いの町紙の博物館で

孤高の拓本家 井上拓歩展
拓本の画像
展示されていたオリジナルの拓本は数が少なかったけれど、磨崖だからとても大きくて(もっと大きいものもあるそうだ)見応えがあった。こんな大きなものをどうやって摺るのだろうと思ったら、ちゃんとその様子を展示してある写真で見ることが出来たり。拓歩老師は亡くなっているので、お弟子さんが会場に控えておられて色々と説明してくださってありがたかった。老師は多趣味で自己流で掛け軸なども制作されていたそうで、作り方を教えてもらったお弟子さんの作品もあり、素朴で素敵な掛け軸で欲しくなったほどだ。麻布を染めて作るそうでお弟子さんのお弟子さんも楽しいと言っているそうだ。それにしても、没後10年記念にお弟子さんにこのように展覧会を開いてもらえるなんて誠に善いことだ。
帰宅して検索すると県内の石碑の拓本を書籍化したものが古本屋あり、前々からあちこちの石碑を見るたびに(安政とか古いのもあるのだ)「読めたらなぁ」と思っていたこともあり、欲しくなったけど場所をとるからなぁ。

高橋雨香展
三階の会場までの階段にも作品が展示してあって、上っていくときワクワクした。「ムンク」や「ゴジラ」や「ビートルズ」など全体的に遊び心があって楽しかった。また、毛筆で紙やTシャツなどに書いたものをオリジナル作品としたら、文字型に作った金属(?)や文字を織り込んだ着物や、書を印刷したもので作った十二支サイコロなど、書の二次作品というかアート作品もあって、色んな方向に展開していっているのを見てアクティブな人だと思った。

池田智佐 絵画展
線画。楽しい絵だった。カラーよりモノトーンがいいと思った。

常設展 伊藤神谷コーナー
三年前に見たときは何とも思わなかったが、書道教室2年生となった今見てみると、とても味わい深い書だと思った。
また、神谷老師のことばがパネルで掲示されていて感動した。うろ覚えだけど意味は次のとおり。
「書を専門とする人だけでなく、趣味で書く人やわからないと言う人はもとより、嫌いな人にまで親しんでもらい、そういう人たちが住むところが日本だというふうにならなければいけない。」
これが実現したら、日本(に住む人)が戦争をすることはないだろう。
(2022/10/07)

佐藤健寿展「奇界/世界」

あまり関心はなかったが、年間パスポートの期限までに開催されたので観てみた。思ったよりは面白かった。写真からいろんなことに関心が湧いた。例えば、ガーナで作られた棺桶。遺体といっしょに埋めるでもなく燃やすでもなく作品、若しくは亡くなった人の思い出として保管しておくのだろうかとか。アメリカの荒れ地で金網に囲われているとはいえ、野ざらしにされている遺体。死後、どうなるかという研究だそうだが、始めてから何十年も経つのにまだ続けているの?研究の成果物(文書)はあるのだろうかとか。

腐乱している死体や間近にいると臭いがあるのではないかと思われるものなどの写真も多かったが、印刷がそれほどの大きさではないせいか直視できた。生肉を食べている家族の写真も解体された動物の血肉も平気だった。解体するとき一滴も血をこぼさないそうだ。とても綺麗に食べている。それとは反対の『レヴェナント』を思い出してしまった。

一番面白かったのは、「創造 無駄という人類の天賦」と「博物館 蒐集される驚異」だ。いずれも個人の私的な創作物と私設の博物館なのだが、作りたがり集めたがる人間の性も含めて作ったもの集めたものを面白がれた。しかし、「無駄」というなかれ。身体の食べ物が必要なように心の食べ物も必要だから。創作物も博物館もその人の心の食べ物だったのだと思う。

コレクション展「現代版画の楽しみ(後期)」


ムンクもポロックも、今まで観たことのある絵画の雰囲気が出ている版画がよかった。
ダントツは栗田政裕の「異星人たちとの会話」。木口木版画。素晴らしい。

(今年度の県美の企画展はそそられるものがないなぁ。年間パスポートはどうしようかな。)
(2022/06/18)

没後70年山脇信徳展

副題は「極端から極端へ-印象派を超えて郷土へ」。「絵画も常に極端より極端に推移する」という信徳の言葉から取ったようだ。なかなか面白かった。
構成は、「序/1東京・滋賀 印象派の画家/2満州・欧州 見聞を広める旅/3帰郷 郷土と向き合う画家」となっていた。同時代の郷土画家や信徳と関わりのあった画家の作品も展示されていた。

序で楠永直枝が1枚あったのを見て高校の美術の授業で「楠永直枝と教え子展」を観たことを思い出した。そのときに山脇信徳の作品もあったかもしれない。
裸婦の木炭デッサンは、「信徳と思って手に入れたが、その弟の作品かも(^_^;」という趣旨の解説がついていて面白かった。

日本のモネと言われた頃の「上野ルンペン」「裸婦」などは、タッチや色彩がルノアールの裸体画みたいだと思った。「夕日」などはゴッホっぽい?
「極端から極端へ」とは思わなかったけれど、画風がころころ変わるのは面白い。それでも一貫してザッと描いた感じというか、自由な感じがする。例えば、同時期に欧州留学していた西岡瑞穂の作品がしっかりキチッとしているのとはえらい違いだ。瑞穂が背広にネクタイ姿をビシッと決めているのに、信徳は浴衣の襟元も裾もはだけて平気の平左みたいな感じだ。それがサインにも現れていて、イニシャルだけやローマ字や漢字やハンコ(?)や色々あった。試行錯誤なのかもしれないが、こだわりがなくていいと思う。また、作品から受ける感じが、旅先で志賀直哉を振り回したという楽しいエピソードに違和感がないのも嬉しい。

