いやはや凄まじいばかりのサスペンス。緊張が持続するゆえ気分が悪くなるほどだ。これは『アンストッパブル』(トニー・スコット監督)、『ラブリー・ボーン』(ピーター・ジャクソン監督)級だと唸った。
大型貨物船と海賊ボートの海原チェイスのスケール感。救命艇に移ってからは息苦しいほどの閉塞感。ネイビーシールズの夜間の活躍に、事件の片がつく夜明けの海もいい対比だった。映画的魅力も充分なのだ。
秀逸なのは、ソマリアの海賊側の描き方だ。貨物会社の雇われ船長リッチ・フィリップス(トム・ハンクス)は、仕事に出かけるとき見送りの妻(キャサリン・キーナー)と「我々の時代と違う」と話し合い、子どもの就職の心配をしていた。どこの国にも社会的な問題はあるけれど、ソマリアの問題はより深刻で、仕事(海賊)に出かける前のムセ(バーカッド・アブディ)の無気力な様子や、獲物を追跡中の仲間との遣り取りの殺伐感は『闇の列車、光の旅』(キャリー・フクナガ監督)の比ではない。精神の荒廃ぶりに寒気がしそうだったが、後半、フィリップス船長との遣り取りを観ていると、ムセの置かれた状況が何だか悲しくなってきた。貨物船の雇われ乗組員は海賊と戦うほど給料をもらってないと不平を言っていたが、ムセたちにもボスがいて奪ったものは吸い上げられるので、実行部隊の彼らは貧しいままである。それにムセの夢といったら(涙)。アメリカは今現在も貧しい人々の憧れの国なのだ。ここまで描けるとは一級の娯楽作品だと思う。
船長が人質にされた実話が基になっているので、日本人が外国で人質になった事件を思い出した。ペルーはまだしもイラクのときは日本政府は国民の命を守ろうとしなかったことが、アルジェリアのときは外交パイプが弱く情報を取れなかったと言われていたことが苦い。
それと比較すると流石アメリカなのだが、ネイビーシールズのあまりの活躍ぶりに色々考えさせられもした。シールズ隊長(マックス・マーティーニ)、カッコイー!!!『パシフィック・リム』の父ちゃん!というのは置いといて;;;。ソマリア語ができる交渉人の登場には感心したけど、結局アメリカ政府はすぐ人を殺す(犯人側が大抵銃を持っているせいかもしれないけど、たとえ自国民であっても躊躇なし)。人質奪還のためとはいえ外国の軍隊の入国を許す国があるとは思えないけど、アメリカなら許可がなくても踏み込んでいきそうだ(^_^;。
それにしてもフィリップス船長は人質になってもよくしゃべる。年端のいかない海賊たちへの人道主義的親切心には感心した。トム・ハンクスにぴったりの役柄だった(拍手)。
CAPTAIN PHILLIPS
監督:ポール・グリーングラス
(2013/12/13 TOHOシネマズ高知5)