ふがいない僕は空を見た

生まれて生きるということの大変さを、序章のセックスから描いた作品のようだ。生まれる前から大変なんだから、生まれた以上どんなに大変でも生きてよねと、けっこう理屈っぽく(セリフで)訴えかけてこられたように感じた。

姑から早く孫をとせっつかれるあんず(田畑智子)を見ていると、生まれる前段からえらいこっちゃと思う以上に、経済的に自立できてないと離婚もままならない哀しさを感じた。でも、結局は離婚したみたいで、あんずのその後の人生が好転することを期待したい。
産院を営んでいる母(原田美枝子)を手伝うこともある卓巳(永山絢斗)は、イイ子だ~。関係ないけど、自然分娩の産院に妊婦さんが引きも切らずで驚いた。自然分娩って、そんなに人気があるの?
良太(窪田正孝)とあくつ(小篠恵奈)もイイ子だ~。コンビニの先輩(三浦貴大)に勉強を教えてもらえることになって喜んでいる良太なんかめっちゃ可愛い。あくつも水浸しになった良太の住み家を、いっしょに掃除してくれたりするのだ。この二人が悪意をむき出しにしてビラをまくシーン、弱い者イジメの原理を見た気がした。良太とあくつは、理不尽に貧しく差別されている。誰に怒りをぶつけたらいいのかわかってないし、怒りをぶつけたい相手(例:コンビニの店長)には怒れないし、そういう鬱積した気持ちのはけ口として自分よりイイ思いをしていそうな者をねたんで、その者の弱みにつけ込んでいじめるのだ。自分より強い立場の者に立ち向かっては行かない。

監督:タナダユキ
(シネマ・サンライズ 2013/04/25 高知県立美術館ホール)

希望の国

悪くはないんだけど中途半端で力のない映画ができてしまった。いつものようにもっと叫んでしゃべり倒しても良かったのに。ただし、福島のあとの長島の原発事故という設定は、何遍でも欺され学習しない日本人、再稼働を許してしまった日本人という真実を突いていると思う。

よかったところ。
半径20キロメートルで線引きして圏内なら避難させるが圏外ならさせないことのバカバカしさは、笑えるくらいによく描けていたと思う。

長島県の人々に寄り添う気持ちは伝わってきた。
ミツル(清水優)は、両親が行方不明のヨーコ(梶原ひかり)を思い遣り、津波で流されて瓦礫の原となった街をあてもなくさまよう。ヨーコの気持ちの整理ができるまでミツルはとことん付き合う。
妊娠中のいずみ(神楽坂恵)が内部被爆予防のため自家製防護服を着て歩く。夫の洋一(村上淳)は職場で笑われてもいずみの側に立つ。
そして洋一の父、小野泰彦(夏八木勲)は、避難指示が出ても認知症の妻智恵子(大谷直子)と自宅に残る。泰彦を見ていると、死に場所くらい自分で選択してもいいではないかという気にさせられた。

監督:園子温
(小夏の映画会 2013/04/20 あたご劇場)

リンカーン

“now,now,now!”
「にゃう、にゃう、にゃうかぁ」という感じで食指があまり動かなかったけれど、観てよかった。
驚いたのは、監督の前説(笑)。
更に驚いたのはジェームズ・スペイダーの変貌ぶり。出演しているとは気がつかず、おしまいのタイトルクレジットでその名を発見して「えーーーー!?誰、誰?誰を演じてたのーーー?」と思ったら、ロビイストのビルボだった。若い頃は、金持ちでちょっとイケメンのイヤミな男か、繊細神経質男に配役されることが多かったように思う。今の容姿だとタイプキャストされることはなく、いろんな役を任せてもらえるのではないか。別にファンではないけれど、これからも良い仕事ができそうでよかったねぇという感じだ。

