ゆったり、しみじみ大人の映画だった。人生において、やりがいのある仕事がいかに大切か、一番身近なはずの夫婦の意思疎通がいかに難しいかが、40年の長きにわたる時間の重みとともに伝わってきた。そして、夫の定年退職を機に、夫にとっても妻にとっても第二の人生のスタートラインに着いたわけだが、スタートと言っても落ち着きのある雰囲気で、このような落ち着きのある清々しさもあるのだなぁと思った。
滝島徹(三浦友和)が働き始めて41年、無事故35年という時間の差は、ちょうど慣れた頃に事故を起こしたのではないかと想像するが、後輩の指導にもその失敗の経験が生かされているような気がした。徹の高校生時分の彼女(仁科亜希子)が登場し、バツイチの彼女によって熟年離婚の内実を垣間見させる脚本もうまいと思う。
妻佐和子(余貴美子)が担当する患者が徹が運転する電車に乗り合わせていて・・・・というくだりは、妻がなぜ働きたいのか理解する大切な場面だが、雷鳴と稲妻がものすごく、映画として山場となり得ていたと思う。また、最後の電車の運転で、まさに退職の花道、沿線で手を振る人たちを配した場面もよかった。春めいた光の中を走る電車に無言の運転士。感慨深いものが込み上げる面持ちに共感した。
監督:蔵方政俊
(2011/12/04 TOHOシネマズ高知1)