塀の中のジュリアス・シーザー

お見事!
人物の顔の表情や身体全体を使った表現が力強く迫ってくる。刑務所内の様々な場所で工夫されて撮影されている。「戯曲『ジュリアス・シーザー』を演じる囚人」を演じる囚人というふうに見えるのが刺激的。16世紀にイングランドで書かれた紀元前のローマを舞台にした戯曲が、今を生きる囚人たちの体験してきたこととかぶるとは、人間の営みの普遍性を感じる。いろんな意味で人間を感じさせてくれる作品だった。また、『グッドモーニング・バビロン!』でイタリアの兄弟職人がハリウッドで巨大セットや装飾品を作りながら、「俺たちはミケランジェロやダ・ヴィンチの子孫だ」と言っていたのを思い出した。

ブルータス(サルヴァトーレ・ストリアーノ)/シーザー(ジョヴァンニ・アルクーリ)/カシアス(コジーモ・レーガ)/ファビオ(ファビオ・カヴァッリ)

CESARE DEVE MORIRE
CAESAR MUST DIE
監督:パオロ・タヴィアーニ、ヴィットリオ・タヴィアーニ
(とさりゅう・ピクチャーズ 2013/06/27 高知県立美術館ホール)

エンド・オブ・ザ・ワールド

あれれ?コメディではなかったのか(ガク)。
あと3週間で地球が木っ端微塵、人類滅亡。そんなとき、残りの時間をどうするか。まあ、余命1ヶ月を宣告されたとき、どうするかといった方が現実的ではあるけれど。
せっかく、人類滅亡なんだから、ドッジ(スティーヴ・カレル)やペニー(キーラ・ナイトレイ)のように愛する人といっしょに最期のときを迎えるパターンだけでなく、いろいろ見せてくれたらよかったのに。たとえば、ドッジの家のハウスキーパーさんとか(わいわいラテンの乗りで家族と最期)、ドッジの父(マーティン・シーン)(孤独にライフルをみがきながら最期)、ペニーの元恋人の黒人青年(仲間とゲームをしながら最期)。

余命3週間となると、やりたかったこと、やりたくなかったことがハッキリしてイイね。私の場合は、即辞職。やりたいことはほとんどやっているので、お家でゆっくりDVDでも見ながら最期にしましょうかねぇ。あ、停電になるのかな。だったら、マリリン・モンローの写真集とか眺めながら。

SEEKING A FRIEND FOR THE END OF THE WORLD
監督:ローリーン・スカファリア
(2013/06/27 あたご劇場)

東ベルリンから来た女

う~ん、なんか私にはイマイチだった。よくわからない。居眠りしたからかも(^_^;。期待していたのでとても残念。
登場人物は多くを語らないが、筋立てはシンプルでわかりやすい。バルバラ(ニーナ・ホス)は、西側に恋人がいるから亡命しようとしていたけれど、1回失敗しているからベルリンから鄙びた町へ左遷され、シュタージの監視下にあって息がつまるような生活を強いられている。そうするとなおさら、東側にいることが耐えられないだろう。それでも医師として仕事は全うしたいと思っている。上司(?)のアンドレ(ロナルト・ツェアフェルト)は、彼女の様子をシュタージに報告しているだろうな、彼女もそのことはわかっているだろうな~。アンドレの送る秋波(?)にちょっと揺らいだかもしれないけど、彼は彼女のタイプじゃないしね~。
作業所を何度も逃亡したステラ(ヤスナ・フリッツィ・バウアー)になぜ、あれほど肩入れするか。バルバラも作業所出身かと思ってみた。そうでなくても、ステラを逃がしたことには違和感を感じなかった。ステラを救うにはそれしかないし、バルバラは医師だ。ステラを逃がしたカドで逮捕されるだろうけど、バルバラならステラを逃がすことに迷いはなかっただろう。

ほとんと感慨もなく見終わったのはアンドレがいたからかもしれない。医療ミスをした過去があり昇進は望めず望まず、監視社会の一員として嫌なこともあるし、自由に絵画も観に行けないが、医師の仕事を全うし、患者から感謝されることもあり、庭付きの家に住み、自ら調理する。侘びしいけれど、それはそれでいいんじゃないと。私にはバルバラの恋人よりアンドレの方が魅力的だったので、こっちにしとけば~と思っていたのだった。

BARBARA
監督:クリスティアン・ペツォールト
(シネマ・サンライズ 2013/06/25 高知県立美術館ホール)

月の下まで

高知県黒潮町を舞台に、漁師の明神勝雄(那波隆史)が、知的障害のある息子雄介(松澤匠)を抱えた心の葛藤を描いた佳作。この葛藤にリアリティがあった。もっともリアルだったのは溺れかけた雄輔を見る勝雄の表情。何を思っているのかハッキリわかったし、こういう感情は現実にあるので怖かった。

主演の二人を初めて知ったが、日本には良い俳優がたくさんいるのだなぁ。那波さん、カッコイイ・・・・。地味だけど。松澤さん、演技とは思えなかった。他の俳優も地味さ加減を含めて地元の人に見えた。

奥村監督の初監督作品で当地に縁もあるので、よくわかってない私の恥をさらすことになるかもしれないけど;;;、「?」と思ったところを記しておこう。監督の目に触れて今後の参考になればいいな。
ファーストカット、水平線が斜めで船に乗っている感じがよかった。漁師さんの唄をバックに島に近づいていくところ、出演者の名前が始め左、その後右に表示されるのはバランスもよくて、映画の出だしとしてつかみはオッケーと思った。ただし、鳥居前でのお参りがどう話につながっているのか今一不明。勝雄が船を新造したと言っていたので、そのお祝いだったのかな?
大漁で打ち上げたあと、港で夕焼け(朝焼け?)のきれいなシーンがあって、帰宅したら母がご飯を食べているシーン。夕焼け港→打ち上げ→帰宅の順番だったかな?その順番ならイイかもしれないけど、打ち上げが夜かと思ったので、その後夕焼けで帰宅したら深夜?そんな感じで時間の流れがよくわからなくなった。←集中力を欠いていたのかも;;;。
ご近所さんに暴力を振るって入れられた留置場で夢を見て、泣きながら目をさまし、漁師仲間(←この人もよかった)の迎えで家まで送ってもらい、雄介を目にするという流れがとてもよかった。この流れで感動できた。
恵理(富田理生)を両親が見送るシーン。父親は勝雄に殴られてボコボコのはずなのに・・・と思ってしまった。よく考えたら、お祭りから半年くらい経っているのかな?時間の経過がよくわからなかった。
それと笑えるシーンが二つ三つあれば、一つの作品としてほぼ完璧と思った。『スイート・シックスティーン』だったと思うけど、ケン・ローチ監督が16才の少年の生活をリアルに描こうと思ったら笑えるシーンが必要、現実に笑っているからと言っていたように思う。その他の作品でも必ずユーモアがあって笑える。観客の気持ちもほぐれるし、よりリアルになるし、笑いは一石二鳥だ。「勝雄(まさお)=かつお」というのには、ちょっと受けたよ。

監督:奥村盛人
配給:シネフォリア/配給協力:ユーロスペース
(2013/06/22 TOHOシネマズ高知5)