それにしても清廉潔白では政治家はやってられないと印象づけられた。リンカーン(ダニエル・デイ=ルイス)は、誠実で話も面白く人気の大統領だ。奴隷制廃止を実現するという大義を持っており、常に何手か先を読んでいる。申し分ない大統領だが、奴隷制廃止の憲法修正案を下院で可決させるため、南部からやってきた使節団との和平交渉を先延ばしにした。その間、戦死者は増えただろう。また、共和党だけでは3分の2議席ないので、民主党の議員を次期ポストという餌で釣ろうと買収工作をした。
急進派のスティーブンス下院議員(トミー・リー・ジョーンズ)は、奴隷制廃止は黒人に市民権を与えるための一歩と思われると修正案への賛成票が減ってしまうので、黒人にも市民権をという本音を隠した。
政治家とは小の虫を殺し大の虫を生かしたり、本音を隠したり嘘にならないようにごまかしたり、いろいろ工作・駆け引きをするものだ。

夫として父としてのリンカーンも面白く見た。息子ロバート(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)が志願するというので、リンカーン夫人(サリー・フィールド)は、なぜ、止めぬと夫にカンカン。戦争をさっさと終わらせるように、憲法修正案をさっさと可決させろとプレッシャーをかける。ファースト・レディの政治への影響力は、こうして発揮されるのかと感心した。

それにしても、南北戦争は奴隷制廃止という大義だけではなく、南北の利害の対立があったはずなのに、それにはまったく触れてない。また、奴隷制が廃止されてから人種差別がひどくなったということもいっさい無視。これだけの上映時間を費やして、それだけかという気がしないではない。

スワード補佐官(デヴィッド・ストラザーン)

LINCOLN
監督:スティーヴン・スピルバーグ
(2013/04/20 TOHOシネマズ高知4)

ジャンゴ 繋がれざる者

やはりタランティーノ監督作品は俳優の魅力が5割り増しだ。俳優は生き生き艶々。デニス・クリストファーだけ見せ場がなかったような気がするけど、それでも艶を感じるのは贔屓目か(笑)。

ジャンゴ(ジェイミー・フォックス)とキング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)のコンビはもちろんよかったけれど、目を見張ったのはカルビン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)とスティーブン(サミュエル・L・ジャクソン)のコンビだ。スティーブンは名誉白人的な地位にあるのみならず、カルビンと二人きりになったときの態度は主従逆転にも見えるではないか。実際カルビンも彼を頼りにしているのだ。

スティーブンは、この映画のキーパーソンだと思う。キャンディ家で重用されているのだから逃げる必要がない。黒人なのに黒人を見下し、自分の支配下に置いている。そこまで白人に取り入ること、そうすることが彼の生きのびる道だった。自分が黒人であることを否定する道を行く。これが本当の奴隷根性と言うものだろう。本当は杖などなくても歩けるのに、長い間、他人も自らも偽ってきた。その報いがジャンゴの銃弾だったのだろう。
杖は彼の心を縛る鎖だったと言えるかもしれないし、カルビンを息子のように思っていただろうから、カルビンが銃弾に倒れたときの嘆きは本物だと思う。だから私はスティーブンを見ていると可哀想な気がするのだが、マカロニウェスタンは容赦ないのだ。黒人の味方の白人がビッグ・ダディ(ドン・ジョンソン)ら(のちにKKK団となる一味)に襲撃を受けたように、白人の味方の黒人も殺されるのが掟なのだ。

このKKK団の萌芽エピソードが笑える。あの目のところだけ穴を開けた白いとんがり頭巾の穴がずれていて見えないと不平が出てくるシーンだ。俺の女房の手縫いなのに文句を言うなとか(笑)。『レザボアドッグズ』で登場人物がマドンナの「ライク・ア・ヴァージン」についてうんちく(?)を傾けるシーンを思い出した。こういうセリフを書けるのがタラちゃんらしいところだ。

ブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)/モギー弁護士(デニス・クリストファー)/ララ(ローラ・カユーテ)

DJANGO UNCHAINED
監督:クエンティン・タランティーノ
(2013/04/13 TOHOシネマズ高知2)