潔く柔く

映像がイイ!コントラストを抑え気味のフラットな色調で、映像がまさに潔く柔い。23歳の瀬戸カンナ(長澤まさみ)が、15歳をすごした団地の階段に腰を下ろし物思う場面では、秋めいた光景が背後にうっすらと見え、彼女のシルエットが金色に縁取られて季節感が出ていた。夜のガソリンスタンドの遠景とか、雨あがりの谷川から見上げる雲の切れ間とか、その他いろいろ気を遣って丁寧に作られた作品だと思う。
亡くなった人への(謝罪しようのない)罪悪感を抱えて生きる辛さと、それを乗り越えたときの清々しさと、恋愛ものの滑稽味とがうまくブレンドされて、とても好きな作品だ。お目当ての高良健吾は、出番は限られているけど、やっぱり良かったし(^_^)、演技派として一目置いている岡田将生も良かった。岡田将生は美少年系の薄い皮膚と赤い唇で損しているよね~。

赤沢禄(岡田将生)/春田(高良健吾)/柿之内の姉ちゃん(池脇千鶴)

監督:新城毅彦
(2013/10/26 TOHOシネマズ高知9)

人類資金

金はこう使え!マネーを生きたお金にする話。しかも、それが先の戦争で亡くなった人たちの思いとつながっている。

音楽、カッコイイ。
荒くて詰めの甘い筋書きに説明的なセリフという脚本上の欠点を補ってあまりあるスケール感と志の高さと押し切りパワーに拍手。
真舟が謎の人物に招待されて昭和の匂いのするビルを訪れると、何ものかに襲われる。導かれるままにビルの地下に逃げ、地下道をたどると地下鉄につながっていて・・・・という冒頭の大冒険にワクワクした。ビルの床、地下道、地下鉄とうまくつなげたな~。
ロシア、なんとか共和国(架空?)、国連と世界を股にかけたロケーション。あの錆の出た大きな船、いいねぇ。

真舟(佐藤浩市)・・・M資金にこだわる動機が甘い。オーバーアクト。
M(香取慎吾)・・・こんだけイイ人になった理由が甘い。滑舌がーーー(^_^;。
セキ・ユーキッド(森山未來)・・・国連の本会議場で、すごーい。
高遠(観月ありさ)・・・あの回し蹴りは、ありさちゃん本人?カッコイイ。西島秀俊(『丘を越えて』)と森山未來(『フィッシュ・ストーリー』)と三人で『マワシゲリ兄弟』という映画はいかがでしょう。ありさちゃんは訳あって男装しているのです。
笹倉(仲代達矢)・・・Mの祖父かと思っていたら父ちゃんだった(^_^;。
遠藤(ユ・ジテ)・・・どこかで見た人。
マーカス(ヴィンセント・ギャロ)・・・マーカスがギャロとわかった瞬間(笑)。
金・・・労働の対価。所得税から公共の福祉に?
マネー・・・投機で得る差益。内部留保で死に金に?

監督:坂本順治
(2013/10/23 TOHOシネマズ高知5)

愛について、ある土曜日の面会室

俳優がよいのか演出力があるのか、あっという間の2時間だった。それとフランス映画は色彩がきれいと改めて思った。
刑務所の面会室には、様々な人生が凝縮されているということなんだろうとけど、喜怒哀楽のうち、「怒」と「哀」しか描けてないような。・・・・え、もしかして、二組目は「楽」?なんか、ステファンってなさけない人で・・・(笑)。彼も女性運がよければ、うまく操縦してもらってイイ父ちゃんになれたんじゃないかと思うんだけど、女性運がよろしくないうえにアホじゃん(^_^;。身代わりで刑務所に入るって、やっぱり笑うところだったのかなぁ?1年で出所できる保証はないと思うけどなぁ。ピエールってそんなに信用できるの?ばれたら別の罪に問われるでしょうに。

ロールは若気の至りってヤツでしょう。先が思い遣られるなぁ。だけど、思いのままに生きられるってイイね。アントワンは暇人なのか、とてもいい人なのか、下心があるのか。とてもイイ暇人で下心ほどのものはないけれど、可愛い子ちゃんには弱いかも(笑)。

ゾラのパートは重かった。ただし、息子を殺した相手の姉であるセリーヌに対して、「あなたは悪くない」というところはホッとした。

一組目:ロール(ポーリン・エチエンヌ)/アレクサンドル(ヴァンサン・ロティエ)/アントワン(ジュリアン・リュカ)
二組目:ステファン(レダ・カテブ)/エルザ(ディナーラ・ドルカーロワ)/ピエール(マルク・バルベ)
三組目:ゾラ(ファリダ・ラウアジ)/セリーヌ(デルフィーヌ・シュイヨー)

QU’UN SEUL TIENNE ET LES AUTRES SUIVRONT
監督:レア・フェネール
(シネマ・サンライズ 2013/10/17 高知県立美術館ホール)

愛、アムール

エンドロールは無音だったけれど、私の頭の中では佐良直美が「愛、あなたと二人~」「二人のため~、世界はあるの~」と歌っていた。鳩も入れない二人きりの世界。娘でさえ本当の意味で入れたのは、二人が亡くなった後のことだ。

物語の世界における究極の愛の形は、常に心中として描かれてきたように思う。この映画も正しく「物語」であり、究極の愛の形を描いた心中ものだ。週3回の訪問介護や2週間に1回の往診、娘の訪問なども強力に描かれ現実味はあるけれど、社会性を極力排しており、タイトルどおり愛の物語に徹している。
もちろん、別の考え方もありだ。夫が寝たきりの妻に水分を取らせようとして思いどおりにならず、思わず妻の顔を叩いてしまい忸怩たる思いに沈む場面がある。(その前に妻の意思を尊重しないという理由で介護ヘルパーをクビにした場面を配しているのは残酷なほどにうまい。)その暴力性の延長に無理心中があるという考え方もできる。愛する対象が変わり果ててしまっても耐えられるかどうか。要するに介護疲れ。しかし、私はそういうのは現実の世界で充分なので、この映画は悲しくも美しい愛の物語でよいと思っている。物語でもなければ、殺した妻の服を着せ替え、花で飾るなんて余裕はいくらフランス人でもないのではないか???う~ん、どうでしょー。

始まって間もなくして物語の先が読めるし、弟子のピアニストが訪れるシーン(きっと重要なシーン)では眠っていたし、あまり面白いとも感じなかったけれど、ジャン=ルイ・トランティニャンの演技には脱帽だ。これほど自然で、表情筋をほとんど使わずして様々な思いを表現できるとは。エマニュエル・リヴァも凄かった。カーテンコールがあったら指笛だ。

[追記]
そうそう、大事なことを書き漏らしていた。ハネケ監督の作品を観るのは、これで3本目だと思うけれど、まさか「愛することは美しい」とこんなにストレートにわかりやすく描く人だとは思ってなかったのでいささか驚いた。遺体が放つ悪臭から始まり、介護の不安が見せる悪夢など辛いことも描かれているから、きれい事に収まらず本当に美しいと感じられるのかもしれない。「愛することは美しいのだー」と観た後、しばらく叫んでいたことであった。

妻アンヌ(エマニュエル・リヴァ)/夫ジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)/娘エヴァ(イザベル・ユペール)

AMOUR
監督:ミヒャエル・ハネケ
(こうちコミュニティシネマ 2013/10/15 高知県立美術館ホール)