紙の月

いやいやいや~、いきなりネタバレだけど、これって好きなように生きることに軍配を上げた驚くべき作品だ。行くべきところへ行くって、そこかい!?(ツッコミ)てっきり自首か自殺だと思っていたので、映画のセオリーに革命が起こったと思った(笑)。作り笑いの生活を偽物の月(紙の月)だと言って、ひっちゃぶって好きなことをする開放感。可愛い愛人(池松壮亮)のためだったのが、いつのまにか何のためやら。終いには色仕掛けで契約を取ろうとするなんて、ぜんぜん楽しくないじゃんねぇ。タガが外れると樽でも桶でもバラバラ、元の姿に戻れないってことだろうか。だけど、それをも肯定的に描いていると思う。がちがちにタガが嵌った銀行の先輩、隅(小林聡美)が、梅澤梨花(宮沢りえ)が去ったガラス窓を見上げる。まぶしく輝く窓の向こうは梨花が高飛びした海外だ。

有能であっても支店長、次長には任命されず、長年勤めていると使いづらいってんで嫌がらせのような配置換え。融資係を希望して女を武器に次長と出来ちゃったうえに伝票操作をさせられ、バレルと弱い立場の方が辞職。子どもが欲しくても仕事好きの夫(田辺誠一)は後でってなもんで実のある会話もなし。ままならぬ人生を女性が皆、紙の月だと言うわけではないけれど、パパの財布から抜き取ったお金でした梨花の募金が生かされていたんじゃないの~~?というラストには、イエス様も「YES」と言っているんじゃないの~?しかし、梨花の表情は「やぶいてもやぶいても紙の月」なのであった。

監督:吉田大八
(2014/11/30 TOHOシネマズ高知2)

リスボンに誘われて

しみじみとした余韻のある(しかも前向きな)作品だった。
偶然手にした本に日頃自分が思っていることがそっくり書かれていたら、いったいどんな人が書いたのか知りたくなる。ライムント・グレゴリウス(ジェレミー・アイアンズ)は、著作者アマデウ・デ・プラド(ジャック・ヒューストン)に会いに行く。故人とわかってからは、いろんな人に聴いて回るんだけど、それが凄い豪華キャスト。妹(シャーロット・ランプリング)、親友(アウグスト・ディール/ブルーノ・ガンツ)、レジスタンス仲間(トム・コートネイ)、恋人(メラニー・ロラン/レナ・オリン)。

アマデウの半生が解き明かされるというミステリー映画なんだけど、その過程で三角関係の恋愛映画になったり、レジスタンスのサスペンス映画になったり(ふむふむ、歴史~みたいなところもあり)1本で3本分くらいの面白さがある。しかもリスボンの路面電車は高知を走っているあの電車だから、電車と絵になる町並みを見ているだけでも面白い。それに、しがない中年男ライムントのくすんだ人生が、アマデウの人生を辿ることで輝いてくるので青春映画の変化球でもあると思う。
残念なのは、右脳人間のお茶屋はアマデウの著した本を読まれても(日本語の字幕でも)ちんぷんかんぷんだったことだ。だから、本作の半分も理解できてないだろうな~。そんな私にアマデウの本の一節を

<若い時は皆、不死であるかのように生きる/死の自覚は紙のリボンのように我々の周りを付かず離れず踊るだけだ/それが変わるのは人生のどの時点でだろう?/そのリボンが我々の首を締め始めるのはいつだろう?>

と書いてくれてある次のページは、とても勉強になった!

