さよならドビュッシー

この映画を観る少し前のこと、韓国ドラマに嵌っている友だちに、山口百恵の「赤いシリーズ」みたいな感じかと尋ねて「違う」と言われ、予想を外してガッカリしていた。そこへもってきて、『さよならドビュッシー』だったので「これだよ、これ!」って感じで嬉しくなった。「バレエ・シューズに画鋲」みたいな懐かしきドラマ臭を漂わせながら、ピアニストになりたい真っ直ぐな心の女の子を主人公に、「自分のためなら続かないが、大切な人のためなら続けられる」とか「人を感動させられる演奏は、技術だけではない」などの珠玉のセリフを散りばめて、最後のドビュッシーの「月の光」に心洗われ涙させられる、とまあ、そんな作品だった。ベクトルは善なるもの美しいものを指しているから、前向きで清々しい印象が残る娯楽作だった。

<クレジット-BGM「サンタ・ルチア」ゆっくりと->
莫大な財産を遺していった祖父(ミッキー・カーチス)、祖父と一緒に焼死した従姉のルシア(相楽樹)。そして、火災から奇跡の生還を果たしたものの、やけどの後遺症がありピアニストになる夢はとても叶いそうにない主人公の遥(橋本愛)。彼女を窮地から度々救う素敵な(?)ピアノの先生岬洋介(清塚信也)。
うさんくさい叔父(山本剛史)、頼りにならない父(柳憂怜)、死んじゃう母(相築あきこ)、なんだよ、もう(苦笑)の家政婦みち子(熊谷真実)。コメディ・リリーフの新条医師(吉沢悠)と先生コンビ(戸田恵子、三ツ矢雄二)。

監督:利重剛
(2013/02/02 TOHOシネマズ高知9)

テッド

面白かった。テッドの下ネタにケラケラ笑ったり、ジョン(マーク・ウォールバーグ)との友情にホロリと来たり。
ロリー(ミラ・クニス)は、よくできたガールフレンド。
マーク・ウォールバーグ、下手に歌うのが上手い!
テッドとジョンが映画オタクなのがよかったなぁ。それでかなり笑えたと思う。私も映画でアメリカナイズされてるってことか(笑)。

ジョヴァンニ・リビシ/トム・スケリット/サム・ジョーンズ(フラッシュ・ゴードン)

TED
監督:セス・マクファーレン
(2013/01/26 TOHOシネマズ高知6)

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

数年に1本、入れ子細工のような重層構造の素晴らしい作品が生まれる。この作品もそうで、全体としては「物語」とは、現実を昇華させたものであって、美しく面白いものであるべきだということが描かれていて、その中になぜ少年は絶望せず生きのびられたかという話があり、またその中に神さまがパイ少年(スラージ・シャルマ)を生かしてくださったという物語があった。
しかも、月夜にクジラのジャンピングや、トビウオの群との遭遇、夢のような静かな水面などの美しい映像も楽しめて、ユーモアもあり抜群の面白さだった。

カナダの大学で哲学を教えているパイ(イルファン・カーン)のもとに、スランプ突入状態の小説家(レイフ・スポール)が訪ねてきて、パイ少年の物語を聴くことになるのだが、パイ少年が生まれたときから物語は始まる。だから、リチャード・パーカー(トラ)と漂流するまでの間にもフックがたくさんある。最大のフックは、パイ少年がヒンズー教徒でキリスト信者でムスリムだということだろう。八百万の神々も如来もコックリさんもいっしょくたの日本人には違和感がないかもしれないが、海外では違和感バリバリかもしれない。ただし、これも物語の一部であって現実を昇華させたものだろうから、異教徒同士の争いに心を痛めた作者が、どの宗教も面白いし、ためになるし、いいんじゃないのという思いを反映させたのかもしれない。

他にも思うところは色々あったけれど、色々あり過ぎて忘れてしまった(笑)。
ただ、この物語を語るパイさんが、バスター・キートンも真っ青のストーン・フェイスで、どうしてニコリともしないのか気に掛かってならない。

コック(ジェラール・ドパルデュー)

[追記]
なぜ少年は絶望せず生きのびられたか
『プルートで朝食を』の主人公のように、パイ少年も自分を物語の主人公にしてお話を作ることによって、困難な状況を乗り越えられたのだと思う。
自分自身を主人公に出来る。→自分を客体視できる。→状況を面白がれる(神さまに望みを託すと絶望しないでいられる)。→生き延びることができる。
「物語」のパワーは凄いと思う。

LIFE OF PI
監督:アン・リー
(2013/01/26 TOHOシネマズ高知5)

東京家族

良かった。次男の昌次(妻夫木聡)を非正規労働者にすることによって今の映画になっていると思った。また、妻とみこ(吉行和子)に先立たれ単身となった周吉(橋爪功)を、ユキちゃんを始めとする田舎のご近所さんが助け合おうとするところに希望を感じた。
東京の子どもたちも薄情なわけでなく、あくせくした時の流れに乗っかると、仕事や些事に追われ満足に親孝行できないのは無理もないような気がする。時流に乗ると、東京に限らずあんな感じになるだろうと思う。

『東京物語』と異なると思ったのは、人物が小粒になったところだ。『東京物語』の人物には風格があった。『東京家族』の人物に風格が感じられないのは必ずしも悪いことではない。例えば、『東京物語』で次男の嫁を演じた原節子が現在から見ると出来すぎに感じられるくらい格調高いのに対して、『東京家族』の次男の婚約者、間宮紀子を演じた蒼井優は、本当にいそうな女性で親しみさえ感じる。
名作のリメイクもそれなりに意義があると思った。

幸一(西村雅彦)/文子(夏川結衣)/滋子(中嶋朋子)/庫造(林家正蔵)

監督:山田洋次
(2013/01/20 TOHOシネマズ高知8)