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三猿返上

ハラハラドキドキしっぱなしで面白かった!
韓国のテレビドラマを見たことがないので、朝鮮王朝になじみがなかったが、権力者というのはどこも似たり寄ったりだから、世子を暗殺したのが誰だがすぐに見当はつく。それでも、「清から帰国して間もなく七つの穴から血を流して死んだ」という文献から、このような話を思いつくなんてあったまイイね!

主人公の盲目の鍼医者は、自然の成り行きでこの暗殺事件に巻き込まれていく。恩人と言える世子が暗殺されたことを知っては、三猿を決め込むことは困難なのが人情というものだ。宮中の処世術として見ざる聞かざる言わざるは鉄則とも言えるのだけれど、心のままに(深く考えず)鉄則を破ったために自分の命まで危うくしてしまった。三猿返上は宮中でなくても、ものすごく勇気のいることだと思う。考え込んだら、なかなか出来ることではないだろう。
主人公が葛藤したのは、逃げるか、世子の幼い息子を助けに戻るかのときだった。戻ると自分も殺されるリスクがあり、そうなると病身の弟は郷里でひとりになってしまう。当然、主人公は戻って大ピンチになってしまう。そして、殺されるとわかっていても、誰が世子を殺したか皆の前で叫ぶのだ。

う~ん、そうきたかと私としては理解が及ばなかったのが4年後のエピローグだ。地域の鍼医者として大成している主人公は、王様の危篤に治療のため招かれるが、王様を暗殺してしまうのだ。恩人世子の復讐とも言えるけれど、放っておいても死ぬのに殺すの?気持ちワル~(^_^;。王だけが悪者ではなく権力の中枢にあった領正(だったっけ?)も込みで殺したとしても、また次の王と領正(だっけ?)が現れるよ。これが私刑というものか。せっかく三猿返上の雄叫びで、処刑人が彼を逃がしたことに感動したのに。あれこそ、少しだけ世の中を変えた実績であり、あそこで終わっていてもよかった。とはいえ、面白かった感想に変わりなし!でござる。
(2024/09/28 ゴトゴトシネマ メフィストフェレス)

ラストマイル

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目指せ
五方良し

爆弾のおかげでハラハラ、配送父子(火野正平、宇野祥平)のおかげでほろり、配送会社の中間管理職(阿部サダヲ)が電話で「社長に言っとけっ!」と怒鳴った相手が社長だったのに爆笑、エレナと孔(満島ひかり、岡田将生)も所詮は労働者なので何やら気の毒で、なかなか面白かった。

ケン・ローチ監督の『家族を想うとき』のように日本だけでなく、労働者の働き損になるように社会のシステム(法律)が変えられて久しい。本作の背景はそういうことなので、近江商人の三法良し(売り手、買い手、世間に良し)に習った五方良しに思いが飛ぶ。五方良しとは、「従業員とその家族(売り手)」、「外注先・仕入先」、「顧客(買い手)」、「地域社会(世間)」、「株主」 の人を幸せにする経営のことで、坂本光司さんが提唱してきた。amazon 経営者は、ぜひ、目指してほしいと思う。立法府にも。

俳優では満島ひかりがよかった。赴任したばかりのときの無理している感がただよう痛々しさ、やがて有能だとわかってきた頃に、爆弾に触って大ピンチの表情。あるいは孔に「お客様のために」を説明するときの無言の裏読み、警察や取引先との一線の引き具合、おしまいの上司とのやりとりなど、微妙に態度を変えながらもエレナはエレナの魅力があった。

大ヒットということで登場人物のイラストのシールをもらった。宣伝がすごいからヒットして当然、しなければ悲惨だったろう。プロデューサー:新井順子、監督:塚原あゆ子、脚本:野木亜紀子は、テレビドラマ「MIU404」「アンナチュラル」にも関わっていたそうで、今や映画制作はテレビで実績を挙げてからというのが主流なんだろうか?少なくとも徒弟制のようだった昔のようなことはないのだろう。ともあれ、主要ポストを女性が占める日本映画がヒットするのはイイもんだ。
(2024/09/23 TOHOシネマズ高知1)

人を大切にする経営学会
発起人代表挨拶

(略)学会の主目的は、「人をトコトン大切にしている企業こそが、好不況にぶれず好業績」という先行研究の深化・体系化と、人を大切にする企業経営の普及にあります。(略)

坂本光司 法政大学大学院政策創造研究科教授・NPO法人オールしずおかベストコミュニテイ(障がい者の就労支援機関)理事長
(引用者注:現在の肩書きは異なっているかも)

