長崎の郵便配達

あたご劇場でロングラン。お陰で何とか観られてよかった。
フランスで俳優をしているイザベル・タウンゼントが、亡くなった父ピーター・タウンゼント(著名なジャーナリストらしい)の長崎での足跡をたどるドキュメンタリー。本作を観ると、郵便配達中に16歳で被爆した谷口稜曄(スミテル)さんについての著書「長崎の郵便配達」の内容(スミテルさんの身に起こったことから、その考えや核廃絶のための活動まで)がわかるようになっていると思う。また、歌にも歌われた「精霊流し」の舟が歌のイメージと掛け離れていることがわかったり、資料館でスミテルさんの背中の治療中の動画をイザベルさんたちが観ているシーンなんか本当に生々しくて「こんな子どもが・・・」と耐えがたい思いをさせられたり、爆心地に近い浦上天主堂の被爆マリア像もちゃんと挿入されていたりしていて、長崎の風土・風習と被爆についての基本的な情報が無理なく映像化されていると思った。

そのうえ、本作を特別なものとしているのがイザベルさんの存在だ。父が遺した録音テープを聴き、「私が亡くなってから読むだろう」と言われていたとおりになった父の著作を読み、父の歩いた長崎を歩く。「もはや観ることできなくなった者の目で観る」景色と思索が、イザベルさんと亡父との新しい交流となっている。父を偲ぶだけに終わらず、父から新しく何かを受け取ったのだと思う。長崎へはイザベルさんのパートナーと娘たちもいっしょに来ていて、イザベルさんもまた娘たちに何かを渡して行くのだろう。亡くなっても続く思いの受け渡しがイザベルさんの家族にとどまらず、鑑賞者銘々の胸に響くのでロングランとなったのではないだろうか。

エピローグは、帰国したイザベルさんが子どもたちが演じる劇の演出を任され、「長崎の郵便配達」をモチーフとして創作・上演する場面だ。有言不実行が得意な私からすると、「こんなことがあったけど二度とあってはいけない。そうでしょう?」という思いを行動に移したことが本当に偉いと思った。また、これが先人から繋がり未来の子どもたちへ出来ることなんだなと思った。
(2022/08/20 あたご劇場)

ヘルドッグス

坂口健太郎の見た目が好きなので、目の保養に行ってきた(^_^)。いや~、眼福眼福。まったく中身のない作品(そんなしょぼいものを取り戻すために潜入捜査かよ)なのに、省略が利いて小気味よく、2時間半があっという間。岡田准一、あつくるしい~と思ったら、色白細長軟体くんが爽やかかわゆい。でも、これだけじっくり見たら、今はこれくらい浅くてもいいけど、もうちょい深い演技をしてくれないと飽きそうな気もしてきた。
はんにゃの金田さんも出ていた。ぜんぜん、笑える役柄ではなかったので、お笑いに向いてないのかも。俳優に専念したらいいと思った。
右近くんも一瞬出てた?
MIYAVIという人の回し蹴りもスローモーションで見られて「うつくすぃ♥」と思った。
北村一輝は長年いろんな役を振られて仕事の切れ間がなくてよかったね(^_^)。
それにしても、ハイセンスなやくざの皆さんだった。オペラとかインターナショナルとか、歌も面白い。警察の方も何かカッコつけて、アメリカナイズされた韓国映画があるとしたら、この映画みたいなのかも(^o^)。
(2022/09/30 TOHOシネマズ高知1)

チタン

パルムドール受賞作という他は予備知識なしで観た。面妖。面白い。稚気があれば好きになれたかもしれないが、そうではないし、面白い以上の感慨はわかず。そのくせ、信号のない交差点でぼーっと停車したまま考えていることに気づき、あわてて発車したり。新手のコメディか、それともホラーかと思いながら見続けて、終わったときにはきわどい線を攻めている作品だと感じた。きわどいとは何のことか考えてみるに、後に残らぬ面白さと後を引く面白さの境目にこの作品があるということのように思う。

アレクシア(アガト・ルセル)に助けを求められたヴァンサン(ヴァンサン・ランドン)が生まれてきた子どもを取り上げ、ラストシーンは聖家族のようだった。私にはラストシーンの続きが見える。アレクシアは、うっすらと髭が生えていたので、その後完全に男になってヴァンサンの本当の息子になるのだろう。ファザコン娘に父ができて、息子を失った父には息子ばかりか孫まで出来た。めでたしめでたし(?)。
愛なくして魅力的だったアレクシアが愛(?)することによって凡庸になり、息子への盲愛とアンチエイジングのため奇っ怪な人物に見えたヴァンサンがアレクシアを救ったことによって凡庸になった。凡庸な聖家族こそ平和の源。アレクシアにぶっ殺された人々よ、安らかに眠れ(?)。ギャスパー・ノエ監督の『カノン』を思い出してしまった。
(2022/08/01 あたご劇場)

エルヴィス

バズ・ラーマン監督らしいキンキラキンで面白かった。作り手のエルヴィス観だろうけれど伝記映画としても面白かったし(黒人居住区で育ったとか、マネージャーに搾取されていたとか初めて知った)、音楽映画としても大変よかった。社会的な背景も自然と描かれていて、ラーマン監督の最高傑作ではなかろうか(?)。
いっしょに観た妹も楽しんだ様子で「休憩するところがなかったね」と言っていた。なるほど、休みどころがないのはラーマン作品の特徴だ。
キング牧師やロバート・ケネディの暗殺事件のところでは、日本で先頃に起こった恨みによる射殺事件のことが頭をよぎり映画の世界から現実に引き戻された。

トム・ハンクスが演じた詐欺大佐を抜きにしてもショービジネスの世界でスーパースタアとして生き残っていくのは並大抵のことではないのだなあと、しみじみ感じさせられた。自然とマイケル・ジャクソンが思い浮かんだり、マドンナはえらいと改めて思ったり。本作のエルヴィス(オースティン・バトラー)はやさしいし、海千山千の世界を渡るには無垢な感じがした。どうしても戦略が必要な世界というか、欲が絡んだ世界であることに自覚的でないと才能だけでは潰されかねない。

本物のエルヴィスが最後に登場した。晩年のせいか目に力がなく身体もむくんだようになっていたが、大変魅力的で、かつ、その歌唱に圧倒されて涙が出そうになった。本当に歌のパワーってすごい。
(2022/07/18 TOHOシネマズ高知2)