唯一知っているスクリーンサイズのスタンダードとオープニングの色調が時代を感じさせてくれる。丁寧に作られた作品だ。オリジナルに対するリスペクトも感じさせられる。黒澤明監督の『生きる』が若干上から目線な(?)圧があったのに対して優しい作品で、しかもビル・ナイ様が主演なのでとても好みだ。ビル・ナイ様が演じる課長さん(?)は、早くに妻を亡くし息子との意思疎通も控えめで内に悲しみを秘めているような感じだけれど、どこか可愛らしさとユーモアもある抑制の効いた(私の持っているイメージの)イギリス人らしいイギリス人でグッドなのだ(課長さんはスコットランド出身だそうだけど)。「ゴンドラの唄」は出てこないけれど、スコットランドの民謡「ナナカマドの木」が、公園で遊ぶ子どもたちのラストシーンにピッタリで名翻案だと思った。
もうこの年になると(あるいは色んな生き方があると多少知るようになると)、別に生き生きと生きられなくてもいいと思う。自分自身では、あまり欲がないから幸せだという気がする。ゾンビでも最期にがんばってちいさな満足感を得た課長さん、幸せだったよね。
(2023/04/15 TOHOシネマズ高知3)
カテゴリー: 映画の感想
フェイブルマンズ
(2023/03/04 TOHOシネマズ高知5)
エンパイア・オブ・ライト
ヒラリー(オリヴィア・コールマン)が、1回目に強制入院させられときはどんなだったのかわからないが、2回目の強制入院はあまりにも理不尽だと思った。『炎のランナー』のプレミアで突然舞台に上がって、従業員仲間をハラハラさせ観客をシラケと困惑に陥れただけでお迎えとは。ヒラリーは女性であるが故にどんどん自由を狭められ痛めつけられたという点で、山岸凉子さんの漫画「天人唐草」を彷彿させる人だ。極小の箱に押し込められたヒラリーのヒラリーらしさが弾けるときを、夜空に広がる花火や鳩が飛ぶ大きな窓ガラスからのながめなどで美しく描いたり、多数派とは少しずれている個性をドレスのファスナーが上げ切れてない悲しさで描いたり。プレミアは一番キメキメで行きたいところだったのに。
果たして、エンパイア・オブ・ライト(光の帝国=映画館)はヒラリーを救えるか。映画ファンとしては、サム・メンデス監督とともに「救える」と言いたいところ。従業員仲間は皆、いい人だし。従業員だと意外と観る暇はないかもしれないけれど(?)。
スティーブン(マイケル・ウォード)は、黒人であるが故に不自由な思いもあるが前途洋々。この頃、黒人だけでなく移民が排斥されていたことを『マイ・ビューティフル・ランドレット』などとともに思い出した。
残念ながらピーター・セラーズの『チャンス』は未見。
ベストワン候補。
(2023/02/28 TOHOシネマズ高知9)
ワース 命の値段
久々のマイケル・キートン(^_^)。勇んで行った。
アメリカ映画らしい良さがあふれており、安心して見ていられた。見ていて何に価値があるかというと「信用」とか「信頼」とか、そういうものが大切なんじゃないかという気がしてくる。だから、「命の値段」と副題で限定しない方がよかったかもしれないと思ったり、また、信頼を得るには合理性ばかりを言っても始まらず、人に寄り添う共感性が大切だと改めて思えてくる。結局、人は理性よりも感情の生き物なのだと思うと、それもまた問題ありなのだが。
アメリカ政府は航空会社を守るために補償金を出すことにしたのだが、まだ終わっていない東日本大震災の原発事故処理を思い出す。
また、この映画を観た頃、聴覚障害の女児死亡事故 逸失利益は85%3700万円余判決という就職・賃金差別を認める判決があったことも思い出す。
「命の値段」という文学的表現は、補償費とか逸失利益などという正確な言葉ではないが、本質を突いている部分があると思う。あれれ、やっぱりこの副題でよかったのかな。
(2023/02/24 TOHOシネマズ高知8)