ディーバ

雰囲気だけの映画って気がしないこともないが、ええじゃないか(笑)。
大好きな映画で、やっぱり気持ちよかった。
雰囲気っていうのは、映画では「すべて」を意味するのだ。
ただし、もっと映像が美しかったように思っていたけれど、私が脳内で美化したのかな?午前十時の映画祭ってニュープリントだよね?
シンシア・ホーキンズ(ウィルヘルメニア・フェルナンデス)・・・・ゴージャス。
ジュール(フレデリック・アンドレイ)・・・・女神を聴くときの目がいい。
ゴロディシュ(リシャール・ボーランジェ)・・・・水中めがねは、あなたでしたか。
アルバ(チュイ・アン・リュー)・・・・ベトナムがフランスの植民地だったことを、この映画で知った。
DIVA 監督:ジャン=ジャック・ベネックス
(2011/06/25 TOHOシネマズ高知2)

私が棄てた女

上映時間内の付き合いで、ずいぶん印象が変わった三人だった。
学生時代、安保反対運動に挫折して屈託を抱えたまま就職。上司にはへいこら、女性には強引。なんて嫌な男だと思っていた吉岡努(河原崎長一郎)だったが、観ているうち意外に正直で不器用なヤツだと思うようになった。
吉岡に三度も棄てられた森田ミツ(小林トシエ)は男に都合のよい馬鹿な女かと思っていたら、経験したことを咀嚼し自立していった。本物の知恵の持ち主、「都合の良さ」など超越した愛の具現者。何度棄てられようが、最も幸せな人であった。
吉岡の恋人で才色兼備、バツイチの過去を持つお嬢様、三浦マリ子(浅丘ルリ子)は賢明だから、強請の手紙はミツからではないと見抜けるかと思ったら、嫉妬もあって見抜けなかった。「ミツなら許してくれる」と言う吉岡を残し、家を飛び出たので、これが才女の限界かと思ったが、おしまいには戻ってきていた。彼女も愛をまっとうし、幸せになれるだろうか。
マリ子が「ミツさんが闘っていたもの」と最後に謎をかけた。マリ子もまた「それ」と闘うのだ。私は「それ」は、嫉妬や愛する人に愛されたいという自分自身の心だと思う。ミツにもそういう葛藤があったはずで、二度までも棄てられて哀しく苦しかったに違いない。でも、それを乗り越えれば、愛されるより愛する方が幸せという(キリスト者的?)境地に達するのだ。だから、三度目も棄てておいて「ミツなら許してくれる」って「お前が言うなよ」と思うのは私だけで、ミツは吉岡が言うとおり許したと思う。
演出は、観念を映像化したようなところがあったり、相馬の民謡を歌うところにお祭りのドキュメントシーンが挟まったり(ここで号泣しかけた私の涙がピタリと止まった)、角張って自然な流れが途切れてしまうところがあったけれど、時代性を感じさせられ面白かった。
危惧するのは、ミツを理想の女性と言うに止まる人がいるのではないかということだ。ミツは理想の「人間」のはずだが、タイトルがタイトルだし、ミツに続くのがマリ子という「女性」だから、愛についての葛藤は女性の専売特許みたいに思われるかもしれない。私が億万長者となった暁には、『私が棄てた男』をぜひプロデュースしたいと思う。
(加藤武/加藤治子/小沢正一/露口茂/江守徹)
監督:浦山桐郎/原作:遠藤周作
(小夏の映画会 2011/06/19 龍馬の生まれたまち記念館)

ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人

長年連れ添って生きるというのはいいものだなぁ。なかなか魅力的なご夫婦だった。
ただし、ハーブさんが目に見えて弱っているのが、ちょっと哀しい。目に力がない人はお迎えが近いから。でも、アート作品を観るときは、その目に力がよみがえっていたので、これまた「ちょっと」安心したりもした。
二人が蒐集した作品を「素敵だ」「綺麗」「面白い」と思えることに感心した。それは私が現代人である証拠のような気がする。高知県立美術館の収蔵している現代美術の作品もそのように感じていたが、もっと何十年も前に同じ作品を観て面白いと感じたかどうかは甚だ疑問である。
収入で買える範囲でアパートに収納可能な作品という基準のほかに、ハーブが当時のオンリーワン(他にはないもの)を選んでいるのも印象に残った。
アートを意識したおしゃれな編集もなかなかよかった。
HERB & DOROTHY 監督:佐々木芽生
(こうちコミュニティシネマ 2011/06/14 高知県立美術館ホール)

クレイジー・ハート

「息子を失ったら生きていけないわ」
「わかるよ。でも、実際はそうでもない。」
地方紙の記者ジーン(マギー・ギレンホール)と落ち目の歌手バッド・ブレイク(ジェフ・ブリッジズ)の会話が、この映画を象徴していたように思う。地味で平凡な人々にも、時折ドラマチックな(はずの)出来事が起こる。事故で足の骨を折ったり、狂おしい恋に落ちたり、預かった子どもを見失ったり。そして、どんなドラマチックな(はずの)出来事も日々の営みの中で凪いでいく。
バッドは、ジーンと出会ったことによって作曲のインスピレーションを得、子どもを迷子にした自責からアルコール依存症を脱した。そんな人生の転換期を、ひたすら地味に描いて味わい深かった。塩分控えめの超薄味だけど、コクのあるスープみたいな感じだ。
ウェイン(ロバート・デュヴァル)・・・・美声に驚いた。
トミー・スウィート(コリン・ファレル)・・・・う~ん、濃い。
笑ったところ三カ所。
ジーンに思ったより早く帰られたバッドが、懐からグルーピーおばちゃんの名刺を取り出すところ。電話したな~(笑)。
トミーの前座なんか死んでもやらないと言っていたバッドが、実はやっぱり喜んでいた。「サンキュー、ジャック!」(笑)。
トイレで裸で倒れたままのバッド。やってきたウェインが驚いて介抱するかと思いきや、「またかよ。釣りに行く約束だぞ。」(笑)。
じぃ~んとしたところ。
うん十年連絡をしてなかった息子に電話したが振られたバッドを、ウェインが「何十年もほったらかしにしたのはお前が悪いが、電話したのに応じなかったのは息子が悪い」と釣りをしながら変な慰め方をするシーン。
ジーンとの再会シーンのズームアウト。
CRAZY HEART 監督:スコット・クーパー
(オフシアター・ベストテン上映会 2011/06/12 高知県立美術館ホール)