アキ・カウリスマキ監督は、世界の片隅のささやかな幸せを描いてきた。職を失うのが最大の不幸で愛する人と暮らせるのが最大の幸福という普遍的な「しあわせ」だ。それはウクライナとロシアが戦争している今も変わらない。(映画の中ではパレスチナとイスラエルの戦争はまだ始まっていない。)孤独な男女が出会い紆余曲折を経て結ばれるハッピーエンディングには、こちらまで幸せな気持ちにさせられた。
ところが、BGMは失恋ソング「枯葉」であり、遠ざかる二人を見送る形のエンディングは、死別をも想起させられる演出だ。愛する人と暮らすのが「しあわせ」なら、その人を失うのは不幸ではないのか?いやいや、「枯葉」を訳した字幕を読めば、失った恋の美しさを歌っているのだった。もし、愛する人を失ったとしても思い出が幸せにしてくれる。そうか、カウリスマキ監督は、そういう境地に達したのか。出来上がったこの映画の美しさに何とも言えない気持ちになる。世界の片隅のささやかな幸せは深みを増した。
いろんなジャンルの音楽をうまく使っているのもカウリスマキ監督らしい。そういえば、レニングラード・カウボイーズという架空(?)バンドを主役にした作品がいくつかあったけれど、1本も見ていない(涙)。
ジム・ジャームッシュ監督のゾンビ映画(イギー・ポップ出演(^Q^)の)『デッド・ドント・ダイ』が、二人のデートムービーというのもイイネ!きっとジャームッシュ監督とも仲良しなんだろうなぁ。
世界中でこの映画を観た人が幸せな気持ちになると想像しただけで嬉しい。世界中の人がこの映画を観られたらいいのに。
(2024/04/07 あたご劇場)