ピックアップ>この映画をスクリーンで観ずして何とする。

『天国の門 デジタル修復完全版』

天国の門

どうです?いいチラシでしょう?こういう映画は、スクリーンで観ないといけないのであります。小さな画面ではその良さが伝わりにくいし、中断、プレイバックはもってのほか。ゆったり腰を落ち着けて、じっくり集中して観るに限ります。

『ディア・ハンター』(1978)のマイケル・チミノ監督の作品で、歴史あるユナイテッド・アーティスツ(チャールズ・チャップリンやメアリー・ピックフォードなどが創立した映画会社)を倒産に追い込んだ伝説の映画『天国の門』(1981)があたご劇場で12月27日まで上映中です。

とにかくスケールが大きい。美術も音楽も俳優もよい。映像はデジタル修正のせいか粒子が粗いのが残念だけど、色彩がとても繊細で逆光ぎみの画面など白と黄の光が美しい。雄大なロッキー山脈の景色だけじゃなく、汽車が右手奥から手前に来て目の前を通り過ぎ左端に去って行ったり、くるくるくるくるのダンスシーンや移民のねぐらを奥へ奥へ移動していくシーンなど、本当に動く西洋絵画を見ているようです。乾いた荒れ地とヘブンズ・ゲイト前のぬかるみも凄かったなぁ!
また、チミノ作品の特徴である力強い演出は健在で、216分があっという間。それに画面の情報量が盛りだくさんなので、冒頭の卒業式のシーンなんか「シルクハットってこんなにたくさん種類があるのか〜」という感じで、もし、あと2時間あったとしてもこの密度なら退屈する暇なしと言えます。

莫大な制作費を投じた甲斐のある傑作なのに、なぜ、制作会社を倒産させるほど大コケにコケたのかというと、作品の内容がアメリカの暗黒史に触れたからのようです。そのへんの事情は映画館主FさんのサイトDAY FOR NIGHT「天国の門」から見る風景(あんのさん著)に詳しいので(ジョンソン郡戦争の史実についても書かれています)、ぜひ、お読みください。

チミノ作品の特徴

『ディア・ハンター』ではロシア系移民、『天国の門』でもロシア・東欧系移民、『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』では中国系移民というふうに少数派に入れ込む傾向があるように思います。
監督デビュー作(脚本も)の『サンダーボルト』のサンダーボルト(クリント・イーストウッド)とライトフット(ジェフ・ブリッジズ)で明らかでしたが、男同士の結びつきを描くのが好きだし、友情から敵対まで色々バリエーションがあります。『ディア・ハンター』のニック(クリストファー・ウォーケン)とマイケル(ロバート・デニーロ)、『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』のスタンリー(ミッキー・ローク)とジョーイ(ジョン・ローン)。『天国の門』でもハーバード大学の同窓生ビル(ジョン・ハート)とジム(クリス・クリストファーソン)は友情なんですが、ジムとネイト(クリストファー・ウォーケン)は恋敵でもあります。(『シシリアン』『逃亡者』は、作品の力が弱くなって(それでも普通に面白かったのですが)あまり記憶に残ってないのが残念。)
演出は力強いのですが、有り余った力で壊してしまうというのもチミノ作品の特徴だと思っています。緩急がハッキリしているというか、緩は過剰に緩く、急も過剰に急。バランスを考えてない(笑)。万人に受けるような端正な仕上がりは『サンダーボルト』だけかも(?)。
そして、最後にあげる特徴は、お茶屋好みの男優多しという最重要事項。うえに掲げた男優のうちクリス・クリストファーソン以外は好きとか大好きでして、『天国の門』には他にもブラッド・ダリフというタイプ〜な、懐かしのお方が登場したので嬉しかったです。

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