夏目アラタの結婚

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俳優万歳

殺人の罪により一審で死刑判決を受けた品川真珠(黒島結菜)。被害者の息子が訪れた児童相談所の職員夏目アラタ(柳楽優弥)は、その少年の父の頭部をどこに隠したか聴き出すため、真珠との面会を重ねる。表情や言葉とは裏腹の駆け引きが続く心理サスペンスを楽しんでいたら、いつの間にか純愛ドラマとなっており見事に幕引き。
省略が利いてテンポがよい場面展開と主演俳優二人の魅力により、あっという間の2時間で、あとで振り返ると「???なんか辻褄が」と、わからないところがポツポツあるのに、観ている間はまったく気に掛からないパワーで押し切る作品だった。また、オープニングの俯瞰で撮影した様々なバッテン印が伏線になっており、クロージングのバッテン印で回収されるという痛快さも映画ファンの心をくすぐる。
柳楽くんは、元ヤンキーの公務員で、未だに所長に心配されている(少年ぽさが残る)アラタにぴったり。柳楽くん自身が温もりのある人のような気がするが、それも包容力のあるアラタになっていてよかった。
黒島さんは、真珠の善にも悪にもとれる危うい感じが、めちゃうま。終わってみれば、真珠は純粋な人というのにも納得感があり、純粋な人の危うさも感じられて今後も大丈夫かなと心配になるが、アラタとなら大丈夫だろう。めでたしめでたし。
(2024/09/14 TOHOシネマズ高知1)

大いなる不在

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死ではない

なぜ、父陽二(藤竜也)は警察のお世話になったのか。父の再婚相手、直美さん(原日出子)は認知症になった父をおいてどこへ行ったのか。一人暮らしとなった父に食事の配達を依頼した人は何者なのか。幼い頃に両親が離婚して父とは二十年以上も会ってなかった息子卓(森山未來)の疑問点が徐々に明かされていくミステリー仕立ての父を知る話。一方、直美さん側からすると、情熱のダブル不倫の末に結ばれた陽二さんに認知されず、怒鳴られ、宝物の恋文と日記を放り投げられたりして、学者であり趣味人である素敵な陽二さんを失う話。

二十数年ぶりの再会は、卓が二人の家を訪ねたときだった。陽二はめちゃめちゃ嬉しそうで饒舌なくらい。直美さんは陽二がどれだけ卓のことを思っていたか、そっと話したりして他人行儀な彼を気遣う。卓はおそらく母が亡くなったことを知らせるつもりで訪問したのだと思うが、そんな雰囲気ではないし、父との距離はとおい。次に会ったのは陽二が九州から東京へ来たとき。認知機能が少し怪しくなった陽二を心配した直美さんが、卓に連絡したのではないだろうか。妻(真木よう子)を紹介して、陽二のスピーチ現場まで付き添っているが、やはり父との距離はとおい。距離が縮まっていったのは、父を施設に預けて面会を重ねるうち、老いを感じたり頼られたりしていたところへ、子どもの頃手を上げたことを「許してほしい」と懇願されたからだと思う。「許す」と早う言うちゃってとドキドキハラハラの緊張感。なにせ、卓の生真面目というか頑なというか理詰めな性格は映画の当初にめっちゃ印象づけられていたため、叩かれた覚えもないのに言えるのか、ものすごいサスペンスだった。その後、父とベルトを交換するところは、ほっとしたせいもあって「えい息子やんか(ToT)」という感じ。

直美さんの方は、気の毒な感じ。認知症でなくとも愛する人が老いて弱っていくのを見ているのは、悲しく身に堪える。直美さんの場合は、大恋愛の相手だからなおさらだ。情熱的な恋文と日記を見て、何という浪漫であろうかと思うと同時に、これほどの執着は双方とも相当に苦しかっただろうと思う。双方の家族に気兼ねとか拘りがあって、浪漫を全うできず現実路線を行った二人だが、おおむね幸せそうに見えた。直美さんの逃避と後追いは現実路線というより浪漫派のような気がするが、その心情が十分理解できるような運びになっていたと思う。

まだ死んでもいないのに、望みを失い幻を追って(?)逝った直美さん。
もしものときは延命治療をと施設の職員に伝えた卓くん。
いいも悪いもない、大いなる悲哀であった。

森山未來は表情をほとんど変えないが、目の温度というか熱量が変化することで、どんな思いでいるかが伝わってくる演技だった。すごい・・・・。日本では男女問わず良い俳優の割合が高いのではないかという気がしていたが、それは日本の文化にどっぷり漬かった者の感慨というものであろうか。
(2024/09/06 とさピクシアター)