作品リストは裏面や余白が解説書や略年譜にもなっていてありがたい。
特に山脇をめぐる人々と題された相関図は、一目で「なぜ」を解決してくれた。梅原龍三郎は信徳を春陽会、国画会に誘ったということで、藤田嗣治は東京美術学校西洋科同期ということで、油絵やリトグラフが展示されていたわけだ。

特に好みの作品。
「叡山の雪」(油彩、高知市蔵)、藤田嗣治のリトグラフ「中毒に就いて」、「パリ 夜のまち」(水彩・パステル)、「夜のヴェネツィア」(油彩、個人蔵)、「高知絵-高知城下」(油彩)。「雨の夕」はやっぱりいい。中国の風景画もよかった。

*「絵画の約束論争」
*高知県美術展覧会(県展)発足の功労者

コレクション展 シャガール「我が生涯」


3月に「ポエム」を観たときに意外なことに好みだった。木版画で土くさいからだろうか。紙などでコラージュしているのも面白かった。自分でも不思議でたまらなかった。もういっぺん「ポエム」を観れるかと思ったら既に展示が変わっていた。そして、「我が生涯」を観て安心した。やっぱりシャガールは好みじゃないわ~。と言いつつパリのオペラ座の天井画は好きかもしれない(オペラ座込みで)。

コレクション展 現代版画の楽しみ(前期)


アンリ・マティスの「ジャズ」、いいな~。血行がよくなりそう。常設展にしてほしい。

「ヨーゼフ・ボイスのために」のヨーゼフ・ボイスは、『ある画家の数奇な運命』にも登場したデュッセルドルフ芸術アカデミーでリヒターたちに教えていた教授だろうか?この先生が亡くなったとき世界中の芸術家が追悼の作品集に参加したらしい。うへ、ちょっと気持ち悪いと思ったら、フランチェスコ・クレメンテの作品だったりして面白かった。一番印象に残っているのは、全体が白っぽい画面で左下に一瞬ガードレールに見えた点線の端に人がいて右上に長四角のものがある作品。誰の作品だっただろう。

山本容子の「光の大地」。新聞小説の挿絵とのことでほぼ真四角だ。四角の中に神話などからのモチーフが散りばめられていて、これを新聞で見るとなるとかなり小さくて老眼に堪えそうだ。

アンディ・ウォーホルの「アフリカン・エレファント」。大きい。色鮮やか。これが常設展でもいい。

フランシス・ベーコンの「応誦(レポン)」をうん十年ぶりで見た。リトグラフだったのか。脳内でこってりした油絵に変換されていた。
(2022/04/26 高知県立美術館)

福富太郎の眼

感想を書く時機を逸してしまったが、よかったのでやはり書いておこう。
個人のコレクションをこうして披露してくれるのは本当にありがたい。「妖魚」(鏑木清方)なんて何とも惹きつけられる作品を作者は失敗作と言っていたとはビックリ。批判された作品だそうで時代が作者にそう言わせたのだろうか。それを福富さんは評価してコレクトしているのだから、時代に囚われない眼を持っていたということなのだろう。
福富さんの勉強ぶりや作家との遣り取りの様子も解説されていて、思い出したのは小夏の映画会の田辺さんだ。映画監督などと交流し、直にフィルムを借りて自主上映することもあったと聴いていた。思いがけないところで田辺さんを偲ぶこととなったのだが、福富さんや田辺さん(や山田五郎さん)のような人が作家及び作品と私たちを繋いでくれるのだなあと改めて思った。でもって、福富さんが作品を評した言葉が温かくよかったので、著作も読んでみたいと思った。

鏑木清方では「京橋・金沢亭」が意外に好きだった。落語を聴きに来た人たちの様子をスナップ写真のように捉えた作品で味わい深い。ちょっと欲しいと思った。

「軍人の妻」(満谷国四郎)なんて、実物を見れるとは。印刷物では背景と喪服の境がわかりやすいのだが、実物は下の方のシャープな白い線がひるがえった衽(おくみ)であることに気づいてから喪服が浮かび上がった。涙の方は印刷物ではよくわからず、実物で初めて気がついた。

「お夏狂乱」は池田輝方と鳥居言人の二作品あった。池田の方は菊の着物に柳の襦袢で呆けた感じ、鳥居の方は百合の着物にしだれ柳の襦袢で凄みのある感じ。いずれも着乱れて背景は秋だ。凄みのある方がドラマチックで訴えかけるものがあると思ったり、呆けた方が真実味があるかもと思ったり。

萩の庭で猫を抱いた女性が見つめる先には蝶。「秋苑」(池田蕉園)で何を見ているかわかったときは嬉しかった。

「道行」(北野恒富)、綺麗、カッコイイ、好き♥。

着物っていいな。季節感があるし模様を見ていても飽きない。木綿や絹の質感の描き分けは流石プロの絵描きさん。
(2022/02/14 高知県立美術館)