ドライブ・マイ・カー

やっぱり、こういう映画がいいなあ(しみじみ)。179分という長尺を感じさせない端正な作り。生きることの力添えになる作品。
事実を受け入れて自分に正直に生きる。つらいことがあっても死ぬまでは生きる。古今東西の文学作品で書かれてきたことだと思う。きっと映画でも何本も観た。
また、幾重にも面白く、カンヌで脚本賞を受賞したのも納得、見るたびに発見がありそうだ。

妻の音(霧島れいか)の浮気を見て見ない振りをしていた家福(西島秀俊)が、ありのままを受け入れて正直な気持ちを吐露できたのはみさき(三浦透子)がいたからだ。みさきに愛車を任せられないと思っていた家福が運転を絶賛するようになり、次には亡くなった娘が生きていたら同じ年頃と意識するようになり、おしまいでは愛車内でいっしょに煙草を喫するまでになる。愛する者を救えなかった・殺してしまったという共通の思いを抱える二人が、戯曲「ワーニャ伯父さん」のワーニャとソーニャに重なっていく。

高槻(岡田将生):事実を受け入れて自分に正直に生きすぎた。過ぎたるは猶及ばざるが如し。
音の語る物語:左目グサッの衝撃。交歓の乏しいセックスは自慰と同じか。
夫婦模様の欧米化:昔の日本映画では見られない家福夫婦の模様。洋風の生活様式にピッタリ。この何だかおしゃれな感じが村上春樹らしいと思うのは「ノルウェイの森」しか読んでないからか。
「ワーニャ伯父さん」:家福や高槻にグサグサくるセリフの戯曲。
棒読み演技の面白さ:家福がセリフ合わせのワークショップで棒読みを指導する。その意図は述べられないが、映画の登場人物であるみさきと演劇祭の女性スタッフのお陰でとても面白かった。棒読みでも自分を語ってくれるみさきは人物が立体的に見えるが、女性スタッフはよくわからないが凄く面白い人に見えた。
お芝居内の複数言語:異なる言語で一つのお芝居が成り立つことがわかって面白かった。そこに手話も含まれていたのが見識だと思った。
役者の演技:西島秀俊の代表作。マイカー内で高槻の話をじっと聴いている受けの演技と、みさきの故郷で「音に会いたい」と感情を爆発させる攻めの演技がそろって、どちらも良い。
(2021/08/25 TOHOシネマズ高知1)

悪魔のいけにえ

複数の人から別々に「『ソウ』(シリーズ)が面白かった」と勧められても見たいと思わないし、『ウィッカーマン』は好きだけど『ミッドサマー』はウワサを耳にして見に行くのをやめた。『クワイエット・プレイス』でさえ見たくないし、『悪魔のいけにえ』などもってのほか。
ところが、怖いのが苦手な映画友だちが数年前に見て「面白かった可笑しくて笑えた」と言うので、それなら見てみようと思っていたところだった。
しかし、思ったとおりの映画だった(ToT)。
いや、しかし、友だちの言うことも本当だった(゚Д゚)。

実際、若者5人のうち4人は、あっさり殺されるので怖がる暇がなかった。占いで「現実とは思えないほど酷い目に遭うが、それは現実」と出ていたサリーは、あっさり殺された方がマシではないかと思えるほど怖い目に遭うが、なんか食卓のシーンあたりからは「明らかに現実じゃないでしょう」と思える余裕さえ生まれ、一撃で殺すのが得意なおじいさんが何度もハンマーを取り落とすのを見ては「おちょくっているのか(笑)」と確かに可笑しかった。一家の皆さんは、意外と邪気がなかったりして、なかなか可愛らしいと思う。

それにしてもホラーの登場人物は、無頓着にやばそうなところへよく行くものだ。そうしないと話が始まらないからだけど、「やばそうセンサー」がいかに大切か、やばいと思ったら引き返す勇気がどれだけ必要かとマジで思う。
そして、ホラーのお約束「むじな」。のっぺらぼうから逃げ出して助けを求めた人に「こんな顔ですかい?」と言われて、のっぺら顔を見せられるという。本作もちゃんと「むじな」を踏襲。
考えてみれば、あのあたりでガス欠になったら、5人のような運命をたどるということか。ガス欠をあまく見ない方がいいと思った。
(2021/08/21 高知県立美術館ホール)

怪談雪女郎

う~ん、約束は守らんといかんねぇ。
与作(石浜朗)が山で遭った雪女(藤村志保)は、彼に一目惚れ。他言無用を約束し、殺されずにすんだ。
約束を守りさえすれば、恋女房と愛息としあわせに暮らせたのに。でも、そうすると別れのときの雪女の慈悲の表情を見ることもなく、受注した観音像の顔のモデルがないということになり、彫りあげることが出来なかったかもしれない。人生、すべてが好カードというのは難しい。

怖い怖い雪女も恋をするといじらしいし、子どもを育てると善き母だ。愛する夫と子どものために能力を隠して大人しく暮らしているのに、魔を察して湯玉を掛ける巫女さまが憎らしい。
大映作品はなぜかエロティックなイメージがあるけど、本作も与作とゆき(実は雪女)の新婚初夜の様子や、ゆきの脱げかけた着物からのぞく白い肩や、いろんな所作がたおやかで官能美が匂う。昔の映画のよさだと思った。
雪女の金色の目や睨みは怖いと言うより綺麗だった。辷るように移動していくが、台車か何かに乗っているのだろうか、それとも能のような足運びをしているのだろうか。

ぜんぜん怖くなくて最後の別れが哀しいくらいの作品だけど、雪は美しいが人の命を奪う恐ろしいものという自然を畏怖する人間が生み出した怪談・悲恋物語として楽しめた。
(2021/08/21 高知県立美術館ホール)

キネマの神様

面白かった。役者が皆イイのだ。
ジュリーは志村けんを思いながら演じたんだと思う。驚くほど志村けんだった。

新型コロナウィルスが登場した現在、78歳のゴウ(沢田研二)が若い頃(菅田将暉)映画監督を目指していたというのは良いとして、若い頃って1960年代だと思うんだけど、私のイメージでは1950年代に見えた。桂園子(北川景子)のような女優さんは、60年代までかな。70年代とそれ以前はぜんぜん違うと思うけど、50年代と60年代はあまり違わないのかも(?)。そう思えば納得。

ほんと、役者がいいので配役を書いておこう。そうすると、いいところを思い出せる。
ゴウの妻、淑子(宮本信子/永野芽郁)、娘(寺島しのぶ)、孫(前田旺志郎)
テラシン(小林稔侍/野田洋次郎)、出水監督(リリー・フランキー)

気になったのはテアトル銀幕の男子小用便器。いまどき、あそこまで汚す必要があったろうか?
(2021/08/06 TOHOシネマズ高知4)