孤独な天使たち

ベルトルッチの新作というだけでなく、デヴィッド・ボウイがイタリア語で「スペース・オディティ」を歌っているというのも楽しみの一つだった。そしたら何とイタリア語の歌詞はオリジナルとは別物で、まるでこの映画のために作られたかのようだった。「孤独な少年よ、どこへ行くのか。泳ぐなら手を貸すけれど。/でも、僕は死にたい。傍に天使がいるから。飛べなくなった天使が。」

孤独は映画でも文学でも、ありとあらゆる作品で描かれてきた。孤独の深海から少し浮上して、そういう作品に触れると皆一人一人だけれど「独りじゃない」ということがわかり生きる勇気が湧く。ロレンツォ(ヤコポ・オルモ・アンティノーリ)も姉のオリヴィア(テア・ファルコ)もそれぞれ独りぼっちだったけれど、ロレンツォはもう隠れないこと、オリヴィアはドラッグに手を出さないことを約束し合う。この約束で、離れていても独りぼっちじゃないことを思い出すだろう。そうして強く生きていってほしいけれど、オリヴィアは挫折するかもしれない。そのオリヴィアを背後にしたからこそ、少年の面影を遺すロレンツォの前向きなストップモーションが言い得ぬ余韻となっている。

誰だったか評論家が、『ドリーマーズ』の後、大病を患い、車いす生活となったベルトルッチの潜伏期間が、潜伏少年を撮ることで終わりを告げたと言っていた。そういえば、この映画の冒頭で登場したロレンツォの精神科医も車いすだった。精神科医はロレンツォに何と言ってたんだっけ。まったく思い出せない。
アルマジロや蟻や昔のものの詰まったトランクなど、色々と象徴性に富んでいそうな作品だと思う。私自身は象徴性の解析は苦手なので作品を味わい尽くすところまでは行かないけれど、それでも美しいものに触れたという満たされた感覚がつづいている。

IO E TE
ME AND YOU
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
(ベルトルッチとイタリア名作選 高知県立美術館 2013/11/23)

ベルトルッチの分身

イタリアの小倉一郎、ピエール・クレマンティが演じるジャコブか彼の分身か(どちらかわからない)が鼻血を出したシーンを観られてよかった。「観念をセリフにされると眠くなる」という法則どおり、眠っていたところハッとして目が覚めたら、スバリ鼻血を出していた。何かの啓示だろうか。スゴイタイミングだ。ステファニア・サンドレッリも出演していて、ちょっと嬉しかった。ただし、映画小僧ベルトルッチが、ドライヤー(影のシーン)やエイゼンシュテイン(乳母車のシーン)や、その他私には引用もとがわからないけれど(ということは引用ではないかもしれないけれど)、とにかくやってみたかった色んなことをやってみたという感じで、お金のかかった高校生の自主映画かと思った。(高校生は言い過ぎかも(^_^;。)

PARTNER.
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
(ベルトルッチとイタリア名作選 高知県立美術館 2013/11/23)

革命前夜

『殺し』に登場した十代の仲良し二人組のうち一人は、警察に追われて川に飛び込み、逃げている途中で溺れ死ぬ。『革命前夜』でも主人公ファブリツィオの親友が溺れ死に、彼はその嘆きと親友への思いを詩にして叔母に聴かせたりする。ベルトルッチの友だちも川で亡くなったのかもしれない。ファブリツィオはコミュニストだったが、その思想に疑問を感じ始め、自身の階級であるブルジョアの女性と婚約する。というわけで、ベルトルッチの自伝ぽいと思って観終わったらチラシに「パルムの僧院」を下敷きにした半自伝的作品とあった。叔母との恋愛は「パルムの僧院」からなのか。「観念をセリフにされると眠くなる」という法則に従ってうつらうつらしていたところ、ファブリツィオと叔母さんとの恋愛沙汰に完全に目が覚めた。なんか妖しい雰囲気だと思っていたら・・・・。二人が別々に眠っているのをカットバックしたシーンがエロティックだった。さすがベルトルッチである。

PRIMA DELLA RIVOLUZIONE
BEFORE THE REVOLUTION
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
(ベルトルッチとイタリア名作選 高知県立美術館 2013/11/23)

殺し

長年観たかったベルトルッチのデビュー作。テーベ川のほとりで発見された女性の死体。殺したのは誰か。事件当夜に現場付近にいた人々を警察が訊問し、それぞれの証言によって一連の事実が浮かび上がっていく。一見『羅生門』形式ではあるけれど、各人の証言が矛盾することも思惑が交差することもないので、いずれが真実かというような奥の深い面白さはない。また、誰がなぜ殺したのかもあまり問題とされていないので深みには欠けるような気がする。この映画の面白さは、容疑者たち(置き引き専門のチンピラ、金貸し女のヒモ、十代の仲良し二人組、兵士、サンダル男)が、いかにもイタリアンというか、庶民やねぇというか、その心のちょっとした動きのスケッチが上手いところだ。それに作品の構造が時間芸術といわれる映画にふさわしく上手くできている。容疑者たちのそれぞれの証言で唯一共通のにわか雨が降るところにくると、ある女性が身支度を始めて・・・・、出かけて・・・、というふうに必ずその女性が現れて話が進んで行き、実は彼女が殺されると最後にわかる。『運命じゃない人』みたいに凝った作品に比べると単純かもしれないが、その分しっかりとした構築力を感じさせられた。そして、何よりも、強風に紙くずが舞う印象的なファーストシーンから、夜の広場の詩的な静けさ、川沿いの横移動、サンダルの音が響くダンスシーンにいたるまで、映画的な魅力に溢れていたことがベルトルッチ・ファンとしては嬉しいところだった。

LA COMMARE SECCA
THE GRIME REAPER
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
(ベルトルッチとイタリア名作選 高知県立美術館 2013/11/23)