ワース 命の値段

『ワース』の感想を毛筆で書いた画像

マイケル・キートン、やっぱり良い俳優だなぁ。プロデューサーもしてたので、この話に感動したんだろうなぁ。
立場は異なっても信頼できることに値打ちがある。そういうアメリカ映画らしい良作。

久々のマイケル・キートン(^_^)。勇んで行った。
アメリカ映画らしい良さがあふれており、安心して見ていられた。見ていて何に価値があるかというと「信用」とか「信頼」とか、そういうものが大切なんじゃないかという気がしてくる。だから、「命の値段」と副題で限定しない方がよかったかもしれないと思ったり、また、信頼を得るには合理性ばかりを言っても始まらず、人に寄り添う共感性が大切だと改めて思えてくる。結局、人は理性よりも感情の生き物なのだと思うと、それもまた問題ありなのだが。

アメリカ政府は航空会社を守るために補償金を出すことにしたのだが、まだ終わっていない東日本大震災の原発事故処理を思い出す。
また、この映画を観た頃、聴覚障害の女児死亡事故 逸失利益は85%3700万円余判決という就職・賃金差別を認める判決があったことも思い出す。
「命の値段」という文学的表現は、補償費とか逸失利益などという正確な言葉ではないが、本質を突いている部分があると思う。あれれ、やっぱりこの副題でよかったのかな。
(2023/02/24 TOHOシネマズ高知8)

イニシェリン島の精霊

アイルランドの美しい景色を背景に、絶交したとは言えそこには深い事情があり(アイルランドの内戦に関係したスパイか?)、結局男同士の友情もの(好物)だろうと期待して行った。
するってーと、風景は美しくセーターやカーディガンや、やっぱりいいなぁというのは期待どおりだったが、アイルランドの内戦はほとんど関係のなしのリアリティからは遠い、「人間というのはよぉ!」という寓話であり、しかもブラックな笑いどころがいくつかあり、けっこう面白くはあるが後味はよろしくないという作品だった。

いちばん可笑しかったのは、コルム(ブレンダン・グリーンソン)がまた指を切らないように飼い犬がハサミを咥えて出ていくところだ。
そして二番目は、「ロバが指食って死ぬわきゃねーだろ(^Q^)」と笑うところだろうが、私は完全にはギアチェンジ出来てなかったのでそうは思えず、「もしかしてコルムが指に毒を塗ったのか?」と見当違いの思いがうっすら浮かび、パードリック(コリン・ファレル)が自分のベッドカバーにくるんで埋めるとき、「ああ、やっぱり手仕事のあるベッドカバーいいなあ。パッチワーク?キルティング?もうちょい、アップで(願)」などと思うのであった。

それにしても、妹シボーン(ケリー・コンドン)が島を出て行った後、パードリックが家畜を家に入れて糞の始末は誰がするのだろう?キリスト教圏では人は人、動物は動物で分け隔てをするそうだが、パードリックはまるで聖フランチェスコのようではあるまいか。ドミニク(バリー・キオガン)もそのやさしさゆえ、彼に親しみを感じていたのだ。そのセイントのような人が、友人から突然絶交を言い渡されるという理不尽なあつかいにより堕ちていくのは悲しいことではある。そして、いったん痛む(腐る)と回復が難しい。
また、コルムの方もパードリックを下に見ていたから理不尽な絶交を言い渡したわけだが、家に火をつけられるまでの反撃に遭ってようやく対等な目線になるとは醜悪なことである。
さらにシボーンは、退屈で悪意のある人ばかりの島が嫌で本島へ出ていったが、そこまで嫌うかい?いいとこ、いっぱいあるじゃん。景色はいいし、2時から酒が飲めるし、本を読む時間はいっぱいあるし、おもろい神父さんもいるじゃん(^Q^)。

面白かったけれど、還暦過ぎると人間の醜さばかりの映画など「なんだかな~」なのだ。
ロバもドミニクも殺してはならなかったのだ。
(2023/01/31 TOHOシネマズ高知2)

2022年覚書(マイ・ベストテン)

日本映画12本、外国映画19本の鑑賞で、かるかん率90%でした。『ベイビー・ブローカー』は爆睡状態だったので書かない方がよいと思って書いていません。『ある男』と『川っぺりムコリッタ』は書くつもりだったのですが(残念)。
『ある男』の妻夫木聡はいい俳優になったなあと感心しきりでした。
『川っぺりムコリッタ』は吉岡秀隆が演じた子連れのお墓のセールスマンがサイコー(^o^)。映画としては説明的な長セリフに興を削がれつつも、支え合いながらよく食べよく生きよく死ぬ人生が描かれており楽しかったです。
そして、好きを基準に選ぶベストテンは観た順に次のとおりです。

『コーダ あいのうた』
『ウエストサイド・ストーリー』
『ナイル殺人事件』
『ベルファスト』
『大河への道』
『エルヴィス』
『長崎の郵便配達』
『ゴヤの名画とやさしい泥棒』
『マイ・ブロークン・マリコ』

ベストキャラクターは『マイ・ブロークン・マリコ』でせいいっぱい親友を弔ったシイノ(永野芽郁)。

土を喰らう十二ヶ月

生きていると動く。動くと腹が減る。食べなきゃ死ぬので食べてまた動く。の繰り返し。
全然腹が減らないので半分死んでいるのかもしれない。私の場合、生きるためにもっと動かなければ。

ツトム(沢田研二)の義母(奈良岡朋子、トレビアン)の告別式に思いのほか弔問客が訪れ、和やかに時に賑やかに故人の話をしているのが泣けてきた。遺族のためには慰めになるなぁと思って。でも、その遺族があの息子夫婦(尾美としのり、西田尚美)じゃなぁと思うと笑えるのだけど。
大受けだったのが、ツトムは白い骨壺に入るのは嫌だからと自分で土をこねて骨壺を作ろうと窯に入れた途端、心筋梗塞かなんかで倒れたこと。むろん、恋人の真知子(松たか子)が偶然やってきて救急車を呼んでくれたから笑えるのだけど。

作家の孤独が作品全体を覆っているように感じる。真知子だけでなく大工や姿は見えずとも野菜の差し入れをしてくれる人や、人との遣り取りはあるようだし、山椒(犬)も飼っているけれど一人で生きている感が強い。きっと思索の時間が印象深いからだろうなあ。真知子にいっしょに暮らそうと言ったあと、真知子が保留している間に心筋梗塞なんかになってツトムの気が変わったのはなぜだろう。本気ではあるけれど、ふと誘ってみただけだったのかもしれないし、真知子がツトムが一人でいるのは心配だから傍にいてあげたいという思いでいっしょに暮らすことを承諾するのは、ツトムの本意ではなかったこともあるだろうけど、やっぱり一人がいいのだろう。
そのせいでツトムが釜で炊くご飯とか、いそいそと作るおかずの分量が気になってしかたなかった。一人で食べ切れるのか?何日分なのか?電子レンジはなさそうなので、せいろで温めるのか?年を取っても食は細らぬ大食漢なのか?それほどよく動いているということだろうか?
(2022/11/12 あたご劇場)