前半は皇一(岡田将生)がおかしくて可愛らしくてなかなかのコメディになっていた。後半は長宗我部麗華を演じた清原果耶がミスキャストだったように思う。伊藤沙莉とかだと1秒遅れの彼女でも軽妙だったのではないだろうか。また、麗華とバスの運転士(荒川良々)と一の父(加藤雅也)以外は時が止まっているなら、皆が一日失っているのだから一だけが「僕の日曜日はいずこに!?」と言っているのは不合理な設定だと思う。それでも、後半の時が止まった情景がシュールでどれだけ見ても飽きなかったし、一の母役の羽野晶紀もグッジョブだし、妹とその彼氏のカップルはサイコーだし、笑福亭笑瓶のDJと写真館店主の二役もよかったし、『リンダリンダリンダ』『天然コケッコー』の山下敦弘監督とは相性がいいみたい。
なお、一の父が口の端からソーメンが出ているのに気づかないのはわざとらしいと感じる人がいるかもしれないが、年をとると感覚が鈍くなるのでなかなかにリアルなシーンだと私は思った。
(2023/07/07 TOHOシネマズ高知8)
インディ・ジョーンズと運命のダイヤル
あらゆる陸海空の乗り物が出てきて見ている間は十分楽しめる。ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じた「007」のどの作品だったか油圧ショベルまで出てきて大受けだったが、今作はやはり馬でしょう(*^。^*)。なんかどっかで見たことがある場面がいくつかあったが、過去のシリーズ作品へのオマージュだそうだ。後に残らぬ面白さが信条ともいえるシリーズだが、これで最後だとのことで、後に残ったのはインディの困り顔というか、ハリソン・フォードの弱り切った顔だ。表情に強さがなくなっており、なんとも言えない感慨がわいてくる。インディアナ・ジョーンズにハン・ソロと二つも当たり役があり、『逃亡者』のドクター・キンブルなども印象が強い。齢80、ハリソン・フォードは何て幸運な俳優だろうと思う。
(2023/07/04 TOHOシネマズ高知8)
中島敬朝展、テオ・ヤンセン展、石元泰博コレクション展
中島敬朝展
中島敬朝、没後40年の展覧会。ネットで昆虫スケッチなどを見て、ぜひ、鑑賞してみたいと思って行った。現四万十市下田出身で京都で日本画を学び、故郷に疎開し、大病を患い京都に戻るのを諦めたが、高知県内で県展の審査なども務め指導的立場で活躍した人らしい。脚本家中島丈博氏の父とのことで、高知県狭い~(笑)。
「京都時代(1920年~1940年頃)自然との融和、花鳥画家としての成熟」「高知時代(1945年頃~1983年)自然との対決、風景画家への変容」という展示で、一目惚れの昆虫スケッチは初期のもので、画帖「木守」もいいし(ほしい♥)他にも好きなのがあったけれど、明らかに後期の絵が好き好き♥だ。石鎚山を描いたものが何枚もあったが、中でも「残照」の色のきれいなこと。また、宣伝のハガキにもなっていた「岬の椿」は、一目見るなり左隅の薄青緑は海だとわかり、他の木々とともに潮風に晒されてたくましく生きているなーと思った。印刷では海だとはわからなかったのだ。令和4年度に県美の収蔵作品となったものも多く、いい買い物(寄付?)したな~と嬉しくなった。新規なところはないかもしれないが、好きな作品が収蔵されるのは嬉しい。
テオ・ヤンセン展
展示だけで動かないのを見てもなぁとあまり食指が動かなかったが、けっこう頭を働かせながら見た。つまり、足の形からするとカニさんみたいに横歩きしか出来ないのでは?(後の作品は進化して尺取り虫みたいに動けるようになったようだ)とか、プラスチック製だけど竹にしたら?オランダには竹は生えてないか・・・・と思っていたら、参考資料によるとプラスチックのパイプを加工して組み立てているようなので、ああ、竹の生えてないところで竹職人になるのは無理があるか・・・・と思っていたら、過去には木材や金属で作っていたと解説を読み、それなら竹で!と押しつけるのはよくないか・・・・・と思っていたら、ネット上で映像などを公開し、世界中でこの生き物を作るよう(それが繁殖とのこと)願っているとのことで、それなら日本で作る人があれば竹と和紙で!と妙にこだわった。自然素材がよいのではという思いも若干あり。なぜ、こんな大きなものにしたのかという謎も解けた。材料をプラスチックパイプにしていることで小さくも出来ないし、大きさにも限界があるとのこと。