リスボンに誘われて|観ているうちが花なのよやめたらそれまでよ

監督:ビレ・アウグスト
(2014/11/24 あたご劇場)

美女と野獣

レア・セドゥとヴァンサン・カッセル、いいねぇ(^_^)。
しかーし、もっとSでMであってほしかった。
コントラストの強い映像もイマイチ美しいとは言い難かったし。
よかったのは、なぜ、野獣になったのかを描いた部分と、ラストのめでたしめでたしの部分だ。
特にラストは、(子どもたちに語って聴かせているところは)てっきりお城の中と思っていたので、そうではなく庶民の暮らしをしているのがよかったし、主役以外も皆息災で、これが本当のしあわせだよねーと思った。

監督:クリストフ・ガンズ
(2014/11/24 TOHOシネマズ高知4)

女性文芸映画特集inあたご劇場

昔の映画は短いと思っていたら、長かったー。まさか4本全部見るとは思ってなかった(だからお昼ご飯しか持参してなかった)が、結局12時から9時半まで座りっぱなし記念日となった。

一番面白いと思ったのは『夜の河』で、綺麗なカラーだったのに驚いた(緑の絹の光沢なんかよく出てた~)。映像ピカイチ。主人公は染物屋の娘きわ(山本冨士子)。美人~。見とれる~。どの角度から撮ってもきれい。大学教授の竹村(上原謙)と一夜をともにする赤い逆光ショット(ほとんど影)も美しい。しかも、この日見た4人の主人公の中で最もリアリティがあった。反物を卸すにもなかなかの商売上手。はんなり、やり手の京女。東京出張で下心ありありの呉服屋の旦那と同じ宿に泊まることになっても妹を連れて行き、防戦に抜かりなし。何ごとにも動じることがないと思いきや、好意を持っている竹村に対しては、媚びなく可愛くいじらしい。竹村の妻が亡くなって、亡くなるのを待っていたと思われるのが嫌というプライドと、病気の妻に出来る限りのことをしたと言えば聞こえはいいが一滴の姑息さがにじむ竹村に気づいてしまったことから別れを決意する。清冽だ。それなのに「夜の河」とはこれ如何に。映画の始まりでは無関心だった労働運動のデモ行進に映画の終わりでは関心を示す。その心境の変化はこれ如何に。充分に成熟しており一筋縄ではいかない女性だとは思う。

きわに憧れる若き画家が岡本五郎という名前で岡本太郎らしい絵を描いていたのが可笑しかった。この五郎君がインテリ言葉を駆使して何だかんだ言うのがハイレベルすぎてついていけなかったが、当時の観客の目からすると大学を出た若者や芸術家のイメージは五郎君みたいな感じだったのだろうか。本筋とは関係ないように思える五郎君の登場と退場はなぜ故に?
竹村がショウジョウバエを赤く染める研究をしているのも面白かった。(竹村も染物屋だ。)きわは赤いショウジョウバエの柄を染め上げ、着物を仕立てる。なぜ故にショウジョウバエ?
色々わからないところもあったけれど、主人公のキャラクター、映像、時代背景がよく描かれていてよかったと思う。

『雪国』は、駒子(岸恵子)がめっちゃ可愛い。島村(池部良)は、めっちゃ嫌い。妻子がありながら、駒子のところへ来るなよなー。来るなら奪って行け。まっこと腹の立つ~~(笑)。駒子は誰も捨てきることが出来ず、哀れだった。

『五番町夕霧楼』の夕子(佐久間良子)、色っぽい~~。「商売であえぐな」と思ったけれど、いやいやいや~、「このサービスショットは必要」とも思った。男性との絡みなし、顔の表情だけの濡れ場、お見事。話は(キャラクターも)作り物っぽいが、『炎上』の他にも金閣寺放火をモチーフとした映画があったとは知らなかったので面白かった。また、夕霧楼の女将以下、エントリー女性の皆が優しいのがとてもよかった。夕子とか夕顔とか夕の字がつくと儚いねぇ。

『五辨の椿』は、おしの(岩下志麻)の復讐箪。音楽が『五番町夕霧楼』と似てる~~(?)。話も主人公も『五番町夕霧楼』以上に作り物っぽい。時代劇だから無理もなし。原作は山本周五郎とのことだけど、こんな陰惨な話も書いてたのね。

夜の河(1956年/104分/監督:吉村公三郎)
雪国(1957年/133分/監督:豊田四郎)
五番町夕霧楼(1963年/137分/監督:田坂具隆)
五辨の椿(1964年/163分/監督:野村芳太郎)