優れたドキュメンタリーだと思った。
構成がとても良い。基本的に両論併記としており、例えば、脱走兵を非難する中尉の発言のすぐ後に、ある脱走兵の収監覚悟のうえの公聴会場面があったり、戦闘機乗りが爆弾を落とすときの心境を語ったすぐ後に、落とされる側の人々の様子が映し出される。決して、二元論に終わらず、アメリカとヴェトナム双方の庶民から権力者まで様々な立場の人に取材し、ヴェトナム戦争を多角的にとらえている。また、随所に内容に関連した既存の(映画か国威発揚フィルムかの)映像を差し挟むことによって、しゃれっ気を出しながら幾分のメディア批判も行っているように感じた。
そして、映画の始めと終わりに共産主義に対する考え方を配置している。始めは、アメリカがヴェトナムに介入したのは、(他にも理由はあるけれど)ヴェトナムを共産圏にしないためというもの。おしまいは、ヴェトナムで思想犯として弾圧されている共産主義者の主張。これを観ると共産主義者への偏見が薄れたりする人もあるんじゃないだろうか。
偏見をなくするという意味では、私もこの映画の恩恵に浴した。戦死した息子を持つ両親が「息子の死は無駄ではない」と言ってヴェトナム戦争を正当化していたことを無理もないと思えるようになった。映画は今まで見えてなかった人、見ようとしていなかった人を見せてくれる。
考えさせられたことがたくさんあったが、「ウィキリークスは必要だ」というのも、その一つだ。
国防省で働いていたエルズバーグ(ロバート・ケネディ暗殺の話のとき、涙で言葉に詰まった人)が、歴代の大統領が皆嘘をついていたと言うのを聞いてそう思った。後でパンフレットを読んだら(映画の中でも注釈されていたと思うけど)、この人自身がヴェトナム戦争早期終結のため、「ペンタゴン・ペーパーズ」をリークしたとのことだ。
市民が政府にスパイ(潜入捜査官)を送る映画『インファナル・アフェア~リークス~』が出来たら面白いと思う。
HEARTS AND MINDS 監督:ピーター・デイビス
(2011年ピースウェイブ実行委員会、第28回高知平和映画祭実行委員会、四国文映社 2011/07/08 自由民権記念館)