エンパイア・オブ・ライト

『エンパイア・オブ・ライト』の感想を毛筆で書いた画像
美しい。
スケール感がある。
「天人唐草」の救いになるか。

ヒラリー(オリヴィア・コールマン)が、1回目に強制入院させられときはどんなだったのかわからないが、2回目の強制入院はあまりにも理不尽だと思った。『炎のランナー』のプレミアで突然舞台に上がって、従業員仲間をハラハラさせ観客をシラケと困惑に陥れただけでお迎えとは。ヒラリーは女性であるが故にどんどん自由を狭められ痛めつけられたという点で、山岸凉子さんの漫画「天人唐草」を彷彿させる人だ。極小の箱に押し込められたヒラリーのヒラリーらしさが弾けるときを、夜空に広がる花火や鳩が飛ぶ大きな窓ガラスからのながめなどで美しく描いたり、多数派とは少しずれている個性をドレスのファスナーが上げ切れてない悲しさで描いたり。プレミアは一番キメキメで行きたいところだったのに。
果たして、エンパイア・オブ・ライト(光の帝国=映画館)はヒラリーを救えるか。映画ファンとしては、サム・メンデス監督とともに「救える」と言いたいところ。従業員仲間は皆、いい人だし。従業員だと意外と観る暇はないかもしれないけれど(?)。

スティーブン(マイケル・ウォード)は、黒人であるが故に不自由な思いもあるが前途洋々。この頃、黒人だけでなく移民が排斥されていたことを『マイ・ビューティフル・ランドレット』などとともに思い出した。
残念ながらピーター・セラーズの『チャンス』は未見。
ベストワン候補。
(2023/02/28 TOHOシネマズ高知9)

ワース 命の値段

『ワース』の感想を毛筆で書いた画像

マイケル・キートン、やっぱり良い俳優だなぁ。プロデューサーもしてたので、この話に感動したんだろうなぁ。
立場は異なっても信頼できることに値打ちがある。そういうアメリカ映画らしい良作。

久々のマイケル・キートン(^_^)。勇んで行った。
アメリカ映画らしい良さがあふれており、安心して見ていられた。見ていて何に価値があるかというと「信用」とか「信頼」とか、そういうものが大切なんじゃないかという気がしてくる。だから、「命の値段」と副題で限定しない方がよかったかもしれないと思ったり、また、信頼を得るには合理性ばかりを言っても始まらず、人に寄り添う共感性が大切だと改めて思えてくる。結局、人は理性よりも感情の生き物なのだと思うと、それもまた問題ありなのだが。

アメリカ政府は航空会社を守るために補償金を出すことにしたのだが、まだ終わっていない東日本大震災の原発事故処理を思い出す。
また、この映画を観た頃、聴覚障害の女児死亡事故 逸失利益は85%3700万円余判決という就職・賃金差別を認める判決があったことも思い出す。
「命の値段」という文学的表現は、補償費とか逸失利益などという正確な言葉ではないが、本質を突いている部分があると思う。あれれ、やっぱりこの副題でよかったのかな。
(2023/02/24 TOHOシネマズ高知8)

イニシェリン島の精霊

アイルランドの美しい景色を背景に、絶交したとは言えそこには深い事情があり(アイルランドの内戦に関係したスパイか?)、結局男同士の友情もの(好物)だろうと期待して行った。
するってーと、風景は美しくセーターやカーディガンや、やっぱりいいなぁというのは期待どおりだったが、アイルランドの内戦はほとんど関係のなしのリアリティからは遠い、「人間というのはよぉ!」という寓話であり、しかもブラックな笑いどころがいくつかあり、けっこう面白くはあるが後味はよろしくないという作品だった。

いちばん可笑しかったのは、コルム(ブレンダン・グリーンソン)がまた指を切らないように飼い犬がハサミを咥えて出ていくところだ。
そして二番目は、「ロバが指食って死ぬわきゃねーだろ(^Q^)」と笑うところだろうが、私は完全にはギアチェンジ出来てなかったのでそうは思えず、「もしかしてコルムが指に毒を塗ったのか?」と見当違いの思いがうっすら浮かび、パードリック(コリン・ファレル)が自分のベッドカバーにくるんで埋めるとき、「ああ、やっぱり手仕事のあるベッドカバーいいなあ。パッチワーク?キルティング?もうちょい、アップで(願)」などと思うのであった。

それにしても、妹シボーン(ケリー・コンドン)が島を出て行った後、パードリックが家畜を家に入れて糞の始末は誰がするのだろう?キリスト教圏では人は人、動物は動物で分け隔てをするそうだが、パードリックはまるで聖フランチェスコのようではあるまいか。ドミニク(バリー・キオガン)もそのやさしさゆえ、彼に親しみを感じていたのだ。そのセイントのような人が、友人から突然絶交を言い渡されるという理不尽なあつかいにより堕ちていくのは悲しいことではある。そして、いったん痛む(腐る)と回復が難しい。
また、コルムの方もパードリックを下に見ていたから理不尽な絶交を言い渡したわけだが、家に火をつけられるまでの反撃に遭ってようやく対等な目線になるとは醜悪なことである。
さらにシボーンは、退屈で悪意のある人ばかりの島が嫌で本島へ出ていったが、そこまで嫌うかい?いいとこ、いっぱいあるじゃん。景色はいいし、2時から酒が飲めるし、本を読む時間はいっぱいあるし、おもろい神父さんもいるじゃん(^Q^)。

面白かったけれど、還暦過ぎると人間の醜さばかりの映画など「なんだかな~」なのだ。
ロバもドミニクも殺してはならなかったのだ。
(2023/01/31 TOHOシネマズ高知2)