もっと面白いかと思って見に行ったけれど、そこまで面白くならなかったのはなぜだろう。若北斎(柳楽優弥)と老北斎(田中泯)のどちらも目力があり、俳優に助けられた作品だと思う。
若北斎と老北斎に共通したセリフ「こんなときだから描くんだ」には、『うたのはじまり』で齋藤陽道が「生存本能の発露」と言ったことや、新型コロナ禍で意外にも追い詰められていた熊川哲也や、10年前の東日本大震災のとき自分の仕事に意義があるのかと考え込んだ数々のアーティストを彷彿させられた。
予告編で「おおっ!」となった場面=突風にあわてふためく人々を目に焼き付け、瞬時に記録しようとする老北斎がコミカルで真剣でやっぱり一番面白かった。
蔦屋、写楽、種彦など、エピソードを思い出しても面白いのに、どうしてこうなったのか。不思議。
(2021/06/05 TOHOシネマズ高知4)
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熊川哲也 カルミナ・ブラーナ2021
面白かった!
メイキング部分は要らないのにと思いながら観に行った。しかし、熊ちゃんは老けても「圧」も「熱」も若いときのマンマだということと、その人でさえ新型コロナ禍における混迷は不可避であったこと(他の表現者も推して知るべし)がわかってよかった。また、オーケストラのリハーサルにも立ち会い、指揮者に修正を要請し、それが直ちに修正されていた。ダンサーも同様。プロって凄い。(それとも編集?)こうして良いものを作ろうとする人たちを見るのは良いものだ。
そして、本編は映像作品として完成度高し。ドローンの使用が一般的になって、カメラアイが舞台上を無闇に動く映像を見るのはあまり好きではなかったが、ここでは大変効果的に使われていて文句なし。引きで撮ったり寄りで撮ったり、いったい何台のカメラを使っているのか。速い動きはちゃんと引いてくれているので目が回ることもなし。
振付は、このうえなくわかりやすい。多分、振付家の意図が明確に伝わっていると思う。アドルフ(関野海斗)が誕生して「ハイル・ヒトラー」のポーズを取ったのには少し驚いた。今やナチスもヒトラーもファシズム(国家主義、全体主義)から離れて悪の象徴(絶対悪)となっており、この作品もファシズムとは関係ない。
アドルフは無邪気に触れるものを死なせたり操ったり。あるときは天使と戯れたかったのに意図せず死なせてしまい、孤独に沈んだりもする。悪いことばっかりしても可愛いので皆許してくれたけれど、オイタが過ぎたので神様(熊川哲也)が「もう、お前の時代は終わりじゃ~」と仕舞をつける話と受けとめた。
本当は初演の話を少し変えて、新型コロナに打ち勝つ人類の話にしたのだそうな。それを知ったうえで観ても「どうだっ」と言わんばかりの熊ちゃんの登場は神様にしか見えない。ローザンヌで踊ったときの動画がyoutubeにあるが、キレッキレの踊りの締めに「どうだっ」という大見得がホンマにスカッとする。インタビューなどで「どうだっ」感が出るのはあまり好きではなかったが、話を聴くと日本のバレエ界のことをよく考えたうえで動いていることがわかって感心し、公演を観るとKバレエは裏切らないなーと思い応援したくなった。
そして、やっぱりKバレエは裏切らない。ソリストはもちろん群舞の皆さんも上手。白鳥(成田紗弥)、よかったなぁ。
カルミナ・ブラーナは、切迫感のある有名なフレーズが重くて腰が引けていたが、当然ながら1時間もあの音楽が鳴っているわけではない。合唱、独唱、素晴らしい!天使の場面での子どもの合唱もよかった。
また観たいなぁ。よい作品は元気が出る。
(2021/05/29 TOHOシネマズ高知5)
【演出・振付・台本】
熊川哲也【音楽】
カール・オルフ【舞台美術・衣裳デザイン】
ジャン=マルク・ピュイッソン【出演】
アドルフ:関野海斗
太陽:髙橋裕哉
ヴィーナス:小林美奈
ダビデ:堀内將平
サタン:遅沢佑介
白鳥:成田紗弥
神父:石橋奨也 ほかK-BALLET COMPANY特別参加:熊川哲也
【指揮】
井田勝大【ソリスト歌手】
今井実希(ソプラノ)
藤木大地(カウンターテナー)
与那城敬(バリトン)【合唱】
新国立劇場合唱団【児童合唱】
NHK東京児童合唱団【管弦楽】
シアター オーケストラ トーキョー
(Kバレエ・カンパニーのwebサイトよりコピペ)
ファーザー
ホラーだった。
認知症の疑似体験ができた。
見終わって何度か行ったことがある新棟2階へ行こうとしたら、行けるはずの通路を通っても行けない!このキツネにつままれた感!!!リアルでプチ「ファーザー」体験だった。
(2021/05/25 TOHOシネマズ高知3)
茜色に焼かれる
とてもよかった!
茜色の堤防を母子が自転車で行く。支えは互いに対する想いしかない、この先を考えると途方に暮れる。茜色の美しい空、暮れていく空が、本当のラストシーンだと思う。その後はおまけで、作り手がお客さんに明るい気持ちで劇場を後にしてもらおうとしているのだと思う。
息子純平(和田庵)が13歳というのが微妙な線で、まだまだ子どもらしい今は「母ちゃん好き」と言ってくれるけれど、その後はどうかわからない。もう少ししたら母ちゃんに酷いことを言うかもよ。もし、作り手が純平の立場だったとしたら、この映画は母ちゃんに対する「ありがとう」と「ごめん」なのかもしれない。すごく立派な感謝と罪滅ぼしになったと思う。それだけ母ちゃん田中良子(尾野真千子)のキャラクターが立っていた。人としての筋を通し、息子命で健気で面白く、ド迫力のある人を嫌う人はいないでしょう。ケイ(片山友希)との居酒屋の場面は出色。また、純平の愛の証しの跳び蹴りも。即行で新型コロナ禍の状況を織り込んで作っていることにも感心した。冒頭に出てくる字幕「田中良子は芝居がうまい」が本当かどうか、実生活でも演じているのかどうか、最後の最後まで効いているのも面白かった。
サブタイトルで家賃や飲食代の金額が出てくるのは、お金に縛られる「心の不自由」を表していると思う。お金がなければ寝る間もない。心の不自由な人が溢れている。心の不自由を自覚している人はどれだけいるのか。
純平のアゴのほくろは父ちゃんゆずり。父ちゃん役のオダギリジョーのアゴにほくろがあったと思うから。(検索したら庵くんのアゴにもほくろがあった!)
(監督・脚本:石井裕也 2021/05/24 TOHOシネマズ高知1)