この生き物はストランド(砂)・ビースト(生物)と言うそうで、ホームズ物語が掲載された雑誌と、美女と野獣の野獣ということで覚えやすい。始めにこの生き物を作り始めた動機が書かれていたけれど残念忘れてしまった。
第一会場で定時のショー(生き物を実際に動かす)を見て後、石元泰博コレクション展を見ていると第二会場で臨時に動かしますと案内に呼びに来てくださって両方見ることが出来た。中学生(?)の団体が床に並んで座っていて、生き物が動くと「おおー」「うわー」と反応が面白かった。第一会場の生き物は一方向にしか動けなくて手動で元に戻していたけれど、第二会場の生き物は風に飛ばされないよう杭を打ったり、両側に動けるよう進化していた。しかし、会場が狭いためか尺取り虫の動きの生き物は動くところは見れなかった。
無風のときも動けるように、ペットボトルに空気入れの容量で自動的に圧縮空気を入れて動かすというのがどうしても飲み込めず、係の人に尋ねたら実際にはペットボトルの数はもっとたくさん付いており、栓を抜くのは手動だということでやっと理解できた。言われてみると、それくらいのことは自分の頭で考えついてよさそうなものだが、それほど私の頭は働かないのだった。
石元泰博コレクション展「HANA/牧野富太郎記念館の建築」前期
植物をこれほど硬質に撮る人もめったにいないだろうなぁ。背景がわからないので、無機質な部屋に植物を持って来て撮った感じがする。「落ち葉」のバックはアスファルトだったか、それでもやはり硬質な感じ。植物だから硬質さが際立つのかもしれない。こういう特徴があるからこそ、石元作品とわかる。オンリーワンの大切さよ。
植物園の建物(本館、記念館)は、内藤廣さんの設計だそうで本当に素晴らしいものを作ってくださって感謝。写真では普段見れない角度から見ることが出来て、その美しさ優しさを改めて感じた。
角田和夫 土佐深夜日記-うつせみ
昨年度アーティストフォーカス第3回の展覧会で思わず涙が湧いた記憶も新たに、展覧会のカタログを購入。展示されてなかった作品も載っているような気がする。あまり好きではないのだが、ページを繰って再び見ているとやはりなんだか切ない気持ちになってくる。心を動かすパワーがあるのだなぁ。
(2023/06/16 高知県立美術館)
怪物
カンヌ国際映画祭でクィア・パルム賞を受賞したことで核心のネタは割れていたけれど、同映画祭のコンペ部門で脚本賞も受賞した作品でもあって、物語にぐいぐいと引き込まれた。
学校でのいじめと先生による体罰、あるいは一部の未熟な先生の問題や学校組織としての対応のまずさなどを織り込んだ「今」の映画だ。また、母親:麦野早織(安藤さくら)、担任教師:保利(永山瑛太)、子ども:湊(黒川想矢)の各視点で順番に描いていくことによって真相が明らかになるという手法は昔からあるもので、一方向からの限られた情報では判断を誤るとわかっていても(それを忘れて)「思い込み」で動くのが人だと改めて思わされた。
我が子を心配して来校した麦野早織に対する対応で、もう~、教師失格じゃないのと思われた校長先生(田中裕子)だったが、彼女が湊に教えたことは、つらい時を乗り越えるのにものすごく大事なことで、人生の先輩としてありがたい人物だった。それなら教師も上等だと思い直した。そして、この二人の遠吠えが、崖っぷちの保利元担任に届いて身投げを踏みとどまるのは、やはりこれがいかに大事かということだと思う。(オーケストラで一番好きな楽器はホルン♥なのだが、あのやさしく温もりのある音色が遠吠えになることにも驚きだった。演奏は滅茶苦茶むずかしいそうだ。)
あと、好きな場面は、一足のスニーカーを片足ずつ履いて二人がケンケンして行くところ。麦野母が片方だけのスニーカーを見つけていじめを想起したものを、鮮やかに「なかよし」に変換してくれた。素晴らしい。星川くん(柊木陽太)、ほんまいい子だった(^_^)。
(2023/06/05 TOHOシネマズ高知6)