーク)は列車で出会い、話が弾んで意気投合。それは恋に
発展し、やがては切ない別れに至ります。出会いから別れまでをウィーン
での一昼夜に濃縮した『恋人までの距離』。
 そして、九年後にパリで再会し、旧交を温める二人を甘く苦く、大人テ
イストで描いた『ビフォア・サンセット』。
 制作年が1995年と2005年の作品をいっぺんに観るという時空旅
行。いや〜、堪能いたしました。

 まず、何と言っても主役の二人が魅力的です。ジェシーは、陰りのある
男前で、ちょっと自意識過剰ぎみ。セリーナは、明るい瞳とオバQ(?)
唇が愛くるしい、自由で生き生きした女性。やっぱり映画は美男美女に限
りますわ〜。
この二人を見ているだけで飽きません。それに九年後の二人は、三十路と
言えどまだまだ瑞々しく(やや水分は飛んでいますが、重力には負けてい
ません)、大人になった分、会話の遣り取りが味わい深くなっています。

 また、ウィーンやパリの街の風景がよろしいです。列車、電車、観覧車、
船、自動車などの乗り物も映画的です。ウィーンは夜間の景色が多いので、
DVDよりスクリーンで観たかったなぁ。

 そして、二人の会話の内容が、子どもの頃の話、家族、宗教、音楽、恋
愛、仕事、セックス、悩みなど多岐に渡っています。ウィーンでは、占い
師や河岸詩人との出会いや二人の親密さが増して行く過程が面白く、パリ
では、話の内容に人生があり、それを踏まえたうえで二人がなるようにな
って行く過程が面白かったです。

 ウィーンでは甘酸っぱい切なさでいっぱいでしたが、パリは苦くていい
ねぇ(唸)。「若いときは、出会いがたくさんあると思っていたけれど、
本当の出会いはまれ」「しかも、それを取り逃がす」思わず頷いてしまう
遣り取りです(笑)。

 そんなわけで、つい、若かりし頃の自分に時空旅行などして、灰色の恋
愛模様を思い出し、「恋愛というのはバラ色か漆黒がいいんじゃないの〜
?」と思ったりしています。

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