ムーンライズ・キングダム

『小さな恋のメロディ』(1971)も『リトル・ロマンス』(1979)もいまだに観ていない。しかーし、『ムーンライズ・キングダム』を観た!しかも、この年で。
だから、スージー・ビショップ(カーラ・ヘイワード)とサム・シャカスキー(ジャレッド・ギルマン)の孤独な者同士の、文通で育んで駆け落ちにいたる恋の物語を微笑ましく観て、スージーのパパ(ビル・マーレイ)とママ(フランシス・マクドーマンド)の冷めた関係や、ママの浮気相手のシャープ警部(ブルース・ウィリス)の侘びしさなんかの大人の事情が心にしみる。

いじらしいほどに可愛く手の込んだ美術や、もうこの映画にピッタリ~な音楽が素敵。登場人物もウォード隊長(エドワード・ノートン)、福祉さん(ティルダ・スウィントン)、隊長の隊長(ハーベイ・カイテル)と豪華だけど、演技の質がこれまたこの映画に嵌っていて、人物が個性的なのに統一感があるのは演出力だろうか。
赤服の解説の人(ボブ・バラバン)も印象に残るし、とぼけて少し毒もあり可笑しいという摩訶不思議テイストも好き、好き~(^_^)。

MOONRISE KINGDOM
監督:ウェス・アンダーソン
(2013/02/11 TOHOシネマズ高知3)

マリリン 7日間の恋

胸が痛くなるほど切なく美しく、これぞ恋愛映画という感じだった。

明るくウイットに富み、その魅力で人気者街道まっしぐらのマリリン・モンロー(ミシェル・ウィリアムズ)が、実は夫アーサー・ミラー(ダグレイ・スコット)との関係でも演技でも自信が持てず、病的なまでに不安定で、付き人ポーラ・ストラスバーグ(ゾーイ・ワナメイカー)と精神安定剤のおかげで何とかしのいでいるものの『王子と踊子』の撮影に少なからず支障をきたしている。監督・主演のローレンス・オリビエ(ケネス・ブラナー)なんか、予定どおりに撮影できないのでマリリンへの嫉妬も混じってカンカンだ。オリビエの妻ヴィヴィアン・リー(ジュリア・オーモンド)は、夫がマリリンを口説くのではないかと最後まで心配そうだったが、無用の心配だった。

そういう撮影所の様子を静かに観察していた雑用係の若者コリン・クラーク(エディ・レッドメイン)が、マリリンのご指名で数日間をともにする。マリリンにとって異国での撮影は怖い人だらけなんだけど、コリンだけは怖くなかった。名優シビル・ソーンダイク(ジュディ・デンチ)なんか、マリリンのおびえを理解して常にやさしく接してくれたが、マリリンにとっては恐れ多い人なんだろう。その点、コリンは若くて人生経験も浅そうだし、何より彼女の純粋な信奉者なので、彼女が少し優位に立つことができるのだ。

コリンの方でも女神様にお仕えする~といった感じだったのが、マリリンの純真で無邪気なところに触れて、ついにフォーリン・ラブ。彼女を守りたい、自分だけのものにしたいという気持ちが芽生えるのだ。「本当に楽しかった13歳のときのデートのように、最高のデートにするわ」と言って夕日の中でキスをする。このセリフの中には悲しみもある。私はこのとき、コリンは恋に落ちたと思った。でも、マリリンにその気はなくて、帰りの車で彼女の手を握ろうとしたコリンをそっとさける。彼女の誠実な意思表示だ。この後も二人の関係は少し続くけれど、本質的にはこの日のようなことだと思う。

コリンは本当に賢い若者だ。観察力があるし、理解力がある。過去にマリリンと関係があったミルトン・グリーン(ドミニク・クーパー)は騙されたと言っていたので、もしかしたらコリンほどにマリリンを理解してなかったのかもしれない。
コリンは、マリリンから必要とされていることや好かれていることを、うぬぼれや勘違いなしに感じていたと思う。マリリンが彼に心を開いて、常に正直に接していたこともわかっていたと思う。
心身ともにボロボロのマリリンを救いたい気持ちで本気でプロポーズしたと思うけれど、どこかで「みんなのマリリン」高嶺の花という意識は残っていたんじゃないかとも思う。そうでなければ、失恋の痛手はもっと深いはずで、ルーシー(エマ・ワトソン)をデートに誘う余裕はなかっただろう。
ともあれ、美しい思い出として長い間心にしまっておけたのは、コリンが賢かったからだという気がしてならない。

MY WEEK WITH MARILYN
監督:サイモン・カーティス
(高知市民映画会 2013/02/07 かるぽーと)

草原の椅子

四十にして惑わず、五十にして天命を知る。
なかなかそうはいかないので、こういう映画ができるんだろうなぁ。
一番大事なラスト、フンザに到着して砂山を駆け上がっていくシーンで事切れてしまったので、何も言えない・・・・。
あー、面白かったのに、なぜ、寝てしまったのか。寝てしまって言うのはおかしいかも知れないが、成島監督作品にハズレはないような気がする。

遠間(佐藤浩市)/富樫(西村雅彦)/篠原(吉瀬美智子)

監督:成島出
(2013/03/01 TOHOシネマズ高知4)

ソハの地下水道

暗いし、カメラがぐらぐら動いて見にくいし、息が詰まりそうだった。息が詰まりそうだったのは、アグニェシュカ・ホランド監督の演出力なんだろう。

観ながら赤瀬川源平の「ルーブル美術館の楽しみ方」だったか、西洋絵画は肉食の人たちが描いただけあってうんぬんかんぬんと言っていたのを思い出していた。ゲットーから地下水道へ逃げるとき、整然と移動し、整然と隠れた方が身のためのように思えるのに、各人の自己主張が激しいのに観ていて疲れた。また、ゲットーでも地下水道でもお盛んだったので生命力があるなーと思い、日本人も同じ状況でこれだけ生命力があるだろうかと考えて、今村昌平監督だったらあるかもしれないと思った。(今平監督、肉好きだったに違いない(・_・)。)

お話は、お金目当てから人助けへと、ソハ(ロベルト・ヴィエツキーヴィッチ)の行動の動機が変わっていったり、それが危険をともなうものであったりと、定石どおりの流れでそんなに目新しい作品とは思わなかったけれど、14ヶ月地下水道に隠れ生きのびたユダヤ人がいたことは知らなかったし、エピソードもふんだんで疲れることはあっても飽きることはなかった。

それより私のお気に入りは、ソハの妻ヴァンダ(キンガ・プレイス)だ。「ユダヤ人も私たちとそう変わらない。だって、イエス様もユダヤ人だし。」とユダヤ人差別とは無縁の彼女だったが、ソハが彼らを助けているとなると別。ユダヤ人に恨みはないが、助けていることがバレルとこちらの身も危ういのでカンカンになる。ころりと変わるところが健全だ(笑)。
ソハが娘の聖体拝受式を途中で抜け出したことに堪忍袋の緒が切れて、一旦は家を出て行くが、「バカね、戻ってきちゃった。」と笑う。明るくて善良で、見るたびホッとさせてくれて、(他の登場人物が悪人というわけではないが、あまりにも状況が暗いので)地獄に仏のようなキャラクターだった。

IN DARKNESS
監督:アグニェシュカ・ホランド
(シネマ・サンライズ 2013/03/15 高知県立美術館ホール)