幾重にも面白かった。
まずは、やはり健さんだろう。ひかえめ、誠実という美徳を備え、不器用に理想の日本人を演じてきた(というほどは見てないが)。ファーストショットが富山の刑務所だったので、すわ、健さん、また入っているの???と思った自分が可笑しい(笑)。こんだけキャップが似合う80歳はいないだろう(カッコイイ)。浅野忠信より背が高い(驚き)。俳優のアンサンブルもよかった。綾瀬はるかと三浦貴大がお似合い。
次は、富山から長崎までのロードムービーとして(夕焼けシーンがやたらと赤く回想シーンと見分けがつかなくなりながら)、竹田城址など素晴らしいショットに喝采をおくった。
人物の多面性を描いているところも面白い。イカめし販売の兄ちゃん(草薙剛)とその相棒(佐藤浩市)。もと国語教師(ビートたけし)。
倉島英二(高倉健)と洋子(田中裕子)夫妻のストーリーとしてもよかった。夫婦であっても全てをわかり合えているわけではないというセリフや、妻と死に別れその後の人生を一人で生きるというのは、夫婦に限ったことではなく色んな関係に言えることだ。一人一人が個人として生きていて、様々な関係において時間を共にすることがあり、その関係性を大切にしながら(助け合いながら)、やっぱり個人として生きているのだということが描かれているのが嬉しい。しかも、洋子が夫に依存せず、個としてふんわりと生きているのが、またよかった。夫が自炊できるようにレシピメモを作ったり、あるいは花瓶の置き場所も作ってねとお願いしたり。
そして、山頭火のダメ押しだ。
このみちや いくたりゆきし われはけふゆく
この道は、単なる道でもあるし人生とも考えられる。
目的地があって帰る場所があるのが旅で、目的地もなく帰る場所もないのが放浪ならば、人生は放浪ではないだろうか。そうか、みんな放浪しているんだ。国語教師になりたかったコソ泥に、えらいことを教わった(笑)。
この道を、何人が通ったことか。私は今日行く。
妻を亡くした倉さんは、一歩踏み出すのであった。
監督:降旗康男/脚本:青島武
(2012/09/16 TOHOシネマズ高知3)